Nothing's Carved In Stone恒例の“11.15”ワンマン、定番曲縛りで突き抜けたプレミアムな一夜を振り返る
Live on November 15th 2025 〜Lead Tracks〜 2025.11.15 豊洲PIT
シングル曲とアルバムのリード曲のみのライブをやる──これ、“普通の”バンドだったらあらためて謳うようなことでもなくないか? シングル曲やリード曲には人気曲、定番曲の類が多く含まれるものであり、特定の作品に紐づくリリースツアーやコンセプチュアルな内容でもない限りは、普段のライブが自然とそうなっていることが多いから。
しかしNothing’s Carved In Stoneにおけるそれは、“レア曲縛り”に匹敵するくらいの特別感を味わえるのだ。まず、かなり多作なバンドだから案外ご無沙汰になっている曲も多いこと。加えて、普段のライブから「え、それを演るのか!?」という飛び道具的な選曲が必ずと言っていいほど含まれるバンドだから、シングルやリード曲に限った方がむしろレアとさえ言えること。だからこそナッシングスの“定番曲縛り”は面白く、普段とは一味違うライブ体験となること請け合いである。舞台は豊洲PIT、日付は彼らとファンにとって特別な11月15日。そこには大興奮の一夜が待っていた。
定刻通りに暗転した城内に流れ出した、いつもとは違うSE。5thアルバム『REVOLT』のイントロダクションである「Song for an Assassin」の長尺バージョンとともにメンバーが現れて位置につき、そのままアルバム通りに「Assassin」を繰り出す。生形真一(Gt)のアルペジオと大喜多崇規(Dr)が16分で刻むハイハットは精緻の極み。そこへ日向秀和(Ba)が断片的なベースのフレーズを乗せ、村松拓(Vo)の揺るぎない歌声がそれらの中央で抜群の存在感を放つ。テンションで言えば抑えめでオルタナ色の強い楽曲だが、静かなるエモーションをたっぷり溜め込んでおいてラストサビで開かれる視界がこの上ないカタルシスを生む。続け様に凶悪でヘヴィなサウンドを炸裂させた「Who Is」では、スラッシーなギターが導くスリリングなアンサンブルに、ベースのタッピングなどしれっと差し込まれる妙技を堪能。わかっていたつもりではあるが、やはりこの人たちの“シングル&リード曲”って、キャッチーさや歌いやすさみたいな一般論のそれとはハナから目指しているところが違う。
シングル曲はともかく、アルバムのリード曲って実はそんなに明示されてない場合も多い。表題曲になっている場合を除けば、せいぜい我々ライターが取材する際の資料には記載されていたり、リリース時期にラジオでよくかかったりする曲がそうである、くらいでしかない。なので、「Sprit Inspiration」みたいな納得のド定番曲だけでなく、特に過去の作品であればあるほど「この曲ってリードだったんだ?」みたいな曲が混じってくるのも面白い。「Cold Reason」はライブでわりと頻繁に演奏されているとはいえ、このメランコリックな質感かつ変拍子なリード曲だし、「Chain reaction」なんて結構レアな気がする。
ダンサブルな四つ打ちビートとループ感強めの上物で踊らせる「Alive」から、歯切れの良いギターが弾むポップス要素強めの「Sands of Time」を経て、歪んだ重低音を撒き散らして始まる「Gravity」へ──と言った具合にディスコグラフィを行ったり来たりしながらライブは進み、イントロが鳴らされるごと、曲が終わるごとに起こる相当大きなリアクションが、広大なフロア一面の熱狂度合いを教えてくれる。
中盤には「Everything」「May」と今年配信リリースした新曲たちも披露。前者はデジタルなシーケンスと絡みながら疾走するヘヴィ&マッドなロックチューンで、後者はミドルテンポかつメロディアスな歌が前面に出た造形がこの日のセットリストにおいて良いアクセントになっていた。そこに挟まる形となった「Wonderer」もまた、重厚かつエッジの効いたロックが大半を占めるセットリストの中で、軽やかなシンセやキャッチーな曲調といったフレンドリーな装いが際立つナイスな選曲。ハンドマイクで悠々と歌う村松の、高い求心力を備えたパフォーマンスも素晴らしい。その後のMCで彼は、キャリアを振り返りつつあらゆる時期の楽曲と向き合い、今の姿でそれを届けるというこの日のライブの性質を踏まえ、不敵にこう言い放った。「あの日の自分に勝てるんだろうか──勝ちに来ました、よろしくお願いします」。いいぞ、もっとやれ!と言わんばかりに熱のこもった歓声と共に、ライブは終盤戦へと突入していく。
いつにも増してクリアに正確に、けれど微塵も荒々しさを損なわないという高次元の演奏に唸らされたのは「Like a Shooting Star」。ロックのダイナミズムとポップスとしての強度、EDM的な快楽性が三位一体で迫る「Freedom」。もはや説明不要、不可欠のキラーチューン「Out of Control」。次々に投下してくる定番曲たちを目の当たりにしながら、各楽器間の音のバランスや個々の音色がものすごく整理されていることも、あらためて実感できた。ライブハウスとしては最大級であり、それゆえに音の輪郭がぼやけたり反響面が気になるケースも少なくない豊洲PITでのこの仕上がりは、相当なこだわりとそれを具現化するチームワークがあってのことだろう。たくさん演奏してきた曲たちだからこそ甘えない。とことんやる。ナッシングスはそういうバンドだ。
本編のラストは1stアルバム『PARALLEL LIVES』からこの日のテーマ曲でもある「November 15th」を届け、どデカいシンガロングを巻き起こして終了。ここまで約1時間半、体感はその半分くらい。すさまじい密度とスピード感で駆け抜けた4人は、アンコールで再登場すると「納得いかない箇所があったから」との理由で急遽、2曲目に演奏した「Who Is」をリベンジ。思いがけず超絶技巧の応酬を再び味わった後は、「Dream in the Dark」「Dear Future」と、近作を象徴する力強さとポジティヴィティを体現するアンセムを連投してライブを終えた。
この日のMCで開催の旨がさらっと告げられた、来年2月27日のワンマン『BEGINNING』は3rdアルバム『echo』の再現ライブとなる。収録曲を確認してみたら、この日演奏された曲は「Chain reaction」のみ、その他は相当ご無沙汰なタイトルが並んでいた。定番曲を並べ切ったがゆえの特別感から、懐かしさとレア曲にまみれる特別感へというとんでもない振り幅。バンド側の負荷も相応に高いはずだけれど、あえて飛び込んでくれるのがナッシングス流のエンターテイナー精神であり愛の形だ。その点はもう、全幅の信頼に値する。
取材・文=風間大洋 撮影=RYOTARO KAWASHIMA