唯一無二の馬券師・弥永明郎『伝授』第6回 予想において騎手をどう考えるかを伝授
もし馬だけで“かけっこ”をしたら、一番強い馬が勝つ。
だけど、競馬は騎手がまたがってレースをする。そのため、ジョッキーの判断で導きながら馬の能力を引き出すことになる。
今回は俺なりのジョッキーに対する考え方について書いていきたいと思う。
・「馬7、騎手3」という格言は0点
読者の皆さんは「馬7、騎手3」という格言を聞いたことがないだろうか?
これは競馬で勝つには馬の能力が7割で、騎手の技術が3割という意味で言われているが、俺から言わせればこの格言は0点だ。
俺の考えは「馬が10、騎手の判断が10」。
これはどういうことかというと、まず馬の10について。勝ったら100%馬の能力なので、この割合の中に俗にいう“騎手の腕”をいれることがおかしい。
一方、騎手の判断というのは馬の力で勝たせてもらうから、馬にとって余計な邪魔をしないで「このレースはこういう流れになるだろうから、ここで仕掛けた」とか「馬群に包まれる不利がないように、わざと一馬身出遅れさせて外からレースを運んだ」とか“判断”をする。そしてミスなく判断できて上手くいった時に、馬の10の力を引き出すことができる。
騎手の判断ミスは馬の能力をマイナスにすることに繋がるので、仮に力が100の馬がいたとして、騎手が判断を見誤って90のパフォーマンスしか出せなかった時に他の馬に勝たれてしまう。
少し厳しい言い方になってしまうが、騎手はマイナス要因とも考えられる。だけど、そもそも操縦する人がいないと競馬が成り立たないし、馬を勝利に導くのもまたジョッキーだ。
・「騎手の技術」とは何か?
例えば年間1、2勝のジョッキーが、トップジョッキーのルメール騎手と同じ馬に乗ったらどのくらい勝つことができるか? もしかしたら、ルメール騎手以上に勝つかもしれない。「そんなことないよ」と言う人が大半かもしれないけど、俺は一概にはそうとは思わない。
では、なぜルメール騎手などのトップジョッキーと、年間1、2勝のジョッキーとで差が出てしまうのか?
それはレースが終わって、下手に乗ってしまったというだけの話。判断ミスで狭いところに突っ込んでいって抜け出せなかったり、前が開いているのに入って行かなかったり、そういうことが多いと依頼されなくなる。上手い下手は人が勝手に決めているだけで、騎手にとって大事な“判断を見誤らないか”は慣れの部分も大きい。でも依頼が少ないと慣れる機会すらない。
また年間1、2勝のジョッキーが所属している厩舎は、それほど勝ち鞍がないという場合も少なくない。
そして明らかに勝利数に差がついてくると、オーナー側としても「ルメール騎手が乗ってくれたら、川田騎手が乗ってくれたら勝てるのでは?」と期待値が上がる。だけど勝ったことがない騎手が乗るとなったら、そこからやる気がなくなってしまう。
俺はジョッキーだけで買うということはないけど、確率論で上位のジョッキーを買うというのはありなんじゃないか。
・乗り替わりについて
乗り替わりに関しては、プラスになる場合とマイナスになる場合がある。
俺は上位の騎手というだけで馬券を買うことはないけど、このジョッキーはこういう性格で、こういう風に乗るからというのは気にする。
俺はそれぞれの馬に対して持っている自分なりの感覚があって、この馬なら馬の気分に合わせて楽に行ってほしいとか、この馬なら道中は力で抑え込んで折り合う方が合っているとか考えている。
この馬はこういう風に乗って欲しいと思っているなか、いざ乗るジョッキーのタイプが違うと「今回はちょっと手が合いそうもないな」と思う。例えば、今は調教師となった中舘師の騎手時代だと逃げがほとんどだから、終い勝負が良い馬だと馬の持ち味を引き出せないんじゃないかとかいう風にね。
なので、乗り替わりの時に俺が考える馬のイメージと騎手の乗り方が一致する場合なら「お、良いな!」と思う。
連続騎乗でずっと乗っていた方が安心というのもあるが、その反面ずっと乗っているからこそ見誤っているケースもあって、リフレッシュで違う騎手が乗って結果が出る場合もあるので一概にどっちが良いとは言えない。
・自分がオーナーなら乗ってほしいのは?
もし俺がオーナーなら、普段から調教を付けているジョッキーに乗ってもらいたいと思う。毎日乗っていてその馬のことを熟知しているので、テン乗りのジョッキーと比べてそれがアドバンテージになる。普段の調教から乗ってくれているなら、年間1、2勝でも全然構わないし、むしろ馬券買うならそっちの方が配当の妙味があるから良い。
今回は騎手の話をしたので、次回はジョッキーが背負う斤量について俺なりの見解を述べたい。
弥永 明郎
(やなが・あきお)
唯一無二の馬券師。デイリースポーツ「馬サブロー」の美浦取材班・看板記者。グリーンチャンネル中央競馬中継のパドック解説でもお馴染み。狙った穴馬は決して逃さない「競馬界のゴルゴ13」。業界歴は長く、騎手、厩舎関係者、馬主など人脈も幅広い。