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「授業はどこで受けてもOK」「担任は生徒が指名」 常識破りの中学校が「学校の当たり前」をすべてなくした理由 【学びの多様化学校】岐阜市立草潤中学校

コクリコ

不登校の児童・生徒の新たな学びの場「学びの多様化学校」について。東海地方初の学びの多様化学校「岐阜市立草潤中学校」を取材。全3回の2回目。

【▶画像を見る】不登校の息子への思いをラップで表現する「おかんラッパー」

「学びの多様化学校」2025年4月には全国で58校が設置されました。その一つ、東海地方で初めて開校した岐阜市立草潤中学校は「学校らしくない学校」がコンセプトです。

制服も校則もなく、担任の先生まで自分で選べるというユニークな教育の現場を取材。そこから見えてきたのは、子どもたちが自ら学び、休み、居場所すらも決めるという、まったく新しい学校の姿でした。

学校の“当たり前”に苦しんでいる子どもたちがいた

──石榑(いしぐれ)千恵先生は、「岐阜市立草潤中学校」の校長を2025年度から務められています。開校準備を進める段階で、「学校らしくない学校」をコンセプトに掲げたとお聞きしました。そこにはどのような経緯があったのでしょうか。

石榑(いしぐれ)千恵先生(以下、石榑先生):開校準備は、岐阜市教育委員会を中心に、京都大学の塩瀬隆之先生はじめ、小児科の先生、フリースクール関係者、自立支援教室や通信高校の先生など、多くの方に議論に加わっていただき進めていきました。

25年度より校長を務める石榑千恵先生。生徒一人ひとりの「今できていること」や「強み」に目を向けることを大切にしている。  写真提供:草潤中学校

石榑先生:その中で、不登校経験があるお子さんや、保護者の方にもお話をお聞きしたのですが、学校に行かなくなった理由、行けなくなった理由は本当にさまざまでした。

友人関係や、家庭環境など、個別に対応しなくてはいけない課題がある一方、「毎日登校しなくてはいけないのがつらかった」「自分のペースで学習できなかった」「担任の先生と合わなかった」「何をするにも全員一緒が苦痛だった」「気持ちを落ち着ける場所がなかった」など、今までの学校の“当たり前”を変えることで改善できることもたくさんあることがわかったんです。

子どもが学校に合わせるのではなく、学校が子どもに合わせればいい

石榑先生:ならば、子どもが学校に合わせるのではなく、学校が子どもたち一人ひとりに合わせればいい、と。

「制服も校則もなくそう」「担任も授業を受ける場所も、お弁当を食べる場所も、生徒自身が決められるようにしよう」と、“学校らしくない学校”づくりが始まりました。

「トイレが古くて嫌だった」という声もあり、トイレだけはお金をかけて改修しましたが、市内の学校にお勤めの校務員の方や地域の職人さんたちに手伝っていただき、校内の壁やドア等の塗装、廃材を活用した教室の看板などすべて手作りでぬくもりを感じる空間になっています。

また、自治会の方が敷地内の清掃、樹木の伐採、花壇の整備に協力してくださいました。備品については、企業や地域の方から寄付していただいたものもあります。

教室の名前も1年は「森」、2年は「川」、3年は「海」に。職員室は「スタッフルーム」、校長室は「マネジメントオフィス」にするなど、「学校らしさ」をできるだけ取り除きました。

信頼できる担任を自分で選ぶ

──確かに、時間割りも教室も担任の先生も、学校はあらかじめ決められていることばかりですよね。先ほどお話にありました“担任の先生を、生徒が決められる”というのはどういうことでしょうか?

石榑先生:現在(2025年9月)、1年生が13名、2年生が17名、3年生が20名います。各学年3~4名先生がいるのですが、自分に合った先生を4月から1ヵ月ほどかけて一人選んでもらうようにしています。「落ち着いて話したい」「楽しいことを一緒に考えたい」など、生徒が担任に求めることは一人ひとり違いますから。

担任とは朝の「ウォームアップ」と帰りの「クールダウン」の時間に、個別で雑談を交えながら学習予定を組んだり、振り返りをするのですが、信頼し安心して話せる相手と対話を重ねることは子どもたちにとても大切だと考えています。

もちろん、担任だからと言って一人で抱え込むことはありません。教科担当の先生や、スクールカウンセラー、“心の校医”である小児科の先生、相談員や支援員など、たくさんの大人が見守り、子どもたちにかかわる体制を整えています。

学校内でも自分の居場所は自分で選ぶ

──授業を受ける場所も自分で決められるということですが、どういうことでしょうか?

