【書店振興を巡る動向】なぜ経済産業省がプロジェクトチームを設置したのか。街の書店が減り続けている理由とは?静岡新聞教育文化部長が解説します!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「書店振興を巡る動向」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年6月19日放送)
(橋爪)今日はこの「3時のドリル」で時折話題にしている書店界隈の話です。今年の3月に経済産業省が、書店の危機を救おうという大臣直属のプロジェクトチーム設置を発表しました。
(山田)今、本屋さんがどんどんなくなっていってしまっていますけど、国を挙げてそれを何とか盛り返していこうということですか。
(橋爪)文部科学省ではなくて経済産業省が設置したというところに事の深刻さが伝わると同時に、対策が進むという期待感の高まりがあります。会見で斎藤健経産相は「書店は創造性が育まれる文化創造基盤として重要だが、近年激減し危機感を持っている。盛り上げていきたい」と話しています。
(山田)経済産業省の大臣が。
(橋爪)斎藤経産相は、元々書店振興に熱心な方なので本気の言葉ではないかと思います。プロジェクトチームの具体的な取り組みはまだ形として出てきてはいませんが、立ち上げ時に言っていたのは、カフェの併設やイベント開催で集客するといった各書店の工夫をまとめ、他店に事例を共有することで経営改善に役立ててもらうというようなことでした。
それから、これは既に2回実施しているんですが、書店経営者や出版社の関係者らを招いた車座集会を開催し、経営難や後継者不足などの課題に向けた解決策を模索していくようです。海外での取り組みも参考に、具体的な施策を検討するとも報道されています。
(山田)少し誤解を恐れずに言うと、本はだんだんデジタル化してきていますよね。そうなると、本屋さんがどんどんなくなっていくのは自然の流れなのかなと思ったりもするんですが、それを国レベルで対策を検討していく意義というのはどういうものなんですか。
(橋爪)例えば図書館やインターネットによる販売と書店の違いって、何があると思いますか?
(山田)知らなかったものに気がつくということですかね。
(橋爪)それです。対比させるようで申し訳ないのですが、ネット販売は個人の読書傾向を基にしてどんどん本が薦められて、それを買うという傾向になりがちですよね。一方、書店に行くと、例え目的の本があったとしても、いろいろな本や棚があるから思わぬ出合いというものがあって、自分の世界や教養の深さが高められます。つまり、知識や教養の拡張が諮られると言えるのではないかと思います。
これはなかなかネット販売ではできないこと。図書館は同じような機能があるかもしれませんが、市民にとってより身近な街中にそういった場所があることが書店の大事な役割です。
全国の書店は10年間で3割減。27.7%が「無書店自治体」に!
(橋爪)ただ、山田さんが言うように、書店業界の厳しさというのは数字にも表れています。
(山田)どうなっていますか?
(橋爪)数字より前に、目に見える現象にちょっと触れたいと思います。山田さんは静岡市中心部の育ちだと思いますが、昔はもう少し街中に書店があったと思いませんか。
(山田)繁華街にはおそらく数百メートルの間に3店ぐらいあったような気がします。
(橋爪)そうですよね。ちょっと名前を挙げると、呉服町通りに谷島屋と江崎書店があって、伊勢丹の近くに吉見書店があって。私は、特に参考書を買うときは吉見書店にお世話になりました。ただ、この3店舗はいずれも閉店、あるいは移転してしまいました。
最近で言えば、葵タワーに戸田書店静岡本店がありましたが、2020年7月に閉店してしまいましたね。
(山田)あれだけ大きい本屋さんがなくなってしまうんだというイメージはありましたね。
(橋爪)具体的なデータとしてよく使われるのが日本出版インフラセンターの統計なんですが、2024年5月21日時点で全国の書店は1万834店。前年同期から約5%減りました。同じデータで10年前はどうだったかというと、2014年3月時点で1万5621店舗ありました。10年間で約3割減っていることになります。
(山田)3割…。
(橋爪)もう一つ言われていることとしては、市町村の中に「無書店自治体」があるということです。
(山田)本屋さんがない自治体。
(橋爪)はい。出版文化産業振興財団によると、2024年3月時点で無書店自治体は全国で27.7%に上ります。
(山田)ほう。
(橋爪)4市町村につき1つは書店が1店もないという計算になります。静岡県も4自治体に書店がないんです。
(山田)そうか、自分の町に本屋さんがないという…。
書店減少の要因はネット販売の伸長と雑誌の低調
(橋爪)それを踏まえて国のプロジェクトチームは何とかしようと言っています。そもそも何で書店が減っているのかを考えると、一番に挙げられるのはネット販売の伸長ですよね。
もう一つは、雑誌の低調ぶり。定期刊行の雑誌は街の書店にとっては大きな収益源だったんですが、休廃刊が相次いだり、各媒体のWebシフトが進んだりしていますよね。
(山田)そうですね。某雑誌だと1記事いくらという形で買えたりもしますよね。
(橋爪)そういった理由で書店の売上が大きく減っています。さらに言うと、古くからの業界慣習が利益を圧迫しているという指摘もあります。
(山田)それはどういうことですか。
(橋爪)書店業は粗利が2割程度なんだそうです。そこから固定費などを抜いた純利益となると、1%前後になると言われています。
(山田)そうか。本を1冊売ったとして、収益は出版社などと分配する形ですからね。
(橋爪)そもそも粗利が2割というのは低すぎるというのが日本書店商業組合連合会の言い分で、「せめて粗利を3割にしてほしい」と言っています。つまり、出版社、問屋である取次、小売りである書店の売り上げの「取り分」のバランスが悪いんです。
委託販売というシステムがあるのですが、聞いたことはありますか?簡単に言うと、書店に並んでいる本はお金を払って仕入れているのではなく、仮置きしておいてそれが売れた時点で売り上げが発生するというものなんですが、そういう商慣習もこの先見直していかなければならないのではないかと思っています。
(山田)商売のあり方から見直したほうがいいと?
