生の薄切りりんごをたっぷりのせたノルマンディ地方の「タルト・リュスティック・オ・ポム」
こんにちは。菓子・料理研究家の山本ゆりこです。 16回に渡りフランスの地方や街と、その地方色が反映された郷土料理やお菓子をご紹介してきた『旅するフレンチレシピ』は今回が最終回。 最終回に訪れるのは、前回の「ブルゴーニュ」とパリをはさんで反対側、フランス北西部に位置するノルマンディ地方です。 ノルマンディはシードルやカルヴァドスの名産地として知られ、もちろんその原料となるりんごもおいしいところ。 ですから、りんごを主役にした料理やお菓子も豊富です! そのなかから今回は、近年フランスで流行っている型を使わないタルト作り方「リュスティック(田舎風の)」にアレンジを加えた、りんごの薄切りタルトのレシピをご紹介。 タルト・タタンのようにりんごを煮る必要はなく、生のまま焼くので下準備も簡単なんです。 また、生地も粉から作りますが、とっても簡単で、一度この味を知ってしまうと「手作りせずにはいられない!」というおいしさです。 では、りんごに加え、フランス屈指の酪農大国とも名高い、ノルマンディの旅へ!
タルト・リュスティック・オ・ポム(Tarte rustique aux pommes)の作り方
りんごは手に入れば、ぜひ紅玉を使いましょう! 紅玉を使う利点は2つあります。1つ目は酸味や香りがしっかり残るところ。2つ目は熱を加えても皮が赤いままで、皮ごと使えるところ。ふじや王林など手に入りやすいりんごを使う場合は、レモン汁で酸味を補い、皮もむいてから使いましょう。 【材料】(1個分)<練り込みパイ生地> ・無塩バター:70g ※1 ・薄力粉:150g ・塩:小さじ1/2 ・砂糖:大さじ1 ・植物油:大さじ1/2 ※2 ・冷水:大さじ1~3 ・りんご:1と1/2個(約300g) ※3 ・グラニュー糖:大さじ2+大さじ1/2~1 ※1:有塩バターを使う場合は、塩の量を「小さじ1/5」に減らしてください ※2:エクストラヴァージンオリーヴオイルがおすすめです ※3:紅玉以外の品種は、皮が赤くても焼くと茶色くなってしまうので、皮をむいてから使用してください。薄切りにしてから、りんご1個(約300g)に対し、レモン汁大さじ1をふりかけます 【作り方】1.練り込みパイ生地を作ります。・バターは1cm角に切り、冷蔵庫に入れておきます。 ・ボウルに薄力粉をふるい入れ、塩、砂糖、バターを加え、粉をまぶしながらバターを手でつぶし混ぜます。 ・植物油、冷水大さじ1を加え、混ぜながらひとかたまりにまとめます。まとまりにくいときは、残りの冷水を少しずつ加えましょう、 ・生地がまとまったら、丸くしてラップで包み冷蔵庫で15分ほど寝かします。 2.生地をのばして、りんごをのせます。・台の上に幅30cm以上の正方形のクッキングシート(ない場合は重ねてもOK)を敷き、冷蔵庫から出した生地をのせ、めん棒で直径30cmの円形になるまでのばします。 生地がめん棒にくっつきそうになったら打ち粉(分量外/強力粉、ない場合は薄力粉でもOK)をふりましょう。
・上の写真のようにフォークで生地全体に穴をあけ、冷蔵庫で15分寝かせます。 ・りんごは芯を除き、厚さ5mmのくし形に切ります。
・生地を冷蔵庫から出し、上の写真を参考に、中心からりんごを好きに並べます。なんとなく丸くなればOKです。りんごの上にグラニュー糖大さじ2をまんべんなくふりかけます。 ・クッキングシートを使って、丸くなるように、縁を内側に折り込み、クッキングシートを広げて、縁や全体の形を整えます。 ・クッキングシートごと天板に乗せ、生地の縁部分にグラニュー糖大さじ1/2~1をまんべんなくふりかけます。 3.オーブンで焼きます。・230℃に温めたオーブンで40分前後、生地がこんがりきつね色になるまで焼きいたら完成。
牧歌的な景色が印象的な酪農とりんごの土地
パリがあるイル・ド・フランス地域圏とイギリス海峡にはさまれたノルマンディ。 海沿いは海の幸に恵まれ、内陸部は豊かな牧草地やりんご畑が広がる、フレンチカントリーの代名詞のようなエリア。 ノルマンディの田舎家は、素朴な色合いのコロンバ-ジュ(並んだ木に漆喰)が多く見られます。
