バンド初となるアニメのエンディングは「タイアップらしくない曲にしよう」──アニメ『グノーシア』リレーインタビュー第2回 エンディングテーマ担当・凛として時雨
2025年10月11日より放送がスタートしたTVアニメ『グノーシア』。
舞台は宇宙を漂う一隻の宇宙船、星間航行船D.Q.O.。人間に擬態した未知の存在「グノーシア」を排除するため、乗員たちは毎日1人ずつ、話し合いと投票によって“疑わしき者”をコールドスリープさせていきます。
しかし、主人公・ユーリは、どんな選択をしても“1日目”に戻ってしまう——そんなタイムリープの渦中にいました。
極限状況の中で交わされる会話を通じて、少しずつ明かされていく乗員たちの本音や秘密。信じるべき相手は誰なのか。何が正しい選択なのか。繰り返されるループの先に待つものとは——。
人狼ゲームをベースにしながらも、SF要素やキャラクタードラマを掛け合わせた独自の体験型ゲームとして熱狂的な支持を集めてきた『グノーシア』。その唯一無二の世界を映像として立ち上げるにあたり、制作陣はどのような試行錯誤を重ねてきたのでしょうか。
第2回は、エンディングテーマ「Loo% Who%」を手がける凛として時雨のTKさん、ピエール中野さんに、楽曲制作の舞台裏や作品への想いを伺いました。
【写真】アニメ『グノーシア』リレーインタビュー第2回 凛として時雨
「エンディングに時雨を持ってくる」という意味
──『グノーシア』という作品に初めて触れたとき、どのような印象を受けましたか?
凛として時雨・ピエール中野さん(以下、中野):ベースとなっている人狼ゲーム自体、とても面白いと思っていたのですが……「こういう形で作品化できるんだ」とまず衝撃を受けました。
キャラクターが一人ひとり本当に魅力的で、展開も読めない。「この先どうなるんだろう?」とめまぐるしく引っ掻き回される感じがあって。ざわざわする感じやドキドキ感、先の見えないスリルにすごく引き込まれました。
凛として時雨・TKさん(以下、TK):確か、(中野君は)SQ推し?
中野:そう(笑)。シンプルに可愛いから。目立つキャラが好きなんです。
TK:僕はこの作品のためにSwitchを買いました。普段ゲームをやらないので、入っているのは『グノーシア』だけです(笑)。
実際にプレイしていると、何度もループを繰り返す中で自分という存在とゲーム内の主人公が入り混じっていく感覚のようなものがありました。発言や選択で展開が変わり、自分という存在とゲーム内の主人公……そしてキャラクターたちとの関係が入り混じっていく。その体験が物語の核心になっていると感じます。
「あのときこの選択をすれば、展開が違ったかも」とか、色々な考察をする余地があるのも魅力でしたね。
──エンディング楽曲制作について、どのようなオーダーや要望があったのでしょうか? 今回の取材にはプロデューサーの木村さんにも同席していただいているので、ぜひ制作の流れから聞かせてください。
プロデューサー・木村吉隆さん(以下、木村):アニプレックスとしては、主題歌に関する相談はグループ会社であるソニー・ミュージックを通して進めています。アニメ『グノーシア』に関しては、実は原作であるプチデポット代表の川勝さんから「凛として時雨さんにエンディングをお願いしたい」という希望がありまして。
自分としても凛として時雨さんは大好きなアーティストの1組で、作品にもぴったりだという感覚があったので、是非お願いしたいということでオファーをさせていただきました。
最初に『グノーシア』の作品資料や、エンディングに希望する方向性のイメージをまとめたペーパーを作成して、凛として時雨さんのチームにお渡ししました。
エンディングにもいろいろなパターンがあると思うのですが、今回アニメチームからは「次の話数に続くオープニングのようなエンディングにしてほしい」というご相談をさせていただきました。
アニメ『グノーシア』のシナリオはクリフハンガー方式というか、各エピソードのラストに、次のエピソードにつながるヒキを作っているので、その演出に合うようなエンディングをお願いしたいなと。
TK:確か僕の記憶では、先にデモを制作して、そのあと最初の打ち合わせをしたのかな。まずペーパーをいただいて、その後に数か月の制作期間があった気がしますね。木村さんのおっしゃる通り、オーダーは「エンディングでありながら、次の回へつながるオープニングのような曲」というものでした。
中野:たぶん、時雨としてアニメのエンディングを担当するのは初めてじゃない?
