【横須賀市】横須賀こころの電話 「厳しい運営」維持困難 物価上昇で膨らむ事業費
心に不安や悩みを抱える人の相談を受ける電話ボランティア「横須賀こころの電話」の運営が岐路に立たされている。横須賀市からの委託を受けて365日、年中無休で対応しているが、昨今の物価や職員人件費の上昇などにより維持運営が困難な状況となっている。その一方で、横須賀市が生成AIを活用した傾聴相談サービスの実証実験に着手したこともあり、自動化できる業務と人が担うべき業務との線引きも進みそうだ。
「横須賀こころの電話」は、2000年代はじめに市内の自殺者数が高い水準で推移したことを受け、自殺予防の必要性を訴えた藤野英明市議の提案で設立された。運営はNPO法人横須賀こころの電話に委託され、以来20年超の実績がある。
活動は約50人の市民ボランティアが支えており、現在は平日の夕方から深夜、休日は朝から深夜まで無料で電話相談に応じている。年間5千件にのぼる相談内容は「寂しいから話を聞いてほしい」というものから、家族や職場での人間関係の悩みなど多岐にわたる。近年の傾向として、SNSでの誹謗中傷で傷つき、心の救いを求めてくる若者が増えているという。
運営状況の悪化は近年の物価や人件費の高騰によるものだ。「収益源を持たず、市の委託費は開設当初からほとんど変わっていない」と同法人の中島直行理事長。認定NPO法人ではないことから、寄付をしても税制上の優遇措置がないため集まりにくいという構造的な問題も抱えている。
現在は窮状を訴える呼びかけをホームページに掲載。1口1千円の賛助会員を募っている。苦しい状況を打開するためにグッズを制作して販売することなども検討。事業運営を安定化させ、自殺防止をはじめとする市民の心の健康づくりに寄与していく考えだ。
今後はAIによる相談の進化が予想されるが、中島理事長は「デジタル技術に馴染めない人や解決ではなく『人間同士の対話』を求める人は一定数存在する。そうした人たちの受け皿になっていく」と思いを語った。
AI活用の傾聴相談
行政サービスのDX化を推進している横須賀市は、AI技術を用いた悩み相談に特化した傾聴サービスの実証実験に乗り出した。この分野で高い技術力を持つ民間会社の「ZIAI」社と10月9日に連携協定を締結。24時間365日いつでも相談可能な体制を整えるほか、英語対応をできるようにする。自治体が取り組む傾聴相談の多言語化は全国初。待ち時間なしで受け答えできる点もメリットとしている。
相談への回答は臨床心理士や言語学者等が監修し、必要に応じて職員によるサポートへとつなげる仕組みを設ける。子育ての悩みを抱える育児世代や児童や生徒などの利用も想定。市は相談データを蓄積することで埋もれがちな市民ニーズを可視化させていく。横須賀市LINE公式アカウントの中に相談メニューが追加され、誰でも利用できる。実証は12月まで。