ノルマンディの乳製品がおいしいのはこの「ノルマン種」と呼ばれるおいしいミルクを出す牛さんたちのおかげです。
みなさんがご存知のカマンベールはノルマンディ生まれのチーズ。本物はカマンベール・ド・ノルマンディと呼ばれ、ノルマン種の濃厚なミルクが原料なのです。 10年以上前になりますが、ノルマンディの歴史あるりんごの産地「ペイ・ドージュ」を訪れたことがあります。 旅の目的は、産地ならではのりんごスイーツと出合うこと。 聖書にも登場するりんごは、フランス人にとってもっとも身近な果物。りんごを生産している地域は、ノルマンディだけでなく広範囲にわたっています。 パン屋に行けば、りんごのピュレが入ったパイ「ショソン・オ・ポム」や丸いベニエ(揚げドーナツ)がありますし、5月にご紹介したサントル地方には、「タルト・タタン」という、同地でホテルを営んでいた姉妹が考案したという郷土菓子が存在しているのです。 なので、りんごの名産地・ノルマンディだったら、もっとたくさんのりんごを使った郷土菓子に出合えるのではと、期待が膨らみました。
ペイ・ドージュでは、りんごやカルヴァドス(りんごの蒸留酒)を作る農家さん、りんごのパイで賞をとったパン屋さん、りんごのスイーツでおもてなしをしてくれたシャンブル・ドット(民泊施設)やサロン・ド・テなどを巡りました。 特に、今でも「おいしかったなぁ」と舌の記憶に残っているのが、シャンブル・ドットのマダムが作ってくれたアントルメ(食後の甘いデザート)。 角切りりんごがどっさり入り、粉が入ったプリンのような口当たりが、りんごのやさしい甘さと相まって、すっと胃におさまっていく素朴な味わいでした。 もう1つは、パン屋さんがおまけで作ってくれたりんごパン。 パン生地にいちょう切りにしたりんごを並べて、くるくる巻き、切って焼いただけのシンプルなもの。 それなのに、りんごの甘みが感じられる絶品のパンでした。 この2つ以上に感激して、今でもアレンジしながら作っているのが、りんごの薄切りを広げて焼いただけのタルト「タルト・リュスティック・オ・ポム」です。 カルヴァドスの醸造所のマダムが作ってくれたのですが、表面がツヤッと光り甘酸っぱかったので、マダムに尋ねると「シードルかカルヴァドスのジュレを塗っているだけよ」と…。 「もうひと切れ、もうひと切れ…」とついおかわりをしてしまう、あとを引くおいしさは今でも蘇ってきます。
そして、ノルマンディにはこんなりんごのお菓子もありました。中央にカルヴァドスが入ったりんごの形をした砂糖菓子です。 このようにノルマンディでは街のいろいろなところでりんごを目にするのです。
並べ方で味わいも変化する田舎風のりんごタルト
最近はこのりんごのタルトを、ここ数年、フランスで流行している型を使わない「タルト・リュスティック(Tarte rustique)」スタイルで作っています。 リュスティックは「田舎風の」のという意味なので、「フレンチカントリータルト」といったところでしょうか。 りんごの並べ方で味わいが変わるのも発見でした。
上段はりんごを真ん中に寄せて焼いたもの、下段はりんごを広げて焼いたもので、同じ材料で作っているのに、見た目も味わいもちょっとずつ異なるんですよ。 薄いりんごが重なった姿は、花弁が重なっているバラのようで美しいですよね。 ストレートティーやフレーバーティーにも、もちろん合いますが、白ワインで割ったノルマンディ産の発泡りんごジュースやシードルと合わせても◎。 人が集まる機会が多いシーズン、手軽に作れる「タルト・リュスティック・オ・ポム」でおおもてなししてみませんか? ■書籍情報
『小さなお菓子の本』(¥1650/リベラル社)ヨーロッパのお菓子の紀行エッセイから、アメリカ、アジア、日本のお菓子、芸術家・文豪に愛されたお菓子、文学の中のお菓子などにまつわる小さなお話を、かわいい写真とともにご紹介。心ときめく世界のお菓子の魅力が詰まった1冊です。家庭で簡単にできるお菓子のレシピも掲載しています。