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広島原爆忌から80年 朗読で伝える「ピカ」の恐怖 都筑区在住の岡崎弥保さん

タウンニュース

絵本を手に思いを語る岡崎さん

人類史上初めて原子爆弾が広島に投下されてから、今度の8月6日で80年になる。都筑区見花山在住で俳優・語り手として活動する岡崎弥保さんは、画家の丸木俊さんが描いた絵本『ひろしまのピカ』の朗読活動を通し、原爆・核による被害の悲惨さを訴え続けている。

非核の思い

大学で日本文学を専攻し、国語関係の編集者だった岡崎さんは、観劇の際に「心が沸き立つような」感動を覚え、演劇のワークショップに参加。劇団に入り、舞台の世界に足を踏み入れた。2010年の朗読コンクール優勝を経て、出版社から『源氏物語』や『にほんむかしばなし』などの朗読CDやオーディオブックなどの依頼が舞い込むように。以来、自らの「声」を生かした活動を展開。自ら朗読教室も主宰している。

そんな岡崎さんが「非核」の思いを強くしたのは、初めて東日本大震災の被災地を訪れたのがきっかけだった。

震災から2年半後の13年秋。陸前高田から気仙沼、南三陸、石巻、仙台と南下し、福島へ。

発災当時に比べ、確実に復興の槌音が響いていた被災地。だが、原発事故の影響で、福島だけは発災時のまま。「人の気配がなく、時が止まった異様な光景」が広がっていた。岡崎さんは肌感覚で「放射能・核とは相容れない」思いを強く持った。

岡崎さんは主宰する朗読教室で毎年、自ら企画、出演する朗読劇を開催しているが、福島を訪れた後、翌14年の演目を劇作家・井上ひさし原作の『父と暮らせば』に決めた。

開業医だった祖父は入市被爆者で、父も広島出身だったが、「広島の原爆について意識したことはなかった」という岡崎さん。公演日を広島原爆忌の8月6日に定め、原爆に翻弄された作品の主人公の背景などを知るために広島や長崎を訪れ、原爆ドームや被爆者の話などを聞いて回った。「原爆の図・丸木美術館」(埼玉県東松山市/67年開館)にも足を運び、そこで出会ったのが『ひろしまのピカ』だった。

丸木美術館での出会い

絵本の作者で、画家の丸木俊さんは、夫で同じく画家の位里さんと原爆投下直後の広島に入り、米軍占領下で原爆被害の報道が厳しい検閲を受けていた戦後の時期に『原爆の図』の連作を描いた。完成後、夫妻は作品を携え、全国で巡回展を開く。その最中、北海道で出会った被爆者の女性の話を基に、俊さんが自ら見聞きした原爆体験者の話を織り交ぜ作ったのが『ひろしまのピカ』だ。80年刊行の絵本は、14カ国語圏で翻訳され、世界20カ国以上で原爆の悲惨さを伝えてきた。

岡崎さんは同美術館の休憩室で絵本を手にし、書かれた経緯を知り、「一人でも多くの人に語り継いでいくべき物語」と感じ、絵本の朗読を思い立つ。岡崎さんの思いを知った企業からの申し出もあり、戦後70年目にあたる15年に朗読CDとして発売が決定した。

同年4月には同美術館で『父と暮らせば』の上演も決定。5月の開館記念日には『ひろしまのピカ』の記念すべき第1回目の朗読会が催された。

絵本の巻末には俊さんが絵本を書くきっかけとなった北海道での話が記されている。朗読会は最後、岡崎さんはそこを俊さんになりきり諳んじる。俊さんに導かれるように岡崎さんの「非核」の活動は続いていった。

木内さんの遺志

絵本の朗読会は、人伝手に声がかかり、都内の小学校や地元、都筑区内の地域ケアプラザなどでも催された。新型コロナの影響で20年こそ開催はなかったが、21年8月までに12回を開催。岡崎さんは、語りつくした思いもあり「一区切り」と思っていた。

その矢先、俳優の大先輩の遺志に背中を押された。木内みどりさんだ。

木内さんは晩年、反戦、反原発の活動の一つとして広島の原爆をテーマにした絵本『おこりじぞう』の朗読をライフワークとしていた。朗読会の「100回開催」を目標に活動していたが、19年に69歳で急逝。朗読会は12回目を最後に終わっていた。

22年5月に木内さんを特集した映画祭で、木内さんの思いを知った岡崎さんは、奇しくも朗読の回数が自身と同じだったことに衝撃を受けた。岡崎さんは「木内さんの遺志を受け継ごう」と『ひろしまのピカ』の「朗読100回」を目標に、再び始動する。木内さんは生前、『一人でも聞いてくれるなら、どこへでも行きます』と話していたということを知り、「自分もそのつもりで」とホームページに受付専用の場所を設けるなどさまざまな方法で依頼を受け付け。翌6月に13回目の朗読が決まると、回数は年内に20回まで増えた。朗読会は今年の7月26日時点で60回を数える。

岡崎さんの朗読会では、三田政明さんによる広島の原爆や丸木夫妻に関する解説や被爆証言を語る語り部の人たちと一緒に活動することもある。6月には、緑区在住で8月9日に長崎市で行われる平和祈念式典で「平和の誓い」を述べる被爆者代表に選ばれた西岡洋さん(93)と共演。限られた講演時間の中で、西岡さんに少しでも多くの体験を話してもらおうと、自身の朗読後に西岡さんが使うスライドを動かすサポートをするなどもした。8月11日(月・祝)には逗子で行われるイベントで、神奈川区在住で広島被爆者の松本正さん(94)との共演が決まっている。

「あなたが語り継いで」

岡崎さんが絵本の朗読を始めてから今年で10年。被爆者との交流が深まる一方で、残念ながら活動を通じて親しくなった被爆者の訃報が届くことも。朗読会の後、「被爆者はいずれ皆いなくなる。だから、あなたが語り継いで」と言われることもあるという。被爆者から託された思いを伝える朗読会。「100回」の目標は、「核がなくなるまで」に変わりつつある。「過去から核の被害を学ばないと」。

※※※

朗読会の予定などは岡崎さんのホームページで確認を。

※原爆の図・丸木美術館(埼玉県東松山市下唐子1401)は、9月28日(日)から長期休館に入る。月曜休館(月曜祝日の場合は翌日)。【電話】0493・22・3266

出版社から借りた絵本の挿絵をスライドで写しながら朗読する岡崎さん

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