「ゲームが大好きで作りたい!」という情熱が今求められている 「ちゅらっぷす」代表取締役社長・中山法夫さん インタビュー
誰もがスマートフォンを持っている今、ゲームは手軽で身近な存在になっている。もちろん、従来のようなテレビやPCを使う家庭用ゲームの市場も世界規模で活気を見せており、ひと口に「ゲーム」と言っても、そのあり方や展開は多種多様だ。eスポーツという言葉も定着し始めた昨今、ゲームを作っている人たちはゲーム業界をどう見て、どんな人材を求めているのか?
「めちゃくちゃゲーム大好きで、作りたい!という人が今業界に入ると、凄く重宝されると思います」と話すのは、沖縄に籍を置くゲーム会社「ちゅらっぷす」代表取締役社長の中山法夫さん。30年近くゲーム業界に関わってきた中で今感じていることや、ゲームを仕事にすること、そして沖縄とeスポーツの可能性などについて、たっぷりと聞いた。
人を楽しませるためには「自分が楽しんでなんぼ」
――「ちゅらっぷす」はどんな会社ですか。
「今年9期目で、社員が45名ほどいるゲーム会社です。大元は朝日放送で、その中のDLEグループの一員としてのゲーム事業を担っています。主にアニメや映画のIP(知的財産)を活用したゲームを作って配信・運営していて、主なタイトルは『おそ松さん』『キングダム』『ポプテピピック』などがあります。最新作は『モンスターストライク』の続編を今年リリースして運営中です。
社員はコロナ前までは全員沖縄にいて机並べてたんですけど、現在はフルリモートになっています。大阪、広島、東京など全国で仕事をしていて、沖縄だけという感じではなくなってますね。あと、バイクに乗って日本を1周してる社員もいたり(笑)」
――めちゃくちゃ自由ですね(笑)
「もちろん仕事はちゃんとやってくれてますよ。そんなゲーム会社です(笑)。ゲームは人を楽しませるものだし、それを作る仕事なので、自分らが楽しんでなんぼですから。そういうスタンスです」
――中山さんはどんな経緯でゲームの仕事に就いたんでしょうか。
「22歳の時にゲーム業界に入ったんですけど、当時まだゲーム会社って今みたいに大卒が必須ではなかったんです。今は基本新卒採用ですけど。最初にスポーツゲームが有名な大手メーカーに入ったんですけど、そのきっかけも『お前おもろいから来い』みたいな、そんな感じでした(笑)。元々専門学校でオンラインとかホームページ作成について独学で勉強してて、自分でホームページ作ったりとかしてたんですよ。97年ぐらいで、画像1枚をダウンロードするのに1日かかってた時代です(笑)」
――元々ゲームが好きで「ゲームを仕事にしよう」という気持ちがあったというわけではないんですね。
「もちろんゲームは好きで、ファミコンとかMSXとか色んなゲームで遊んではいました。家が厳しくてゲーム機を買ってもらえるわけでもなかったので、友だちの家で遊ぶという感じで。『ゲームを作ってる人がいるんだ』ぐらいの認識だったんですけど、エンターテイメントの業界は面白そうだし、入ってみようかと。
それで当時、携帯電話が出始めたり、PCが普及しだした中で、野球ゲームをモバイル化したり、家庭用ゲーム機をオンラインに繋げるようにしたりと、色んなゲームをオンライン化・モバイル化するプロデューサーという形で15年くらいやってました。
その後は独立して会社を作ったり、売ったり、色んな会社に役員として呼ばれたり、っていうのを2017年までしてて、その年の4月に沖縄に移住したんです」
――ちなみに沖縄に移住した理由は。
「サーファーなので。島でサーフィンをしたいっていう思いがあったんです」
そもそも「業界が無かった」沖縄
――非常にシンプルな理由ですね(笑)。仕事をする中で、やりがいを感じたり楽しい瞬間はどんな時ですか。
「僕はゲームを作ったり、プランニングするような役割ではなくて、それをできる人を集めて、お金を持ってきたり、アニメの版元さんを引っ張ってきたり、という“組み立てる側”の人間なんですよ。でも、そうやって集めた人たちが作ったゲームが世に出て、お客さんが喜んでる反応が見られるのは非常に嬉しいし、やって良かったな、って思いますね。最近はそれがデータで分かるんですよ。ダウンロード数や課金率、継続率で目に見えますから」
――沖縄での人材登用は大変でしたか。
