大井町の人気居酒屋『立呑み8』が自社ビルで再始動! 移転までの苦難と新たな挑戦とは
2025年6月、大井町で愛される立ち飲み居酒屋『立呑み8(はち)』が、旧店舗の真隣に自社ビル「8ビル」を新築し、移転オープンした。4か月半の休業を乗り越え、1・2階は立ち飲みスペース、3階は完全予約制の個室『三八(さんぱち)』、4階は1日1組限定のルーフトップバー『84テラス』を展開。「この場所でしか『立呑み8』が生きる道はないと覚悟を決めました」と語る代表の中田一氏に、移転の背景と新たな挑戦について話を聞いた。
突然の立ち退き要請。「この場所で続けたい」という強い思い
大井町駅東口から仙台坂方面へ徒歩3分、カラフルな暖簾と“8”のネオンが目印の『立呑み8』。運営する株式会社Hは、和食ダイニング『H』やスナック『URA H』も展開する地元密着の企業だ。
2016年、『H』の10周年を記念しオープンした『立呑み8』は、カジュアルで気軽な立ち飲みスタイルが人気を博し、順調に売上を伸ばしてきた。しかし2024年、ビルの建て替えに伴う突然の立ち退き要請が状況を一変させた。
「もともと客単価6,000~8,000円と高価格帯の『H』に対して、もう少しカジュアルで、ウェイティングにも使える気軽な店として設計したのが『立呑み8』です。『H』の隣にあることに意味があり、場所が変わったら別の店になってしまう。別の物件も検討しましたが納得できる場所は見つからず、かといって大家さんと揉めたところで、誰にとってもいい答えは出ないでしょう。頭を悩ませていたときに、大家さんから『旧店舗の隣、車3台分の駐車場スペースを活用しないか』とお話をいただいたんです」(中田氏)
8坪の狭小スペースを活かした自社ビルの挑戦
提案された駐車場は約8坪、旧店舗の半分にも満たない。狭くなるが、階層を増やせば可能性はあるかもしれない。エレベーターを設置するスペースは確保ができないため、階段で上り下りできる限界は……と考慮し、4階建て構造を思いついた。
「上層階を貸し出す案もありましたが、狭い分、どうしても店内を通り抜けなければ上に行けない。だったら3階、4階はわざわざ階段を上ってでも行きたくなるような、ストーリーのある空間にすれば勝算があるだろうと3階は完全予約制の個室、4階はシークレットなルーフトップバーを作ろうと考えました」
設計デザインはこれまで同社が展開する全店舗の内装を手がけた業者に依頼。限られた空間で、いかに動線を確保しつつ居心地が良い空間を作るか、何度も話し合い、5センチ単位でテーブルのサイズや通路の幅を調整する、天井を高くして開放感を演出する、壁の扉を付けて荷物置き場スペースを確保するなど随所に工夫を凝らした。
新店舗が完成するまでの期間、従業員の雇用も守らなければならない。そこで『H』の営業時間を18:00~24:00から朝4時までに延ばし、11:30~14:00のランチタイム営業も開始した。
「約1年半前に立ち退き要請を受けてから、工事予定が4か月延びてしまい、それに伴って新店舗のオープンも4か月遅れてしまいました。とにかく利益よりもスタッフ雇用を守り、乗り切るために必死でした。スタッフ全員と話し合い、ランチや深夜帯の営業は大変かもしれないが、数か月間だけ頑張ってほしいと頭を下げました。そうしたら、快く『4時までやりましょう!』と言ってくれるスタッフもいて。いろいろなことがありましたが、多くの人との信頼関係があったからこそ、19年間続けてこられたのだと感じています」
立ち飲みだからこそ “本物”のおいしさを提供したい
