日本では珍しい浮遊性の食虫植物<ムジナモ> 埼玉県羽生市で自然繁殖が確認される!
現代の日本では自生していない水生植物「ムジナモ」が、埼玉県羽生市で自然繁殖していることが確認されました。
これにより、埼玉県は県のレッドデータブックの「野生絶滅」から「絶滅危惧種」に改める方針とのことです。県によると、「野生絶滅」とされた動植物が「絶滅危惧種」に移行するのは大変珍しい事例だといいます。
ムジナモとは
ムジナモ(Aldrovanda vesiculosa)はモウセンゴケ科ムジナモ属に分類される1属1種の水草です。
一見するとただの水草のように見えますが、日本では珍しい浮遊性の食虫植物として知られています。
本種は二枚貝にような形に変化した葉(捕食葉)を持ち、捕食葉表面の感覚毛にミジンコなどの小型生物が触れると葉が閉じて獲物を捕獲。消化腺毛から分泌される消化酵素で獲物を分解し吸収毛で分解物を吸収します。
また、ムジナモという和名は1890年に東京・江戸川の用水路で発見した牧野富太郎博士により命名されており、本種の葉の形が「ムジナ(アナグマ)の尻尾」に似ていることに由来します。
かつて世界中に生息していたムジナモ
日本国内では珍しい食虫植物として知られるムジナモですが、日本国内にのみ生息するわけではありません。世界各地で記録があり、遺伝的多様性が非常に低いことが分かっています。
本種はヨーロッパ、アフリカ、アジア、オーストラリアを原産とする植物であり、かつては世界中に生息していたものの、生息環境の悪化により個体数が激減。ほとんどの地域で絶滅し、現在、世界で50カ所しか残っていないとされています。
日本でも1890年の牧野富太郎博士の発見以降、国内の複数個所で記録されますが、高度経済成長期の環境変化により1960年代までにほぼ消失。1964年頃、豊富に生存していた宝蔵寺沼のムジナモも1966年8月21日の台風によりほとんどのムジナモが流出してしまいました。
現在、環境省のレッドリストで絶滅危惧IA類に分類されています。
今も残るムジナモの自生地
1960年代に1度、日本の自生地から消失したムジナモですが、全く見られなくなった訳ではありません。
本種は愛好家による栽培が行われているほか、埼玉県羽生市と奈良県では消失前のムジナモを再導入し自生地の保全を行っています。
両県は現代でもムジナモが見られる貴重な地域であり、特に埼玉県の「宝蔵寺沼ムジナモ自生地」は国指定の天然記念物(1966年指定)として有名です。
また、2023年に石川県内のため池から発見されたムジナモは、現地環境調査と遺伝子解析により、人為導入に由来しない国内で唯一の個体群と考えられています。
ムジナモはまだ生存している?
国指定の天然記念物ともなっている「宝蔵寺沼ムジナモ自生地」。
この地域ではムジナモの保全が長年行われており、羽生市やムジナモ保存会は15年以上ムジナモの繁殖や天敵であるウシガエルの駆除を行い、ムジナモの自生地の整備を行ってきました。
その結果、現在は110万株を超えるほど増殖し、自然の状態で繁殖していることが確認されたのです。
今年3月に更新される埼玉県のレッドデータでは、ムジナモを「野生絶滅」から「絶滅危惧種」に移行する方針といいます。
貴重なムジナモの自生地
かつて、世界各地に自生していたムジナモですが、環境の悪化により現代は自生している個体はほとんどいません。
現在、知られている自生地を守るためにも引き続き研究・調査が望まれます。
(サカナト編集部)