長嶋茂雄氏の現役時代をセイバーメトリクスで解析、今ならメジャー間違いなし?(訂正)
肺炎のため89歳で死去
巨人の長嶋茂雄終身名誉監督が3日午前6時39分、肺炎のため、東京都内の病院で死去した。89歳だった。
多大なる功績は今さら振り返るまでもないだろう。立教大時代に東京六大学野球新記録の8本塁打を放って巨人入りし、天覧試合でのサヨナラ本塁打、日本シリーズ9連覇、引退セレモニーでの名スピーチなど枚挙にいとまがない。
巨人監督に就任してからも1994年シーズン最終戦で「10・8決戦」を制して優勝、1996年の「メークドラマ」、2000年の日本シリーズで「ON対決」など、長年にわたってプロ野球人気を牽引した。
現役時代は通算2186試合に出場し、打率.305、2471安打、444本塁打、1522打点をマークし、首位打者6回、本塁打王2回、打点王5回獲得。監督としても1034勝889敗59分け、勝率.538の成績を残し、リーグ優勝5回、日本一に2回輝いた。
今では現役時代の雄姿を知るファンも少なくなったため、改めてセイバーメトリクスで打者としての偉大さを浮き彫りにしたい。現役時代の年度別成績は下の通りとなっている。
5シーズンで「1.00」超、野村克也氏を上回るOPS
まず「OPS」から見てみよう。出塁率と長打率を足したもので、数値が高いほどチームの得点に貢献したことを示す。日本でも徐々に認知度が高くなってきたが、メジャーリーグでは最もポピュラーな指標のひとつだ。
.900以上ならAランクとされるが、長嶋氏は現役17年間の通算で.919。長嶋氏をライバル視し、通算657本塁打を放った野村克也氏でもOPSは.865だったからいかに凄い数字か分かるだろう。
特に1959、1961、1963、1964、1968年は1.00を超えており、特筆すべきシーズン。ちなみに今年6月2日現在のセ・リーグ1位は阪神・佐藤輝明の.938、パ・リーグ1位は日本ハム・レイエスの.827となっている。
長打力については「長打率」ではなく「IsoP」で見ていく。長打率はシングルヒットも含めるため純粋な長打力を測る指標とはいえず、「長打率-打率」で算出するIsoPは長打が多い打者かどうかを示す指標としてメジャーでは定着している。
長嶋氏は通算で.235。打率.341、112打点で二冠王に輝いた1963年のIsoPはキャリアハイの.316をマークしている。長嶋氏は同年37本塁打を放っており、バットに当たればオーバーフェンスと言っても過言ではないほどの大当たりだった。
近藤健介並みの選球眼、今季の佐藤輝明を超えるAB/HR
派手なパフォーマンスや444本塁打という記録面からホームランバッターのイメージが強い長嶋氏だが、最も多く獲得したタイトルは首位打者。実はアベレージヒッターでもあった。
そこで選球眼を測る「IsoD」も見てみたい。「出塁率-打率」で算出され、四死球でどれくらい出塁したかを示す指標だ。17年間の通算では.074。本塁打王と首位打者の二冠に輝いた1961年(.103)と、打率.314をマークした1964年(.119)は.100を超えている。
今年6月2日現在の規定打席到達者で.100を超えているのは12球団で楽天の浅村栄斗(.103)と小深田大翔(.102)の2人のみ。2024年だとヤクルト村上宗隆が.136、ソフトバンク近藤健介が.125を記録しており、長嶋氏はパワーだけでなく巧打者でもあったことが分かる。
「AB/HR」は本塁打を1本打つまでにかかる打数を示す指標で「打数÷本塁打数」で算出される。長嶋氏は通算で18.23。約18打数に1本の計算だ。自己最多の39本塁打を放った1968年は12.67、37本塁打の1963年は12.92を記録。今年6月2日現在では阪神・佐藤輝明の15.4がトップだから、その凄さが浮き彫りになる。
三振の少なさはオリックス時代の吉田正尚以上
長嶋氏と言えば、三振しても絵になる華やかさがあった。デビュー戦で金田正一から4打席4三振を喫し、ヘルメットを飛ばして空振りするシーンを見たことのある方も多いだろう。
「PA/K」は三振を1つとられるまでにかかる打席数を示す指標で「打席数÷三振数」で算出する。長嶋氏の通算は12.62。これがどれほど凄いことがピンとくる方は相当な野球通と言える。
今年6月2日現在の規定打席到達者で12球団トップのDeNA佐野恵太で13.00。13打席に1回しか三振していない。断っておくが48試合での数値だ。長嶋氏は2186試合で今季の佐野に匹敵するほど三振が少ない。
打率.341で首位打者に輝いた1963年のPA/Kは、なんと19.23。三振しないことで有名だったオリックス時代の吉田正尚でも2020年は16.97、2021年は17.50だった。どれほど巧みなバットコントロールをしていたのか、改めて敬意を表したくなる。
現役時代を知る人が少なくなればなるほど、派手な言動やパフォーマンス、陽気なキャラクターだけがクローズアップされるが、間違いなく歴史に残るバットマンだったことは間違いない。今ならメジャーも放っておかないだろう。
昭和のプロ野球人気を引っ張った大スター、長嶋茂雄。記録にも記憶にも残る雄姿は、永遠に語り継がれる。
※初出時、王貞治氏のIsoPに関する記載に誤りがあったため、該当箇所を削除いたしました。お詫びして訂正いたします。(6月4日18時30分)
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記事:SPAIA編集部