TK:そうだね。僕らの音楽はエンディングに置くにはかなりクセが強いので(笑)、その音が作品の最後に来ることが、作品全体のバランスの中でどう響くのか、最初はなかなかイメージできなくて。汲み取るまでに、少し時間がかかりました。
「エンディングに時雨を持ってくる」ということの意味合いを考えたときに、「頼まれたから作る」というスタンスは違うなと。だから「タイアップらしくない曲にしよう」とは、最初からずっと考えていましたね。
イントロが鳴った瞬間に何かが新しく始まる感覚がありつつ、でもどこか煮え切らない感情のようなものが違和感として残り続けるような、そういうエンディングにしたかった。難しかったけど、結果的には割と早く形にできたかなと。
木村:僕は曲のイントロに入っている、時計の音のような“チッチッチッ”という音がすごく印象的でした。あの音を聞いたときに「うわータイムリープものだ!」という感動があって。
TK:時計の音は、クリックの音とクロックの音を同時にレイヤーで重ねて作っているんです。危機迫る感じと余韻を同時に出したくて。エンディングのイントロで、完全に流れを断ち切ってしまうのも一つの方法ですが、今回は余韻を残したまま切り替えたいと思ったんです。
今まで100あったものを0にして自分たちの世界にしてしまうのは、ある意味では簡単。でもそうじゃなくて、(作品世界を)どこか引きずるように、いつの間にか時雨の世界に入り込んでいく。その方が『グノーシア』の世界観と合うんじゃないかと思いました。
シンプルなイントロなんですけど、「流れた瞬間に違うキャラクターが登場するイメージ」が観ている人に焼きつけばいいなと。イントロが鳴った瞬間に「あのキャラが出てきた」とか、「自分の推しが登場したときの感覚を思い出す」とか、そういうフラッシュバックを呼び起こせる要素があればいいな、と思っていました。
──歌詞についてはいかがですか?
TK:歌詞について、特にサビでは「頭の中がぐちゃぐちゃになる感じ」をずっと作りたかったんです。綺麗に終わる曲ではなく、聴いている途中に「あれ、今どこに居るんだろう?」ともう一度聴き返したくなるような、そんな楽曲を目指しました。
──「Loo% Who%」というタイトルには"ループ"の意味が込められているのでしょうか。
TK:そうですね。木村さんからいただいたオーダーシートにも「ループをモチーフにできれば」という要望がありました。ただ、最初から「ループをモチーフにしよう」と狙ったわけではなくて。
ふとした瞬間に「自分が誰なのか」という感覚が全て消え去って、また別の場所にループしていく。その中で「ループしている自分」と本当の「自分自身」がどのくらいの割合で存在しているのか……。そういう感覚をタイトルとして込められたら面白いなと思って、気づいたら「Loo% Who%」というタイトルになっていました。
「90秒の中にバンドの全部を詰め込む」
──今回、TVアニメ『グノーシア』に関わる中で、刺激を受けた点を教えてください。
中野:僕の場合は、TKが作ってきた楽曲に対してどうドラムを入れるかという視点なので、直接的に作品から刺激を受けたということではないのですが……。
完成したアニメを見て「この人(TK)はやっぱり天才なんだな」と実感することが多かったです。「これを表現したいから、こういうドラムを求めていたんだ」と理解できた瞬間は大きな刺激でしたね。
タイアップ作品では必ず作品のニュアンスがどこかに反映されるので、その要素と時雨の世界が掛け合わさったものに触れられるのは本当に貴重です。今回は『グノーシア』の世界でのTKの音楽を目の当たりにできたことが、一番の刺激でした。
TK:刺激を受けたことか……僕は、木村さんの熱量に圧倒されました(笑)。
木村:恐縮すぎます……。
中野:でも実際、熱量ってすごい大事だよね?