「沖縄での採用は、来たばっかりの頃は苦労しました。そもそも業界が無かったので、経験者がいないんですよ。もともと僕が来た時は、ちゅらっぷすは10人くらいの部署のような位置付けの会社で、人件費も開発費も安く受けられます、っていう感じだった。でもそれだとヒットは生み出せない。そこをどう引き上げていくかということが大きな課題でした。
いわゆる大人向けのメディアに文章を書いてる人を採用してみたら、人の欲望や欲求をバナーで上手いこと伝えてくれた、ということはありました。あとは、接客が得意な人を採用して、外部の会社とのやり取りがスムーズに進んだりとか。沖縄でそういう発見は凄くありました。これまではどこの会社で何年キャリアがあって、どんなゲームを作ったかというところで評価していたので」
――チーム作りをしてるような感じでしょうか。
「そうそう。色んなことに向いている人っていっぱいいて。例えば以前は編集者もついていた元漫画家の社員がいるんですけど、ゲームにマッチするデザインもめちゃめちゃ上手いんですよ。あとは、ヒット漫画のゲームを作る時に原作者さんとやりとりしながら監修作業をするんですが、元漫画家は原作者さんの気持ちが凄く分かるので、話がスムーズに進む。その点で言えば、うちの会社はおそらく、日本で見ても原作者からの理解を得る「監修力」みたいなものはめちゃめちゃ強いと思っています」
――昨今はスマホを始め、デバイスもコンテンツも多種多様になってると思うんですが、今後のゲームの展開にはどのような可能性があると考えてますか。
「マーケットはずっと成長し続けてるとデータでは出てるんです。ただ、その中でも海外の存在が大きくて、メジャーなゲームの7割は海外の売り上げ。日本市場だけで言うと下がってないようで実は下がっているのが現状です。日本は円安もあるので、海外で売れてるメーカーが勝っている。特にスマホは最もグローバルに展開しやすいですからね。そこのシェアをどう獲得していくのかが業界としての次テーマだと思います。
その点で言うと、沖縄はアジアが近いですし、これから凄く伸びていくであろうインド、中国、フィリピン、インドネシアとかも視野に入れることができる。中国なんかは交流もあったりするんで、沖縄の会社としてはそこに大きなチャンスがあると感じています」
沖縄は“ハブ”としてのeスポーツ大国になれる
――沖縄とeスポーツとの結びつけ方、あるいは展開の仕方にはどんな可能性があると考えてますか。
「僕が沖縄に来た頃、うちにゲーム大会を仕切ってる社員がいて、色んなところで大会が開かれてたんですが、正直言って“無法地帯”だったんですよ(笑)。著作権的な部分とか。それで沖縄eスポーツ連盟を作るにあたって、メーカーと繋げる役割を担うということで参加しました。今はちゃんと調整もできてますし、皆さんちゃんと著作権の概念をしっかり持って大会も運営されてます(笑)。
沖縄って日本中の人が行きたい場所だし、もっと言えば世界中の人が行きたい場所。だから、色んな大会で『沖縄行きたいかー!』みたいな形で『決勝の地』としてブランディングしていくことは今後の可能性としてもの凄く良いんじゃないかと思いますね。そうなった時には、やっぱり迎え撃つ県内のチームが強くなってこそというのはありますけど」
――ゲームってどうしてもインドアなので、「ゲーム×リゾート」という組み合わせって、意外と無いですよね。
「そうなんです。県内だけで大会でどうリクープするか、スポンサーを集めるかというのはなかなか厳しくて。閉じた中でeスポーツを考えるとビジネス化は難しいですが、台湾もすぐそこだし、米軍の中にも色んなeスポーツのグループがあるし、中国とも交流があるということも考えると、こんなにオープンな環境はないですよ。“ハブ”として最強の「eスポーツ大国」に沖縄はなれるんじゃないか、と考えています」
――条件・環境さえ整えればという感じですか。
「いや、もう既に整ってると思っています。色んなところをちゃんと繋いで、実施する人さえ出てくれば出来ます。そこで初めてビジネスとしても沖縄のeスポーツが成り立っていくんじゃないかなと。eスポーツの興行で成功してる中国とかラスベガスでは大会にちゃんと観客がいて、その周辺でさらに色んな経済的な動きが生まれるという形になる。こうした形はまだ日本ではありませんが、出来る土壌はあるし、やれないなら興行主を連れてこればいい」