料理は、8種類の鮮魚を筒状に盛り付けた看板メニュー「8盛り」(1,500円)や、「8カルパッチョ」(1,500円)、「酒盗ガーリックピザ」(680円)、「おまかせ前菜四種盛り」(1,300円)など旧店舗から引き継いだもの6割+新規メニュー4割で構成。当然ながら以前よりもキッチンが狭くなり、収納スペースも限られている分、極力仕込みの手間が少ないものを中心にしているという。
新たに加わったメニューの中でもイチ押しは、「特撰牛すきコロッケ」(900円)。コロッケの上に和牛のすき焼きと卵黄をのせた一品で、卵黄を崩しながらすき焼きとコロッケを頬張る、贅沢なメニューだ。
この他、ワインにも合う「ブルーベリーと酒粕のマスカルポーネ」(650円)や、旧店舗でも人気が高かった肉刺には「特撰ヒレ馬刺し」(800円)などが加わった。これまで同様、芝浦の老舗から仕入れる肉刺しをはじめ、素材は一つひとつ吟味し、既製品はほとんど使わず、盛り付けや器にも手を抜かない。
ドリンクはビールをはじめとする定番のほか、レモンやユズ、スダチなどの柑橘を合わせたオリジナル「8サワー」(550円)や、ウーロン茶と紅茶をブレンドした「ウーティーハイ」(550円)、ハブ酒とすっぽん酒、ガラナを合わせた「超ムラムラサワー」(600円)などオリジナルドリンクも充実。この他、福島や岐阜など、日本の各地で造られた「地ウイスキー」のハイボール(各550円)、焼酎や日本酒も揃え、どんな酒を好む人にもハマるラインアップとなっている。
1~3階までメニューは共通で、3階のみQRコードで注文した料理をダムウェーター(小荷物専用昇降機)で運び、各々でテーブルへ運んでもらうスタイルを採用。特別感を演出するべく、個室限定で日本ワインのボトル(4,800円~)も用意した。
また、4階は冷蔵庫やバーカウンターを設置し、自由にバーベキューを楽しんでもらう「飲み放題付きバーベキュープラン」(3時間8,800円~)のみとした。3、4階には困った場合に備えて内線電話も完備されており、これならお客もプライベートな空間でゆったりと過ごすことができる。
この19年間、中田氏がコンセプトとして掲げてきたのは、“大切な人を連れていきたい、自慢したくなる店”。特に感性が鋭い女性に喜ばれる店を意識しているという。
「かといって、女性をターゲットにしたかわいらしい雰囲気、映えるメニューではなく、あくまでも“飲兵衛がそそる”メニュー構成を大切にしています。立ち飲みの店としては価格が高いと思われるかもしれませんが、カジュアルな店であっても本物を提供したい。ちょっと背伸びして来てくれた若い方から、美味しいものをたくさん召し上がってきた50、60代の方まで幅広い世代の方が集まって、お互いにパワーをもらえるような空間が作れたら、それが理想です」と笑顔を見せる。
新規出店プロジェクトも進行中。大井町を盛り上げたい
約5か月の休業期間を経てオープン後、常連客からは「待ってました!」の声が。狭くなったことで客足が減るのではないかと不安もあったというが、工夫の甲斐あって狭さを感じさせないと好評だ。新規客も増えており、平均客単価は旧店舗時代の3,000から、3,500~4,000円とアップしている。
「ここまでさまざまなトラブルはあったが、今は未来しか見ていない」と中田氏。2026年に向けて新たなプロジェクトも動き出しており、人材育成にも力を入れたいと話す。
「僕は“流行り”を作りたいわけではないんです。よく『店づくりは、人づくり、街づくり』と言いますが、人としての在り方、自分自身を磨くことを重点に置いた理念を共有して、よりお客さまに喜んでいただける店を作っていけたら」
『立呑み8』
住所/東京都品川区東大井5-12-4 8ビル
電話番号/03-6433-0606
営業時間/17:00~翌1:00(日曜・祝日16:00~24:00)
店休日/無休
坪・席数/32坪・55~63席
https://www.instagram.com/tachi_8/