AIは笑いを理解できるのか? ビスケットブラザーズが感じたAIの足音と「生身の俺から出る“変さ”」の強さ
AIは人間の能力を超えるのかーーそんな論争を目にするようになって久しい。不安に感じている人も、もはや飽き飽きしている人もいるだろう。
エンジニアtype編集部では、エンジニアの方やIT業界で働く方にとって有益な情報を発信すべく、常日頃から情報収集に精を出している。読者の皆さんを飽きさせない、新しいトピックはないだろうか……とネットの海を徘徊している中で、ふと気になる一文を目にした。
「お笑い力が高いのは人間かAIか。世紀の大決戦が今始まる!」
よくよく見ると、それはよしもと幕張イオンモール劇場開催のお笑いライブ『お笑い大戦争 芸人vsAI』の説明文のようだった。
エンジニアtypeでも度々取り上げてきたように、エンターテインメントとテクノロジーの融合はすでに現実のものとなっている。“生身”で笑いと向き合っているお笑い芸人たちは、AIという存在をどう受け止めているのだろうか。
今回は、2025年6月23日に開催された本ライブに出演したキングオブコント2022王者・ビスケットブラザーズのお二人の声とともに、ライブの模様をレポートしよう。
AIの大喜利力は「深夜やったら強い」レベル?
まだ“お笑い”が人間だけのものだと思っていないかーー
ライブは、そんな不穏な問いかけで幕を開けた。出演者にはビスケットブラザーズさんを始め、レイザーラモンさん、バイク川崎バイクさん、ゆにばーすさん、メンバーさん、相席スタートの山添 寛さんといった面々が並ぶ。
オープニングのトークを聞くに、AIアプリに課金をしてネタの相談をする芸人も出てきているらしい。しかし、この日の出演者たちはAIの「お笑い力」には懐疑的。「お笑いでは負けへんぞ、というのをはっきりさせておこう」と息まく。
『芸人vsAI』の名の通り、さまざまなお笑いバトルが繰り広げられた今回のライブ。最初の対決である「大喜利5連バトル」では、出演者5人がAIと大喜利で対決して、どちらがよりウケたか会場の反応を見て勝敗を決めていった。
ここではAIの回答を抜粋して紹介しよう。
【お題】「欠陥住宅にも程があるだろ」新居の驚きの欠陥とは?
・水道を開けるとなぜかカラフルな砂糖漬けの野菜が流れてくる
・庭の巨大なキノコが毎晩不思議な音を奏でている
・バスタブに浮かぶ泡が自分の思考を読み取っている気がしてくる
【お題】結婚披露宴で「この新郎新婦、全然祝福できない」その理由は?
・新郎が人間じゃなくてどう見てもマネキン
・披露宴会場が「別れさせ屋」の事務所
・「誓いますか?」の問いに「課金次第で」と答えた
……いかがだろうか? AIの回答を見た芸人陣は「こねくり回しすぎてる」「でもこいつ深夜やったら強いぞ」「面白くはないけどセンスはある」と口々にコメントした。
対決はその後も、与えられたアイテムを使ってボケていく「モノボケタイマンバトル」、レイザーラモンRGさんの持ち芸の“あるある”を考える「あるある無記名バトル」と続いた。
芸人陣からとんでもない下ネタが飛び出したり、スベったのでは? というシーンでも「よっしゃー!」と声を出して力技で盛り立てたり。「同窓会あるある」というお題に対してAIから「元キャプテン、ハゲがち」という、極めて“人間ぽさ”のある回答が飛び出して笑いをさらったり……。
それぞれ異なる戦法で観客を楽しませ、なかなかの接戦のうちに幕を閉じた『お笑い大戦争 芸人vsAI』。果たして芸人陣は、AIとの対決を通じて何を感じたのだろうか。
ライブ終了直後、ビスケットブラザーズの二人に話を聞いた。
どんな技術でも、丁寧に取り入れて笑いにしていきたい
ビスケットブラザーズ
(写真左から)きんさん、原田泰雅さん
共にNSC大阪校に33期生として入学。在学中に出会い、2011年4月にコンビを結成。2020年に「第9回ytv漫才新人賞」で優勝、「第5回 上方漫才協会大賞」で文芸部門賞を受賞。21年「第51回NHK上方漫才コンテスト」優勝。22年には「キングオブコント2022」で優勝し、第15代王者の座に輝いた
■X:@bisbros_mg(コンビ公式)、@ABARE_kin(きんさん)、@bb_harada(原田さん)
■Instagram:bisbrager(コンビ公式)、biscuitbrotherskin(きんさん)
■YouTube:ビスケットブラザーズチャンネル
編集部:まずは先ほどのライブの感想をお聞かせください。AIとのお笑いバトルを終えて、いかがですか?
