「ああ」「いそいそ」「うかうか」…母音で始まるオノマトペが表すものとは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】
母音で始まるオノマトペが表すものとは? 秋田喜美さんの解説を紹介!
これまで、硬い響きを持つ子音である「阻害音」(P、T、K、S、H、B、D、G、Z)と、柔らかい響きを持つ子音である「共鳴音」(M、N、R、Y、W)を見てきた当連載。今回からは、いよいよ「母音」(A、I、U、E、O)について考えていきます。
2025年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。
様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。
今回は『NHK俳句』テキスト2025年9月号から、「母音」で始まるオノマトペが表すものについての解説をお届けします。
母音 A、I、U、E、Oで始まるオノマトペ
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「ああ」「いそいそ」「うかうか」「えへらえへら」「おたおた」、母音で始まるオノマトペの多くは、あるものを表します。何でしょう?
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オノマトペは一般に、五感情報を表す感覚の言葉です。「ぴよぴよ」は聴覚、「ぴかぴか」は視覚、「すべすべ」は触覚といった具合です。一方、母音で始まるオノマトペは、しばしば五感に収まりきらない感情・心理状態を表します。「ああ」は出産の苦しい様子を、「いそいそ」は嬉しくて心躍る様子を、「うかうか」は不注意な様子を、「えへらえへら」は締まりのない笑い方を、「おたおた」は慌てた様子を表します。同じく感情を表すものが多い感動詞に、「あっ」「いいえ」「うん」「えーっ」「おい」のような母音始まりのものが多いことと関係がありそうです(なお、冒頭の「ああ」が示すように、オノマトペと感動詞の関係は連続的です)。何かを感じた際、とっさに出る声は母音ですし、母音は子音よりもよく聞こえる音なので、感情を伝えるのに適しているのかもしれません。各母音に宿る意味については、次回以降詳しく見ていきます。
今回の句例はどうでしょう? 「うかうか」と青春時代を過ごしているのと、「おたおた」と年の瀬を過ごしているのは、人間と見てよいでしょう。人間は感情を持つので、特に不思議な表現ではありません。一方、「いそいそ」の主語は「花の風」という無生物です。母音始まりのオノマトペは、感情を表すことが多い分、俳句ではそれを人以外に用いた擬人化が伴いやすいようです。もちろん、擬人化は子音始まりのオノマトペにも見られます。7月号では、湯気の様子を「わいわい」と表現する例を見ました。
『NHK俳句』テキストでは、「餅」から「もちもち」など、一般語をオノマトペの語形に合わせることでオノマトペ的なイメージを獲得するオノマトペ化と呼ばれる現象についても、明らかにしていきます。
講師
秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』、Ideophones, Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です
◆『NHK俳句』2025年9月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『日本語のオノマトペ──音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版)/『擬音語・擬態語辞典』(山口仲美編・講談社学術文庫)
◆トップ写真:rai/イメージマート(テキストへの掲載はありません)