TK:そうそう。本当に大事。たとえば木村さんからある提案をいただいたとき、僕の中では「ちょっとこれはうまくいかないかもしれない」という部分もあったんです。
でもそういう時に僕の意見を伝えると、木村さんは「じゃあ別の人に確認してみます」じゃなくて、「大丈夫です、僕が決めますので」と言ってくれる。座組みや手順も大事ですけど、それ以上に「どうすれば作品がよくなるか」にみんなの視線が向いているから、クリエイティブのキャッチボールがすごくスムーズなんです。
普通に考えれば「プロデューサーと音楽を作る人が話して作品をよくしていく」って当たり前のことのように思われるかもしれません。でも実際には、色んな人を経由して誰の意見かが見えづらいこともあるんです。
その中で、木村さんは僕たちの作るものや仕掛けを信頼してくれていて、「どう使ったら面白いか」を一緒に考えてくれるんです。そういうやりとりができる現場は本当に貴重で、気持ちがすごくブーストされました。
──アニメ作品では音楽も含めて本当に多くの人が関わる制作になりますよね。今回のようなタイアップでの楽曲制作において、そうした環境ならではの難しさや課題を感じる部分はありますか?
TK:そうですね。やっぱり関わる人が多いので意図を汲むのに時間が掛かる時もあります。でも何を創り出すのが作品にとって1番なのかという目的地は一緒ですから、たくさんの人を経由しながらもそこへの焦点をずっと保ちながら、楽曲を研ぎ澄ませることが大事ですね。
でも今回は、かなりダイレクトにやり取りできた感覚がありました。通常ならフルサイズの楽曲をアニメ側に提出することはあまりないと思うんですが、僕はフルも聴いてもらいたいと思ったんです。使われるわけではなくても、言葉や世界観まで含めて共有した方がいいだろうと。
それで送ってみたら、木村さんの側から新しいアイデアが返ってきたり、「ここに懸念があるから、どう解決していこうか」と具体的なやり取りに発展したり。良い意味で、ここまでシンプルなやり取りができる現場は、実はなかなかないんじゃないかと思います。
──アニメのオープニング・エンディングは約90秒という時間的な制約がありますが、この点についてはどのように捉えていらっしゃいますか?
TK:僕は好きですね。短い方が作りやすいし(笑)、取捨選択が面白いから。むしろフルにする方が大変かもしれないです。例えば先にフルを作ってしまうと、そこから90秒にまとめるときに「ここを削ると意味が通じなくなる」と自分の中で感じ過ぎる箇所が出てしまうので。
でも最初から90秒で作れば、それがアニメサイズにおいては完全体じゃないですか。だから僕はまず90秒の中にバンドの全部を詰め込むことを優先しています。
ただ、そこにも難しさはあります。90秒を先に作ってしまうと、そのテンションのままフルに広げられるのかという問題が出てくる。しかも制作のタイミングも難しいんです。例えば、去年の12月にデモを作ったとして、その楽曲の確認に時間が掛かったりすることもあります。
フルサイズを作るまでにタイムラグがあると、時間差で1分半の熱量の続きを取り戻すのが難しい時もあります。そのお陰で全然違うエッセンスを加えられることも多いんですが(笑)。
──映像制作のスケジュールも影響しそうですね。タイアップとなると、作品の映像資料が完全に揃っているケースの方が珍しいのではないでしょうか。
TK:映像が来るのは、基本、本当に最後の最後で。今回はゲームが原作だったのでありがたかったのですが、絵コンテのみを見て作り始めることもありますね。
人によっては文字だけでもイメージを浮かべられるかもしれないんですけど、僕は文字だけだと難しいタイプで(笑)。時には10秒くらいの「アニメ化決定!」的なPVしかない状態から作ることもあります。
だからこそ、できる限り情報をかき集めて、キャストさんの声色や作画のトーンを想像しながら作っていく。その上で、本編の最後に聞く音楽、残る余韻として成り立つようにする……という感じです。
中野:TKがどんな引き出しを開けてくるかには、毎回驚かされます。俺が最初に(アニメタイアップ作品の)デモを聴いたのは『PSYCHO-PASS サイコパス』主題歌の「abnormalize」だったと思うんですけど……あのときは衝撃でしたね。「とんでもないな」って思ったし、「これからも一緒に(バンドを)やろうね」ってその場で言いました(笑)。
プロデューサー・木村さんが考える“本当に強い曲”
──ちなみに映像制作といえば、TKさんと中野さんに制作中(※取材時)のエンディング映像も観ていただきましたが、いかがでしょうか?
