子どもの【読書感想文嫌い】この夏休みに克服 「親子インタビュー式読書感想文」で言語化能力アップ!〔文章力養成講座の専門家が伝授〕
文章力養成講座「カキマクル」のゆか先生こと松嶋有香さんが指導している、「親子インタビュー式読書感想文」は2つの効果があります。1つは親子のコミュニケーションの再構築、そしてもう1つが言語化能力のアップ。読書感想文を書くとなぜ言語化能力が上がるのか、ゆか先生が解説します。
「頭がいいから中学受験する」はもう古い! 「勉強が苦手な子」こそ輝く場所がある“新しい中受”とは「やばい、すごいにも200種類あんねん!」を合い言葉に、30年間文章作成術を教えてきたベテランのゆか先生こと松嶋有香さん。
ゆか先生は、「自分の言葉を持たない子は、大人になってからもっと困る」と、学校の勉強だけではなく人生という長い目から見た「国語力の低下」に警鐘を鳴らし、自身が主宰する文章力養成講座「カキマクル」で、親子で話し合いながら読書感想文を作る「親子インタビュー式読書感想文」の指導をしています。
実は「親子インタビュー式読書感想文」に取り組むと、宿題が完成するほかにうれしい2つの効果があります。1つ目の「親子のコミュニケーションの再構築」に続き、2つ目の効果「言語化能力のアップ」について、解説します。
自分の気持ちをちゃんと言葉にするのは大人でも難しい
──うまく言葉にできない気持ちを「モヤモヤする」と表現することがありますが、大人でも「自分が今、なにを考えているのか」、「どう感じているか」よくわからないこともあります。
自分の気持ちもわからないのに他人の気持ち、ましてや本の中の人の気持ちなんてわからないと思ってしまうのですが、それでも「読書」を勧める理由はなんですか?
ゆか先生:『ぼくの色、見つけた!』がとてもわかりやすい例なので、それで説明しましょう。
『ぼくの色、見つけた!』(作・志津栄子 絵・末山りん 講談社)
ゆか先生:『ぼくの色、見つけた!』は、主人公の信太朗が感じたこと、考えていることが、すべて「言葉」になっています。単純に「嫌だった」ではなく、なぜ自分が嫌だと感じたのか、どんなふうに嫌だったのか、もっとこうしてくれたらよかったのにと思ったことなどが、丁寧に言語化されています。
優れた物語を読むと、読み手は「登場人物の考え」を通して「自分の考え」に気づくことができます。
信太朗が嫌だと思ったことと同じこと、自分にもあったな。
あの時自分は、なんでそう思ったんだろう?
と考え出したらチャンスです。「読書」がこれまでの経験を振り返って「自分の考え」を掘り下げるきっかけになったということです。「信太朗は嫌だったかもしれないけれど、自分はそうでもないかも」などと、「他人」と「自分の考え」が違うことに気づくかもしれません。それもやはり、考えを深める気づきです。
描いた絵の色が変だとクラスメイトに指摘され、心の中で怒る信太朗。 『ぼくの色、見つけた!』(作・志津栄子 絵・末山りん 講談社)
気持ちのラベリングで言語化能力がアップする
──自分と違うことを見つけるのは、簡単にできそうです。
ゆか先生:「自分の考え」は、頭の中だけにあるときはわりとモヤモヤしているものです。でも「他人の考え」に触れることでだんだんと整理されて、解像度が上がって明確になります。
ただでさえおっかなびっくり接している友達には、どんなリアクションをされるかわからないので、いきなり深刻な話はできませんよね。でも「本」の中の人が、現実の自分にリアクションをすることはありませんので、自分の本音をぶつけてもだいじょうぶ。だから「自分の気持ち」や「自分の考え」を、トコトン掘ってみましょう。すると、自分でも気づかなかった感情に出会うかもしれません。
そうしたらその感情に「ラベリング」をします。
──自分がどんな気持ちなのか、どんなふうに感じているかを「言語化」するということですよね。なんだか難しく感じますが、コツはありますか?
ゆか先生:私が指導中によく言うのが「やばい、すごいにも200種類あんねん!」です。
『ぼくの色、見つけた!』の信太朗は、とても上手に自分の気持ちを表現しています。本を読んでいて「これは自分の気持ちにぴったりだ」と思った言葉を見つけたら、それをそのまま自分の気持ちの「ラベル」にしていくイメージです。
例えば信太朗のある行動に「すごい!」と思ったとしましょう。でも、他の人に「すごかった!」と言った時に「ふーん、そうなんだ」と返されたら、拍子抜けというか、少し物足りない気がしませんか?