きんさん:AIの回答がちゃんとウケてて、ヤバいなと思いましたね。実際、僕は「あるある無記名バトル」で負けちゃいましたし。
原田さん:2年くらい前にも似た企画をやったことがあるんですけど、その時はまだAIが出してくる文章が硬くて、お笑いには向かない印象だったんですよ。でも今日の回答を見てると、かなりお笑いに寄ってきているなって。
めちゃくちゃ急速にAIが近づいてきている足音が聞こえてくる感じがして、怖さがありましたね。
編集部:お二人は普段のネタ作りや「お笑い芸人」としての仕事の中でAIを使うことはありますか?
原田さん:仕事ではないなあ。他のクリエーターが生成した画像を見て楽しんでるくらいです。
きんさん:僕も動画生成くらいですね。写真を読み込ませると、自分たちが歌っているような動画が一瞬で作れたりするんで。
編集部:無粋な質問だなと思いつつ聞いちゃうのですが、ネタ作りでAIを使っていない理由を聞かせていただいてもいいですか?
原田さん:僕らのネタに関しては、わざと「変にしてる」みたいな部分が多いんですよね。人間っぽさを出す、というか。芸人仲間からですら「そのセリフ何なん?」って言われるような言葉を入れてみたり。
人間にもあるじゃないですか、「なんでこんなこと言ってんだろ」ってことを口にしちゃうこととか。
編集部:確かにあるかも。
原田さん:そういう感覚的なものを重視してるから、今の段階ではAIは使ってないです。
編集部:今の段階では、ということは、今後はまだ分からない……?
原田さん:ネタそのものじゃなくて、一部分だったら使えそうだなとも思ってるんですよね。
最近やった単独ライブ用に書いたネタで「ビジネス用語をたくさん言う」ってくだりがあったんですけど、言葉を全然知らないから書けなかったんですよ。
結局そこの部分だけ作家さんに書いてもらったんですけど、AIに頼るのもアリかもしれないですね。
編集部:部分的に代替していく、というのはさまざまな職種で進んでいることでもありますしね。
原田さん:あとは、コントのセットとか衣装を作るってなったときに、ある程度のイメージを伝えるだけで絵に起こして設計してもらえたら便利ですね。まだ無いものを作家さんとかスタッフの方に伝えるときに、意思疎通がしやすくなるんで。
きんさん:それはすでにできるんやろなあ。
僕は、ドラえもんの秘密道具みたいな話ですけど、話した言葉がリアルタイムで海外の言葉に翻訳されるピンマイクがあったら最強やなと思うんですよね。僕らが言語を覚えてコントをやるよりも、AIに任せた方が早いんちゃうかって。
原田さん:セリフを噛んだときに「嚙んどるがな」ってのが伝わるようなとこまで表現してくれたらええな。
編集部:そうやって“AI化”が進んでいくと、「人間の価値とは」といった議論が起こりやすいと思うのですが、そこについてはどう思いますか?
原田さん:例えば、僕という人間の能力が全部AI化されて、ピッタリ同じ中身になる……っていう未来はそう遠くないかもしれないですけど、それは僕ではないと思うんですよね。正確に言うと、33年間生きてきた原田ではない。
「風呂に入らへん」とか「公園で寝てた」とか、「こいつありえへんやろ」っていう要素は、生まれてからの33年間にあるものだから。生きてきた過程って、ある程度見た目にも出ると思うし。
きんさん:僕もほぼ同じ感覚ですね。例えば企画で罰ゲームを受けることになったとして、AIに「嫌がっていた方がウケる」って学習させてリアクションをとらせることは、多分もうできますよね。でも、僕らはほんまにイヤやから嫌がっているんで、そういう感情の部分は、まだ生身で戦えるんやないかなと思います。
編集部:AIからは離れますが、お二人はネタ中にファンやライトといったガジェットを使っていますよね。今後も、そういった「モノ」を使ったネタはやっていきますか?
原田さん:いろいろ考えてるものはあります。
きんさん:水槽のやつ?
原田さん:水槽もそうやけど、ゴムのやつとか。
編集部:(水槽も気になるけど)ゴム……?
原田さん:もうテクノロジーとかの話ではないですけど。いろんな方向からビンビンに張り巡らせたゴムに僕が絡まって、それをきんが弾くと同時に僕の体がバインバインバインって跳ね回ったらいいなあって思ったんですよね。
きんさん:それができたら世界回れるよな。
原田さん:提案はしてみたんですけど、無理ちゃうかって。
編集部:実現するかもしれないその時のために、記事には書かないでおきますか?
原田さん:大丈夫です。想像を超えるんで。
きんさん:絶対超えるんで。
原田さん:きっとモノも技術もどんどん新しいものが生まれていくと思うんで、それは取り入れていきたいですね。
すぐ飛びつくというよりも、新しい技術をちゃんと見て、丁寧にやっていきたいです。
YouTube紹介『ビスケットブラザーズチャンネル』
人気のネタはもちろんのこと、毎週火曜日に更新される「バースデースーツラジオ」や、いろいろな食べ物を二人が「食べる」シリーズなど。さまざまな企画動画を公開中のビスケットブラザーズの公式チャンネルだ。
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撮影/竹井俊晴 取材・文・編集/秋元 祐香里(編集部)