デザインの力を信じ続けたコンランの「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」展が開催中
「どこでどのように暮らすかが私たちの幸福と創造性に大きく関わっていると、私はいつも思っている」。そう残したのは、「ザ・コンランショップ」の創業者であり、デザイナーのサー・テレンス・コンラン(Sir Terence Orby Conran)だ。
家具デザイン、都市の再開発、書籍の出版、レストラン事業、美術館設立と多岐にわたる事業に関わったコンランは、デザインが世界をより良い場所にするものと信じ続け、デザインによる社会の変革に突き進んだ。
「東京ステーションギャラリー」では、そんなコンランの人物像に焦点を当てた初の展覧会「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」が2025年1月5日(日)まで開催されている。本展では、デザインの力を信じ続けたコンランの、デザイナーとしての一貫した姿勢と情熱を感じることができるだろう。
素材を理解し、自ら手を汚すのがデザイナー
デザイナー、起業家、美術館設立者など、さまざまな肩書を持つコンランであるが、自分自身では常にデザイナーと名乗っていた。コンランの活動は、1950年代のテキスタイルや食器のパターンデザインから始まるが、一からものづくりを手がけていた初期活動のことは、あまり知られていない。
初期に制作したテキスタイルや家具などからは、デザインに対しての新鮮で前向きな姿勢が既にうかがえる。素材を理解し、作る方法を知らなければ、それをデザインしたとは言えないと断言し、デザイナーが自ら手を汚すことを重要視していた。
1964年に発足した、ホームスタイリングを提案する画期的なショップ「ハビタ」からは、当時のロンドンで流行した「スウィンギング・シックスティーズ」の背景が見て取れる。ポップな色合いや、心踊るようなフォントデザインが魅力的だ。
無駄なくシンプルで機能的
グッドデザインは特権ではなく、権利であると信じ続けたコンランは、1970年代から「ザ・コンランショップ」を展開。「優れたデザインはできるだけ多くの人が利用できるようにすべき」という理念の下、「あんな暮らしをしたい」と多くの人が思うような、洗練されたデザインを作り上げた。
「無駄なくシンプルで機能的なものが好きだ。例えば、古い大工道具が手にしっくり馴染む感じとか、ミルクピッチャーの控えめで上品なたたずまい、とか」。素材の本質を肌で感じ、シンプルで使い勝手の良いものを長く愛用することが生活を豊かにすることを知っていたコンランの口癖は、「シンプルに」だった。
デザインが世界をより良い場所にするものだと信じるコンランによって生み出されたデザインの数々は、究極にシンプルで美しく、クリアな雰囲気をまとっている。
暮らし方と生き方の方法を提案し、デザイナーとしての人生を全うしたコンラン。展示空間にはコンランが愛したラウンジチェアが配置され、「ウイスキーと葉巻を手にこの椅子に身を沈めた途端、人生っていいものだと思わされる」という言葉が添えらえている。
デザイン、素材やモノの選び方、より良い生活や居心地が良い暮らしについて、ふと前向きに考えたくなるような空間に出合えた気分だ。ふらっと寄ってほしい。