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『フィリップ・ジャルスキー&ティボー・ガルシア カウンターテナーとギターによるデュオ・リサイタル』フィリップ・ジャルスキー インタビュー

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(c)James Bort

当代随一の名手として絶大な人気と実力を誇るフィリップ・ジャルスキーと、数々の国際コンクールを制し、映画『マチネの終わりに』への出演でも話題を呼んだティボー・ガルシア。今秋に控えた極上のデュオの来日公演についてジャルスキーに語ってもらった。

国や時代を超えた音楽の旅

――ティボー・ガルシアさんと出会ったきっかけは?

かねてよりカウンターテナーのデイヴィッド・ダニエルズがギターのクレイグ・オグデンと収録したアルバムが好きで、いつかギターとのデュオを組んでみたいと思っていました。そんなときに、ワーナー・クラシックスの社長から注目の若いギター奏者がいるので何か一緒にやってみないかと勧められ、私のデビュー20年記念アルバム『パッション・ジャルスキー』のために収録したのが初の共演でした。ティボーは、声に合わせる直感的な能力をもち、また即興的に弾いたり、色合いを変えたりすることにも長けていて、リハーサルを始めた瞬間から気持ちよく歌えました。それがふたりのアルバム『ギターに寄す』へとつながったのです。

――リサイタルのプログラムも同アルバムに基づいていますが、選曲のコンセプトについてお聞かせください。

最初から、単一のレパートリー、単一の言語に限定するのではなく、国や時代を超えた音楽の旅にしたいと考えていました。その点ではきわめて自由で冒険的な選曲になりました。私たちはまずギターと歌のために書かれたオリジナル曲をいろいろ試してみたのですが、結果的にはアルバムにはそうした曲は入れませんでした。半分は既存の編曲、あとの半分はティボー自身が編曲したものです。ダウランドのリュート・ソング、パーセルの「ダイドーのラメント」、シューベルトの《魔王》、ロッシーニのオペラ・アリア、それからフランス語の歌。シャンソンで自分に合う曲はないかといろいろ探したなかでバルバラの《美しい九月》に出会いました。プログラムの終盤は南米を旅します。ラミレスの《アルフォンシーナと海》はティボーが勧めてくれた一曲です。そして、バリオスの《大聖堂》など、彼のギター独奏もお聴きいただけます。

ダウランド作曲:暗闇の中に私を住まわせておくれ

――これまで共演を重ねてきて、ギターとのデュオの良さをどんな点に感じますか?

自分の声のよりひそやかな部分を探究できる点ですね。オペラティックに歌うのではなく、言葉をより深く掘り下げられます。ギターはとても甘美な音色を出すことができる一方で、リズミカルにも弾ける楽器です。たしかに響きの点ではピアノほどのサポートはありませんし、音程を合わせるうえでピアノよりも難しいともいえます。でも私とティボーの強みは、たとえばギターを弾き語りするポップスターのように、ふたりでひとりの人間のように同じ音楽を奏でることができる点です。それはピアノとではできないこと。聴衆の皆さんにも普段とは違う聴き方が求められますが、それによって舞台と客席との距離もより近づくと思います。

ティボーとの共演でかけがえのない日本公演に

――最近は指揮や教育活動にも力を注いでいらっしゃいますが、近況を教えてください。

6月にはザルツブルクの聖霊降臨祭音楽祭でオペラに出演します。敬愛するチェチーリア・バルトリが芸術監督を務める音楽祭で、ヴィヴァルディの音楽から構成されたパスティッチョ(既存の曲をつなぎ合わせてつくったオペラ)です。大掛かりな新制作オペラで私が歌うのは本作が最後になるかもしれません。6月後半には、私の音楽活動25周年のコンサートをパリのシャンゼリゼ劇場で行います。アンサンブル・アルタセルセをはじめ、ジェローム・デュクロ(ピアノ)やサンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)、ティボーら親しい音楽家が集まってくれて、私は指揮して歌ってヴァイオリンとピアノを弾きます! 指揮者としては4月にモンペリエ歌劇場でモーツァルトのオペラ、『ポント王ミトリダーテ』を振りました。今後も歌手活動は続けますが、指揮者としての比重が増すでしょう。また2017年に設立した音楽学校では、毎年若手の歌手を対象に3週間のマスタークラスとコンサートを担当しています。教えるのは好きで、これからも続けていきます。

――ジャルスキーさんにとって今回が6度目の来日になります。日本の聴衆の皆さんへのメッセージをお願いします。

2008年の初来日から年月が経ちましたが、聴衆の皆さんにはもっと頻繁に訪れることができず申し訳なく思っています。私も日本に行くのを、皆さんと同じぐらい待ち遠しく思っています。今回のティボーとのリサイタルでは、何年も共演を重ねてきた成果を聴いていただけると思います。もちろん演奏は毎回異なりますが、彼は私の声、フレージングや息遣い、私が感じていることを知り尽くしているので、かけがえのない舞台を一緒につくり上げたいと願っています。

ボンファ作曲:~黒いオルフェ~より、「カーニバルの朝」

(2025年5月取材)

取材・文=後藤菜穂子(音楽ライター)

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