石榑先生:授業はすべてオンライン配信しているので、自宅からでも校内のどこからでも受けられるようになっています。ただ、誰がどこにいるかわかるようにしておきたいので、教室以外の場所で授業を受ける場合は、「イマここボード」という居場所を示すボードに自分のネームプレートを貼ってもらうようにしています。

生徒の居場所を示す「イマここボード」。どこで授業を受けるのか、休んでいるのか、自分の居場所を決めてネームプレートを貼っておく。授業中でも自由に移動できる。  写真提供:草潤中学校

石榑先生:一人のほうが集中できる子は個別に仕切られたEラーニングルームを選んでもいいし、開放している校長室や職員室でも、どこで授業を受けてもいい。

授業中に移動しても構わないので、疲れるとテントやハンモックがある図書室に休憩しに行く子や、逆に個別に学習していた子が「面白そう」と教室に向かったり、数学の問題でつまずいた子が、小学校の内容を復習するためにギフティッドルームという個別指導を受けられる部屋に移動する姿も見られます。

個別に仕切られているため集中し、落ち着いて勉強できるEラーニングルーム。どこにいても教員が見守っている。  写真提供:草潤中学校

石榑先生:各教室の授業では、窓際が好きな生徒は自分で窓際に机と椅子を移動していますし、友だちと席を並べたい生徒はそうしています。

椅子と机がキャスター付きで動かしやすくなっているので、質問があれば座ったまま先生のところに移動するなど、自由に居場所を選べるようにしています。

教室内でも自由に居場所を変えられるよう、椅子と机にはキャスターがついている。台形の机はグループワークに最適。  写真提供:草潤中学校

「やりたいこと」「できること」にフォーカスする

──空間が変わると気持ちが切り替わったり、もう少しだけがんばろうという気持ちになりますよね。カリキュラムはどんな工夫をされているのでしょうか?

石榑先生:登校時間は、朝が苦手な生徒や、同じ地域の学校に通っている生徒と会いたくない生徒に考慮し、少し遅めの9時半に設定しました。

登校したらまずはウォームアップの時間と、午前中2時間、午後2時間は各教科の学習時間を設けています。通常の中学校が年間1015時間が標準時数として決められているのに対し、本校は770時間というゆとりのある設計にしています。

放課後は「マイタイム」という時間を設け、教員の支援や見守りの下、陶芸や音楽、クッキングなど、それぞれが興味のあることに取り組んでいます。

「マイスタディ」という5教科の学び直しの時間もあるので、先生に教わりながら小学校の勉強をやり直したり、受験勉強をしている子たちもいます。

マイタイムもマイスタディも開校当初はなかったのですが、生徒からの要望で生まれました。私たち教員も、子どもたちの苦手なことやできないことにばかり目を向けるのではなく、できることや得意なこと、好きなことにフォーカスして伸ばしていこうと話しています。

「学校行事」も生徒の発案から

──子どもたち自身からやりたい、学びたい気持ちが出てくるのは、素晴らしいことですよね。

石榑先生:そうなんです。行事もあらかじめ決まっているものは最低限で、生徒の発案や企画で実現するものが多いんです。今年は音楽が好きな子が多く、地域の方たちを呼んでフェスをやりたいと意気込んでいます。

──参加したくないという子もいませんか?

石榑先生:もちろんいます。先日もソフトボール大会をしたのですが、守りだけ参加する子や攻撃だけ参加する子、応援に徹する子もいれば、教室から眺めているだけの子もいました。

オンラインで見学している子や、全くかかわらない子もいます。参加する・しないも生徒自身が決定します。

2024年度に行われたスポーツフェスティバル。生徒の発案で開催が決まり、企画や運営も生徒主導で行われた。当日は保護者も参加して大盛り上がりに。  写真提供:草潤中学校

自己選択の積み重ねが自己肯定感を育む

──あらゆる面で生徒自身が選択し、決定できることを大切にされているんですね。

石榑先生:はい、自分らしくいられるための選択・決定できることが自己肯定感を育むことにもつながると考えています。

マイタイムや総合的な学習の時間に地域の方を講師としてお呼びしたり、生徒たちが地域の活動に参加したりする機会も多いのですが、いろんな方から「学校が元気になってきた」と声をいただきます。

自己決定を繰り返す中で、「自分がどうしたいか」「どうありたいか」に向き合い、それによって自信や主体性の育成につながっています。さらに、持っている力を誰かのために使っていきたいという思いも生まれてきているのを感じます。

4月の入学当初、「学校はつまらない、何もやる気がない」と話していた子がいたんですね。でも焼き菓子作りには興味があるというので、音楽、美術、技術・家庭の中で好きなことを学べる「セルフデザイン」や「マイタイム」などの時間にお菓子作りをしたらどうかと勧めてみたんです。

すると、みんなに「おいしい」と喜んでもらったのがきっかけで、地域の方たちにも食べてもらいたいと、すごく意欲的になってきています。私たちも、その願いをかなえるためにどんなサポートが必要か、一緒に考えているところです。

先生や職員はじめ、たくさんの大人に応援されているという実感が子どもたちの力になっているのかなとも思います。

──安心できる居場所に信頼できる大人がいて、自分で選択・決定できる環境があれば、子どもはちゃんと伸びていくんですね。

石榑先生:もちろん仕組みや制度の問題だけではないんですよね。こういう環境があっても通えない子はいます。50人いたら50人違うわけなので、できる限りオーダーメイドで、子どもたちのありのままを受け入れていけたらと思っています。

───◆─────◆───


草潤中学校では、自己選択・自己決定の機会を保障することで、子どもたちは自信や主体性を取り戻し、自ら成長している様子がうかがえました。3回目は、対話を通じて子どもたちに寄り添う、大分県の「くす若草小中学校」の様子をお伝えします。

取材・文/北京子

岐阜市立草潤中学校
住所:岐阜県岐阜市金宝町4‐1
電話:058‐263‐3801

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