──そうですね……。話に興味がないのかなと感じます。逆に「すごかった!」という言葉だけではなにがすごいのかわからないので、自分でも「ふーん」としか言えない気もします。
ゆか先生:そうでしょう? 自分が感じた「すごい!」をちゃんと知って欲しいと思ったら、それがどうすごかったのかを説明する言葉が必要になるんですよ。「親子インタビュー式読書感想文」では、まさにそこを、親子の会話でつきつめていくという手段をとっています。
ゆか先生……「どんなところがすごかった?」
「おどろいた?」
「信じられなかった?」
「感動した?」
「最高だった?」
「強かった?」
「大きかった?」
子ども……「大きいじゃないな」
「強いでもない」
「信じられなかったかな?」
ゆか先生:このように子どもから答えらしきものが返ってきたら、今度はそこをツッコミます。
ゆか先生……「じゃあ、なにが信じられなかったの?」
子ども……「それはね……」
ゆか先生:このように会話が続けば大成功! そうやってトコトン気持ちを突き詰めた後で原稿用紙に向かうと、単なる「すごい!」ではなく、その子が考えた末に生まれた、その子自身の言葉が綴られるはずです。そこまでできるようになったら、「読書感想文」は90%完成したようなもの。
子どもに限らずだれでも、「自分自身の考え」を持つことで、内面の強さが鍛えられます。それがたとえ「宿題をきちんとやる」でも「そうじを手伝う」といった小さなことでも、そこに自分なりの考えや理由があれば、くじけそうになったときに「でも、自分は理由があってこうするんだと決めたんだから」とあきらめない強さを発揮できるかもしれません。
「読書」は、その場にいながら、たくさんの人の生き方や考えに触れることができる、絶好の機会です。誰に気兼ねすることなく、自分勝手に想像して、「ホントはこうなんじゃない?」と決めつけてもいい。
考えることは、自由。
だから大人の価値観を押しつけるのではなく、子どもの言葉に耳を傾ける。「読書感想文」の第一歩は、そこから始まります。
撮影:講談社写真映像部
「日記」や「読書感想文」を書くと2種類の言葉を同時に獲得できる
私は国語を指導する立場にある者として、言葉には「思考の言語」と「表現の言語」の2種類があると考えています。
「思考の言語」は、「ラベリング」された感情を表す言葉です。頭の中で悩んでいるときは、気持ちが同じところでグルグル回っているだけで、「考えている」という状態にはなりません。「考える」ためには、「言葉」や「文字」にして、一度出力しなくてはいけません。
一番良い方法は、文字として残すことができて、すぐ過去の出来事を振り返ることができる「日記」。ある日悔しいことがあって、「○○で悔しかった」と書きました。また違う日に悔しいことがあって、「□□で悔しかった」と書いたとしましょう。同じ悔しいでも、「○○」と「□□」は理由が違う。その違いを突きつめていくことで、自分でも気づかなかった領域に行けることができる。つまり、「悔しい」の分類が始まるんですね。
自分の努力が足りなくて「悔しかった」のか。
自分のプライドが傷つけられて「悔しかった」のか。
どのラベルにするのかを決めるのは、自分自身。そこで、過去の悔しかった経験を振り返って、プライドが傷ついた方が多かったら、「自分はプライドが高いんだ」とわかる。すると「悪いのは相手じゃない。私のプライドが高いから、もう少し謙虚にならなきゃ」というように、解決策が見つかることもあります。それが「思考の言語」を鍛えるということです。
そうやって得た自分の考えを、他人に伝えるときに初めて「表現の言語」が役に立ちます。
「表現の言語」は、「どう言ったら伝わりやすいか」「人を納得させる文章の構成とは」などのテクニックです。「読書感想文」は、これら2つの言語を一度に鍛えることができる、すばらしい教材なのです。
──次回からは、だれでも2週間、7つのステップで読書感想文を完成させることができる「親子インタビュー式読書感想文の書き方」の具体的なやり方をゆか先生が教えてくれます。
第3回ではその準備として、読書感想文が苦手な理由と対処法と、計画の立て方を紹介します。
『ぼくの色、見つけた!』(作・志津栄子 絵・末山りん 講談社)