TK:今はCG周りの作業中なんですよね? 完成がめちゃくちゃ楽しみです。
木村:ありがとうございます。今回のエンディング映像は、作中に登場する「銀の鍵」というアイテムをモチーフにしていて。
さまざまな情報が「銀の鍵」の中で処理されているというニュアンスを、市川監督と相談して、映像の中に込めてもらっています。原作をご存じの方は「あれ、この絵は?」と気になるカットもあると思うので、そのあたりも楽しんでいただけたら嬉しいです。
中野:本編ならともかく、エンディングでもCGをここまで使うってすごいですよね。
木村:実はアニメ『グノーシア』はCGをすごく効果的に活用していて。会議の舞台として登場するメインコンソールをはじめとして、さまざまな場所が3DCGで組まれています。
キャラクターは作画ですが、どういうカメラワークでキャラクターを映すのかは、1回CGでキャラクターを仮置きしてみたりと、技術を活用しながら制作を進めています。アニメーション制作のドメリカさんがCGに強いスタジオということもあって、僕自身、こういうアニメの作り方があるのか!と驚かされる場面が多いです。
TK:なるほど。本編の延長線上でありつつ、また本編とは違うCGを使った映像が見られるのはいいですね。次の話数の動線としても、ここからまた新しい世界が始まっていく感じがしますし。
木村:楽曲が本当に素晴らしいので、それに負けないエンディング映像にしよう!とスタジオとは会話をしていました。エンディングでありながら、オープニング的な役割も担っているので、映像としても「続きが見たい!」と思わせる余韻をどう表現していくのかは大きなテーマの1つでした。
そして曲のイントロが本編の絵に食いこんでスタートすることも、今作のこだわりの1つです。アイデアを出してくださったのはソニー・ミュージックの田坂(健太)さん(主題歌協力)なのですが、そのアイデアを聞いたときに、昔ある作品で「アニメで1番強いのは挿入歌だ」と教えてもらった話を思いだして。
アニメの好きなシーンや、ワクワクした瞬間を思いだすときに、自然と頭の中で曲が流れるようなものが、本当に強い曲なのだと。
これをアニメ『グノーシア』で試そうと思ったときに、作品のクリフハンガー方式との相乗効果も狙って、新しい乗員が登場するところにイントロを重ねるのは、すごくいいのではないかと思いました。
視聴者の皆さまのワクワクする気持ちに“チッチッチッ”という音楽が重なって、すごく気持ちのいい映像体験になるかもしれないなと。そういった部分にも、是非注目していただければと思っています。
──最後に、第2話をご覧になった皆さんへ向けてメッセージをお願いします。
TK:この先、予測不能なエンディングから何が始まるのかを楽しみにしていただきたいです。ぜひ最後まで目を離さずに見届けてもらえたら嬉しいです。
中野:僕らも現時点では、この先アニメで何が描かれるのかはまだ知らないんです。だからこそ、ぜひ一緒に楽しんでいただけたら嬉しいですね。