敗者の涙 春の高校バレー県予選 大分工業 監督と選手の絆 【大分県】
今年の大分工業は努力と絆のチームだった。ライバルである大分南には高さ、パワーともに及ばない。それならばと守備力を鍛え、どんな場面でもボールを拾い、つなぐ粘り強さを手に入れた。地道に積み重ねた努力が実ったのは6月の県高校総体。下馬評を覆し、大分南にフルセットの末に粘り勝ち。全国高校総体では勝つことこそできなかったが、磨き上げた守備力で会場を沸かせ、確かな爪痕を残した。
全国高校総体後はミーティングを密にし、思いを共有。春の高校バレー出場を目指し、ひたむきに練習に取り組んできた。江崎裕之監督は「みんな真面目で一生懸命。私生活に口を出すことはほとんどない。特に3年生はバレーを通じて大きく成長した。どんな試合を見せてくれるかワクワクしている」と選手たちに大きな信頼を寄せていた。
大分南との対戦となった春高バレー県予選決勝は、「笑顔で終わろう」と誓い、気持ちを一つにして臨んだ。内容は決して悪いものではなかった。リードする場面も多く、打ち込まれても拾い、つなぐ姿に会場が何度も沸いた。エースの藤野功季(3年)はもちろん、和間志苑(2年)や今村望夢(1年)も躍動し、攻撃力の高さも見せつけた。
しかし、要所で気持ちの弱さが出た。「このメンバーで勝ちたい」「監督を全国に連れていきたい」。そんな思いがプレッシャーとなり、ミスが続いた。キャプテンの遠島飛童(3年)が「バレーを楽しもう。今までやってきたことが間違いなかったと証明しよう」と声をかけたが、雰囲気を盛り返すことができないまま、3-0のストレート負けを喫した。
守備力を鍛え武器とした大分工業
試合後、「気負いすぎて余裕がなかった。選手たちを笑顔にすることができなかった」と言葉少なにコートを去った江崎監督。真っ赤な目、震える言葉が選手たちへの思いの強さを物語っていた。遠島は「気持ちがブレて、リズムに乗れなかった」と悔しさをにじませた。「自分たちの代は高さ、パワーともに劣っていたが、みんなくじけることなくついてきてくれた。いろんな面で成長させてくれた先生にも感謝しかない。今の1、2年生は伸びしろがあるので来年は勝てると信じている」と仲間、監督への感謝を口にし、後輩へ思いを託した。
藤野は「先生は休みの日も練習を見てくれ、自分たちの力を引き出してくれた。それなのに要所でボールを託された自分が決めきれず悔しい。来年の県大会は全て勝って全国へ行ってほしい」。梶原寅之介(3年)は「中3からバレーを始めた自分がここまで来れたのは先生のおかげ。そんな先生に自分の責任と言わせてしまったのがつらい。来年は(大分南に)高さでも負けず、ブロード攻撃を武器に雪辱を果たしてほしい」。城井陽多(同)は「チームメートはかけがえのない存在。この仲間、先生と一緒にどうしても勝ちたかった。今日は雰囲気に飲まれ、自分たちのバレーができなかったので、後輩にはいつも以上を目指すのではなく、いつも通り、当たり前のことをすることが大切だと伝えたい」と大分工業の飛躍を信じ、泣き濡れた目で前を向いた。
和間は「全員大好きな先輩。いなくなるのが寂しい。自分たちが先輩のように引っ張っていけるか分からないがお手本にして頑張りたい」と意気込む。3年生の思いは確実に受け継がれ、大分工業の飛躍の糧になるに違いない。
試合に敗れ涙する3年生たち
(甲斐理恵)