帰り道で上級生から石を投げられた!?場面緘黙娘、先生にうまく伝えられず…親子が直面した対応の難しさ
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
次女の下校中に
最初の一報は次女からのメールでした(次女には緊急連絡用にスマートフォンを持たせています)。
それによると、次女が下校中に、後方から石を投げられたというのです。驚いた私は、仕事から帰宅後すぐに、次女から詳しく話を聞きました。すると、どうやら上級生の男の子たち3人が、次女のランドセルを狙って小石を投げてきて、それが次女のランドセルに当たったということでした。
男の子たちは「お前ほんとにやるの?」「やるやる!」とか「当たった?」「もう1回!」という感じで、笑いながら小石(のようなもの)を投げてきたようです。
次女としてはかなり恐怖を感じていたのと同時に、その時3人も人がいたのに、誰も石を投げる人を止めなかったことが悲しかったと教えてくれました。
せっかくなんとか学校に通えるようになっていたのに……
私が最初に思ったのは、「なんでこのタイミングでそんなことを……」ということでした。
次女が5年生になって、その後一時学校に行けなくなり、とてもつらい時期を過ごして、たくさん試行錯誤してようやくまた五月雨登校ながらも学校に通えるようになって安定してきたところでした。フツフツと怒りがわいてきました。
翌日は、やはり登下校の時間が怖いとのことだったので、朝は登校に付き添って、帰りは少し早めに早退することにしました。
先生に相談
次女に話を聞くと、「おおごとにはしないでほしい」「謝ってもらうとか絶対イヤだ」「先生からいろいろ聞かれるのもつらい」という感じでした。
なので、上記の次女の気持ちと、実際にあったことを簡単に連絡帳に書いて、早退のお迎えの時に先生に詳しいことを直接お伝えすることにしました。そして次女を学校に迎えに行った際、担任の先生が時間を取って話をしてくださいました。
爆速で対応
いざ、先生に今回のことに関して詳しくお伝えしようとすると、今回の事件に関しては学校のほうで対応が終わった、とのお話がありました。
対応の流れとしては、「担任の先生が次女から話を聞く→学年と下校方向からやった子が判明→その子たちと話をしたらやったことを認めて反省している」という感じだったそう。
あまりに早い対応にとてもありがたい気持ちでした。ただ、
・連絡帳には簡単に事実を書いただけだったし、場面緘黙の次女が先生に正確に情報を話すことができたかどうか
・先生に言ったことで、その子たちから何か報復されることがあるかもしれない
ということが気にかかっていました。
結局、正しい事実は伝わっていなかった
話の中で、担任の先生から「その子たちも悪気があったわけではないようなので……」との言葉がありました。
アレ?と思い、詳しく話を伺うと、その子たちが「下校時にお互いにどんぐりを投げ合って遊んでいたら、たまたま次女のほうに飛んで行って偶然当たってしまった」という感じで話したそうです。
私が次女から聞いた話と食い違いがあったため、そのことを先生にお伝えすると、「次女さん、そんなことは言ってなかったので……」と驚かれていました。
場面緘黙の次女は、学校では、頷きと首振りと簡単な単語でしか伝える手段がないので、すべてを伝えることはとても難しい。結局、正しい事実は先生には伝わっていないまま、対応が終了というかたちになってしまいました。
対応の難しさを感じた
次女は、場面緘黙のために病院に行ったり通級指導教室に通っていたりしていて、コミュニケーション面で支援や配慮が必要な子どもです。正直、もう少しだけ慎重に進めてもらえたら……という気持ちもありました。
ただ、私自身、まさかこんなに早く学校で対応していただけるとは思っていなかったのと、次女が自分で伝えることが難しいという点を考えて、私がもっと早く詳しく、この件について先生にお伝えしておけばよかった……という点で反省しました。
こういうことが起こった時のことを日頃から想定していたり、しょっちゅうこういうことが起こったり……というわけではないので、実際にそうなった時にどう対応するのが適切なのか、なかなか難しいものだな~と思いました。
その後の次女は……
その時のことを次女に聞くと、「先生にいろいろ聞かれたのに言えなくてつらかった」「怖かった」という感じで話せなかったことへのつらさ、不安や恐怖心は残っているようでした。
ただ、「先生方がちゃんと対応してくれた」という事実が、次女の安心感につながったように思います。おかげさまでその後、さらなるトラブルが起こることもなく、次女は変わりなく学校に通うことができていました!
執筆/まりまり
(監修:新美先生より)
場面緘黙のある次女さんの学校で起きたトラブルの対応について聞かせて下さりありがとうございます。
場面緘黙のお子さんは、自分の言動に対するリアクションを恐れる傾向がある方が多いです。このため、嫌なことがあってもそれを伝えることで、「おおごとになる」みたいなことを恐れて、伝えないほうがいいと思うことも多いかもしれません。とはいえ、自己主張できない学校で、お子さんが不利な状況になったり、不安な場面が増えるのは心配です。
学校でトラブルがあったとき、先生に伝える前に、先生に伝える内容、伝えた後に先生にどのようにしてほしいかなどを、具体的に本人の意向を確認したうえで、その対応についてもセットで先生にお伝えするほうが、お子さんにとっては安心かもしれません。先生にトラブルのことは知っておいてもらいたいけれど、直接相手に聞き取りなどはしてほしくないということもあるかもしれないですし、自分に直接聞き取りをされてもうまく説明できないから、保護者同席の場で聞き取りをしてほしいということもあるかもしれません。
まりまりさんの場合、先生は良かれと思ってすぐに動いてくれたようですが、次女さんにとっては先生に十分伝えられなかったり、質問されたことを怖いと感じてしまったとのこと。それでも、対応してもらえたことは安心感につながったとのことですが、もしかしたら、先生の対応次第では、不信感を抱いてしまうことになった可能性もありますね。このようなことがあるということを記事にして共有して下さりありがとうございました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。