――とりあえず1発前例を作ってみてわかることもありますもんね。
「そうですね。キングスで盛り上がっている沖縄アリーナは国内でも電飾・照明とかの演出で派手なことができる場所なので、eスポーツにめちゃめちゃ向いてるなと思うんですよ。1度でもいいから有名な大会を誘致するという形でやってみるのが良いと思います。頭からガッツリ儲けようとするとなかなか広がらない部分もあるので」
1番大事なことは「どれだけゲームで遊んでるか」
――最後に人材の話を。ゲーム携わって仕事をすることを目指してる人も多いと思うんですけど、どんな人材が欲しいか、あるいは沖縄からどんな可能性があるかということも聞いておきたいです。
「今はもう場所にとらわれない世界になっています。実際僕らがフルリモートですし、東京のゲーム会社でも同じようにしてる所もいっぱいあるんですよ。シリコンバレーの会社の社員で沖縄に住んでサーフィンしながらリモートワークしてる人もいるし、1人で沖縄に住んで作ってるクリエイターで有名な方もいらっしゃったりもするんです。だからもう、『沖縄だから』というようなことは本当に関係無くって、言い訳にもならないというか。
作れる人はどんどん作って発信すればいいし、ちゅらっぷすが良いって思ってくれる人いれば声かけてほしいし、うちに限らず有名な会社でもたくさんリモートOKの職種があるのでどんどん応募してほしい。県内で~とか日本で~とか、そこで縛られる必要は一切無いと思いますね。
あと、この文章を読んでくれる人たちにはeスポーツに親しんでいる方々もいると思います。eスポーツのプレイヤーって、作る側からしても本当に凄いんですよ。僕たちが考える仕様を把握して、例えば『このボタン押したときにコンマ何秒でどういう挙動をするか』みたいなことを研究してる。それこそ作る側になった時には、その感覚めちゃめちゃ強みになると思います。
ゲーム業界で1番大事なことって、どれだけゲームで遊んでるか、何が面白いかということをちゃんと分かってるかどうかなんです。だから、そこを理解している人たちは、プランナーとして、きっとどこに行ったって活躍できる。『作る側も楽しいですよ』っていうことはお伝えしておきたいですね」
――確かにゲーム実況とかプレイ動画見てると、笑っちゃうくらい凄い人たくさんいますね。シンプルですけど1番重要なところですね、どれだけ遊んでるか楽しんでるかというのは。
「この業界にもう30年近くいるので、業界にいる人たちの“属性”が移り変わっていくのも分かるんですよ。昔ってもう、高卒だらけだったし、僕もそうですけど(笑)、みんなもうひたすらゲーム大好きで、アホだけどゲーム熱が凄いみたいな業界だった。
それからだんだん頭が良くなってきて、データ分析が重要視されるようになってきて、今ちょうどその2つが融合していると思うんですよ。ただ、データを重視する人って、そんなにゲームを遊ばないんですよ。作ってる自分のゲームすら遊ばないし、作ってる自分たちが使用しているアニメすらちゃんと見てない人も増えてきたのは確かなんです。
だから、そこに『めちゃくちゃゲーム大好きで、作りたい!』みたいな人が今業界に入ると、凄く重宝されると思います」
――周期みたいなものがあるんですね。確かにマーケティングの視点からもデータ分析は必要ですけど、そもそものことを考えるとゲームってやっぱ楽しいからやりますもんね。
「そうなんです。今だと、おっさんはゲーム大好きな人たちが多いんですよ。一方で現場の一線はちょっと頭が良い人たちが多い。だから次重宝されるのはアホみたいに情熱がある人なんだと思います(笑)。
人に自分が面白いものを『面白いでしょ』っていうのは結構恥ずかしいんですよね。面白くないよって返された時を考えると。でもそれを言えるアホさって、おそらく今後もっと必要になると思う。そんな人たちがゲームを作ってくれたら嬉しいなと思ってます」
【関連リンク】
・ちゅらっぷす WEBサイト
・【eスポーツ@沖縄】ゲームと街を結びつける試み「北谷ゲームコミュニティーデー」‖ HUB沖縄
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