(橋爪)そうですね。私が担当した6月17日付静岡新聞の社説は、そういう趣旨になっています。
経産省のプロジェクトチームには、いろいろな人を巻き込む力があるはずです。斎藤経産相も「やはりWebと図書館と本屋、この3つが持ち味を生かしながら共存する、これがあるべき姿ではないかなと思っている」と言っているので、ぜひそういう姿を模索してほしいと思います。斎藤経産相は、この3つの中でどうも本屋さんが割りを食っているケースが多いと思っているようなので。
(山田)さきほどの話につながりますね。
(橋爪)そういう問題意識はあるんだと思います。
プロジェクトチームの今後は?
(山田)プロジェクトチームは具体的にどういうふうにしていくんですか。
(橋爪)なかなか想像がつかないところがあるんですが、一つのヒントとしては2017年に創設された「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」の提言があります。議員連盟の名称が長いんですが(笑)、当初は約40人の国会議員で結成し、現在は約150人が名を連ねています。斎藤経産相もメンバーの一人です。
全員自民党議員で構成しているんですが、2023年4⽉28⽇に会長の塩谷立さん(衆院比例東海)の名前で第1次提⾔を出しています。公正取引委員会、文部科学省、経済産業省と財務省にそれぞれ提案しているんですが、注目すべき事柄がいくつかあるので紹介します。
まずは「ICタグ導⼊、キャッシュレス決済導⼊などデジタル技術を活⽤した取組みが書店で進むよう⽀援策を検討」です。書店では万引き対策を含め、まだDXが進んでいないと指摘し、それを国で支援することを検討しようということです。
(山田)検討、はい。
(橋爪)次に、事業再生構築補助金や小規模持続化補助金などさまざまな補助金制度があるんですが、これに「書店枠」という特別枠を設けて、書店という業種を支援対象にすることを検討しようという提言です。
(山田)検討ですね。
(橋爪)もう一つ、私の注目点としては、フランスに反アマゾン法というのがあるんですが…。
(山田)反アマゾン法?
(橋爪)今は国内だとネット販売の本が配送無料で届きますよね。そういったものを制限しようという法律なんです。
(山田)へぇー。
(橋爪)これを参考にした不公正な競争の是正への取り組みを進めようと。つまり、ネット販売で送料無料にされると、街の書店は太刀打ちできないので、不公正だと捉えるということです。
(山田)公平にするための法律ですか。
(橋爪)それについて実態調査を⾏い、必要な対応を検討しようと言っています。
(山田)とりあえず今のところは「検討」ということですね。
(橋爪)これが議員連盟の提言なんですが、いずれも大事なことだと思うので、ぜひ国のプロジェクトチームの中でもいろいろと議論してほしいなと思います。
「推し本屋」づくりのススメ
(山田)橋爪さんは本や本屋さんがお好きですけど、この問題について何かこうなったら良いなという思いはありますか?
(橋爪)スポーツの応援や「推し活」などと同じように、この本屋さんを応援してあげたいという「推し本屋」ができるといいですね。
私はネット通販で本を買うことがほとんどないんです。「多少時間がかかってもいいから、この本屋さんで買いたい」と思って、ある書店で購入しています。
これは解決策ではなく願望的なものですけど、国民一人ひとりがそういう本屋さんを持っていれば書店の文化がなくなることはないのではないでしょうか。
(山田)確かに、推し本屋か。
(橋爪)推し本屋、作りましょうよ!
(山田)そうですね、やはりどうしても話題の作品などに目が行って、どこでも買えればいいやと思ってしまいますけど。
(橋爪)利便性から言うと、確かに注文した次の日に届くという便利さはもしかしたら書店にはないかもしれないですね。書店では、注文したら2週間後、3週間後になるということもあります。それを乗り越えて「この書店を応援したい」と思ってもらえるように、店づくりやお客さんへの対応に関する工夫を書店側がするといった課題はあるのだと思います。
(山田)音楽のCDなどは、ジャケットなどを見てワクワクしながらお店で手に取っていますよね。本でもそういう感じみたいなものは、書店じゃないと味わえないですよね。
(橋爪)ネット通販でも表紙を見ることはできますけど、手に取って装丁、ブックデザインに対して「いいな」と思う感情が湧くのは書店ならではですよね。
(山田)本の厚さとかもそうですよね。それを感じられるのは本屋さんですよね。
(橋爪)そうですよね。
(山田)というわけで今日は本屋さんのお話をしていただきました。今日の勉強はこれでおしまい!