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後編:六本木アートナイト2024(読者レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

「六本木アートナイト2024(以下、RAN)」の様子を前編に続き、他の開催エリアのプログラムを紹介します。

国立新美術館、東京ミッドタウンなど

小寺創太の《フィラー》は、手持ちのプラカードに矢印と短文が書かれており、ルート案内をしてくれます。矢印に沿って歩いていくと、六本木交差点から国立新美術館に誘導されます。短文を読むだけでは、その意味を図りかねますが、国立新美術館に作品解説があり、短文の意味などの種明かしがされます。


小寺創太《フィラー》


ジオットハウス1階では、ユェン・グァンミン(袁廣鳴)の最新作の《日常戦争》が展示されています。最初は穏やかなリビングの様子を映していますが、急に炎が噴き出し、窓ガラスが割れ、白っぽい破片が飛び散ります。日常生活が一瞬で破綻する様子が、淡々と映し出されています。 《日常戦争》は、今年のベネチア・ビエンナーレで公開された他は、どの芸術祭、どの美術館でも展示されていません。RANのプレミアムなプレゼントだと思います。


ユェン・グァンミン(袁廣鳴)《日常戦争》


東京ミッドタウンで開催された、蓮沼執太の《ROPPONGI STREET THEATER #06 Performance 02》は、ご覧の通りの盛況ぶりです。軽快なリズムに合わせ、軽く体を揺らす観客も見受けられます。音の作品は会場が混雑していても、少し離れて楽しめるところがいいと思います。


蓮沼執太チーム《ROPPONGI STREET THEATER #06 Performance 02》


夕方には、髙橋匡太の《ポンギリング ―ひかりの花のパレード―》が、東京ミッドタウンをパレードします。ひかりの花を身に着けた参加者が、音楽隊や道化の一行と一緒に楽しそうにパレードします。作家も大きなアンテナを背負い、参加しています。

パレードを見る前に、ユェン・グァンミンの《日常戦争》を見ていました。にぎやかで楽しそうなパレードの様子と、《日常戦争》の炎が噴き出すシーンが心の中でオーバーラップしていました。


髙橋匡太《ポンギリング ―ひかりの花のパレード―》


久保寛子の《あおぎつね》は、東京ミッドタウン ガレリアB1階の吹き抜けにあります。高い台の上に置かれ、行きかう人々を見下ろしています。表面は青いメッシュで覆われ、背景が透けて見えます。 見ていると、「元気か?」とか、「買い物に来たのか?」とか、問いかけられているような気がします。


久保寛子《あおぎつね》


ストリートアミュレットのシリーズは、そのままブローチになりそうな作品です。あたかも、ブランドショップの商品のように、すました表情で陳列ケースの中に並んでいます。とても楽しい展示方法だと思います。


久保寛子《あおぎつね》サテライト ストリートアミュレット シリーズ


丹羽優太の《疾病合戦図絵巻》が東京ミッドタウンの仮囲いに展示されています。絵巻には、コロナの妖怪「虎狼鯰(コロナマズ)」と厄除けの神様「鐘馗(しょうき)」を先頭に、チーム疫病とそれに抗う群衆が描かれています。左手のほうには大きな注射器を持った、おそらく医者らしい人物も描かれています。作家は、TOKYO MIDTOWN AWARD 2021 アートコンペのグランプリです。


丹羽優太《DESIGN & ART WALL #TOKYO MIDTOWN AWARD》


金子未弥、山口正樹他の《ドーナツサンド・ステーション ラヂオ》は、ラジオ番組形式の放送パフォーマンスです。日替わりのゲストと一緒にアートにまつわる話題を展開します。参加した時には、パフォーマンスなどの一過性(テンポラリー)の作品を永続的(パーマネント)に残していくにはどうするか、アートの居場所として社会に隙間が必要だけど、その隙間はだんだん狭くなっている、というような話題が進行していました。ライブなので会場から質問できるようです。ざっくばらんに、わかりやすく回答していただけます。

金子未弥、山口正樹も、TOKYO MIDTOWN AWARDの受賞者です。

アーカイブも配信されています。


金子未弥、山口正樹他《ドーナツサンド・ステーション ラヂオ》


TOKYO MIDTOWN AWARD 2024 のファイナリストの作品展示も行われています。 大原由は、作家本人が作品の一部として、東京ミッドタウンの通路を行き交う一般の方と言葉を交わします。作品の前で立ち止まる方の興味は様々です。単に「何をしているの」という方、大量の本に興味を持つ方、中には散歩の途中に立ち寄る常連の方もいます。

本作は、《ドーナツサンド・ステーション ラヂオ》の話題に出ていた「社会の隙間」とも通じるところがあると思います。


大原由 TOKYO MIDTOWN AWARD 2024 FINALIST EXHIBITION


その他、Sareena Sattapon、まちだリなの映像作品にも目を引くものがありました。さて、グランプリはどなたになるのでしょうか。

続いて、アートスタジオ「ソノ アイダ#TOKYO MIDTOWN AWARD」の展示を紹介します。先に紹介した《ドーナツサンド・ステーション ラヂオ》は、「ソノ アイダ#TOKYO MIDTOWN AWARD」のスピンオフです。


アートスタジオ正面


展示のタイトルは「白い紙に書かれた白い文字は見えないものとする」です。まるで、何かの暗号のようなネーミングです。展示空間は、薄い布で手前側と奥側に区切られています。 まず手前側の牧野永美子から見ていきます。

作家は、普段、彫刻を制作するそうですが、今回の展示に向け、このような「ドローイングの立像」を試したそうです。作品を立てて見せているため、照明による光の透過の具合やシルエットを立体的に鑑賞でき、おもしろいと思います。描かれているのは手だけですが、等身大の作品を立像として見せているため、その手の持ち主の存在感を強く感じます。


展示風景


奥側の展示は、柴田まおです。右手側に、レリーフ、奥側に映像、部屋の中央には大きな板が水平に浮遊しています。板の上には、棒型の照明が3個、配置されています。板には蓄光塗料が塗られ、棒状の照明をずらすと、元の位置がぼんやりと光り、やがて光は消え、「見えるもの」と「見えないもの」の連続性を示唆します。

映像では、左右の画面のそれぞれで「見えるもの」と「見えないもの」が読み上げられますが、その声は聞き取ることがむつかしいです。どちらも同じよう見える映像ですが、両者には明確な差異があります。そのような「・・・のあいだ」の境界が、当面の作家の興味の対象なのでしょう。


展示風景


RANでは、本レポートで紹介したプログラム以外にも多数のプログラムが展開されます。先端的なアートの実験場として、これからも続いてほしいと思います。

最後に、今年、RANに参加する方たちは、ぜひ来年も参加してください。残念ながら参加できない方たちは、ぜひ来年こそ、参加してください。

[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2024年9月26日 ]


 → 六本木アートナイト2024(レポート 前編)

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