「“自分一人しか考えていない”孤独はつらいから」漫才師と20歳の起業家が向き合う北方領土
8月28日は、ソ連軍が北方領土の択捉島に侵攻を開始した日です。
あの日から80年。
いまも北方領土は、ロシアによる実効支配が続いていますが、この問題を風化させまいと奮闘するお笑い芸人と若き社長をカメラが追いました。
連載「じぶんごとニュース」
北海道出身のお笑いコンビ、アップダウンです。
M-1グランプリやキングオブコントでは、それぞれ準決勝進出4回の実力派。
彼らが今、披露するのが「北方領土漫才」です。
漫才は約40分間。
「何の話してんだ!話が“それ”てるから!」
「ソ連なのに?」
「くだらねぇんだよ!」
前半は軽妙な掛け合いで、「くじら漁」など島に独自の文化があったことをコミカルに紹介します。
「すみません。ここはどちらでしょうか?」
「ここはなぁ、択捉島の年萌というところだ。捕鯨基地なんだ」
「捕鯨!鯨ですか?あ、船が帰ってきたようですよ」
「汽笛を聞き逃すな!」
「汽笛、どういうことですか?」
「実はな、汽笛が合図になっていて、鯨が獲れていたら3回、獲れていなかったら1回鳴ることになっている。ボー…」
「今、汽笛が鳴りました!
「(ボー…)としている場合じゃねえからな」
「喋っていたんかいお前!」
漫才をつくるきっかけは、元島民らでつくる千島連盟の職員のアイディアでした。
千島歯舞諸島居住者連盟の森田多江子さんは「北海道で原爆伝承漫才というのをニュースで見て、お笑いという形で伝えるっていうのがすごく斬新と思った」と話します。
一方、芸人にとっては、笑いを生み出しにくい社会派ネタ。
それでも挑む理由を、竹森さんは、ステージの上で明かしました。
悲しみを入れながら笑いをもっていく
「鹿児島の知覧に特攻隊の平和会館があるから行かないか」と知人に誘われたという竹森さん。
「約1000人の特攻隊の顔写真が展示されています。リアルな写真を見て、これは映画やドラマじゃないんだと。そこから何か役に立つ、何かを伝えるエンターテインメントというのを真剣にがっちりやろうと思った」
北方領土漫才の後半は、芝居や朗読も取り入れて、元島民が強いられたソ連軍の支配をシリアスに表現します。
「村の食堂にパンを焼く窯がないといって、日本人の火葬場の炉を壊し、そのレンガを持ち出してパンを焼く窯を作ってしまった。日本人の憤りは大変なものでしたが、その窯で焼いたパンを食べなければ、生きていけない状況でした」
そして、待ちに待った帰還、引揚船がやってきました。
歯舞群島元島民の男性は「最後に涙ぐんだよ。笑いを悲しみを入れながら持っていくっていうところが素晴らしい。簡単なもんじゃないですよ」と話してくれました。
「自分一人しか考えていない」孤独はつらいから
竹森さんは「人ってやっぱり孤独になることが一番つらいと思う」と話します。
「北方領土問題がどんどん風化していって、自分一人しかこういうこと考えていないんじゃないか、社会や周りの人たちはもう何も考えてくれてないんじゃないかって思うことこそが、つらいんだなってことがわかった」
若い人は運動が続かなくなっちゃうから
一方で、北方領土問題の継承に独自のアプローチで取り組む人もいます。
元島民3世の久保歩夢さんは、返還運動を続けるために、20歳で自ら会社を立ち上げました。
久保さんは「僕みたいな若い人たちは、運動が続かなくなってしまう」と話します。
「お金もプラスでかかっちゃうのでそういう関係でなかなか続けられなくて。北方領土問題で続けられるような事業、仕事として関わっていけるようにしないといけない」
久保さんが返還運動に本気で取り組むきっかけになったのは、2019年、ビザなし交流で訪れた択捉島の景色です。
真新しいカラフルな住宅に舗装された道路。
実効支配によって、確実に”ロシア化”が進んでいることに大きなショックを受けたのです。
一方で、返還運動に漂う諦めムードに、強い危機感を感じています。
「みんなの前でしゃべらなきゃいけなかったり、テレビの取材もあったり…そういうのがいやに思う人が多くなっていて、それは非常にまずいこと。これからの領土問題を絶対風化させたらダメだと思うので、それはかなりやばいなと感じている」
仕事として請け負った配信で見えたもの
先週、根室で開かれた北方領土のフォーラム。
久保さんはその様子をYouTubeで配信していました。
返還運動関連での初めての、仕事として請け負った配信です。
講師を務めるのは、全盲の祖父・幸雄さんら、久保さんの家族。
90歳になる幸雄さんは参加者にこう語りかけます。
「私の子どものころは、幸いソ連軍にいじめられはしなかったのですが、慣れない生活には大人たちは苦痛であったと思います。子どもでもこの2年間は長く感じた」
講演のあとに会場から配信したのが、アップダウンの北方領土漫才です。
久保さんが見たのは、このときが初めてでした。
「エンターテイメントとして活動されているのは、領土問題にとっても、そして僕にとってもすごく勉強になりましたし、すごく良かった」
今を生きる世代が変わっていく中で、北方領土問題を風化させず、多くの人たちに伝えるには、どうすればいいのか。
それは、私たちの未来を考えることでもあります。
連載「じぶんごとニュース」
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2025年8月27日)の情報に基づきます。