コレクターズ、ピチカート・ファイヴ、じゃがたらなど、日本のロックも育ててきた伝説の呼び屋、トムス・キャビン麻田浩の80祭を観た
FOREVER YOUNG! トムス・キャビン麻田浩80祭
2025.2.8 リキッドルーム
2025年2月8日(土)、リキッドルームで、『FOREVER YOUNG! トムス・キャビン麻田浩80祭』が開催された。
1963年にマイク真木らとのMFQでミュージシャンとしてキャリアをスタート。さまざまな活動、さまざまな職を経て、1976年に、当時大手イベンターは呼ばなかった、アメリカのシンガー・ソング・ライターを招聘する会社として、トムス・キャビンを創業。1980年代以降は、GODIEGOとTHE ROOSTERSの在籍したジェニカ・ミュージックを経て、日高正博と共にスマッシュを設立、SIONと出会い麻田事務所を興してTHE COLLECTORSやピチカート・ファイヴ、The Willard 、DER ZIBET、THE STRIKESをマネージメント。その後『サウス・バイ・サウス・ウエスト』のアジア代表として同イベントの『Japan Nite』をプロデュース、数々のアーティストの海外への足がかりを作る──等々、60年以上にわたって活動してきた麻田浩。
マネージメントやライブ等の各時代で彼と関わってきたアーティストたちが集まり、この善き日を祝った。
以下、アクトごとに、順にレポートする。なお、全アクトの登場前にMCを務めたサエキけんぞうが、それぞれの麻田へのメッセージを読み上げてから呼び込む、という形で、ステージが始まった。
■Oto & EBBY
トップに出演したのは、Oto (Gt)と EBBY(Gt)、村田陽一(Tb)、ヤヒロトモヒロ(Per)の元じゃがたらメンバーたちによるユニット。
じゃがたらはボーカル江戸アケミの永眠により解散したが、アケミの没後30年の2020年に「JAGATARA2020」として期間限定で復活している。その時に参加した関根真理(Per・渋さ知らズ)と宮田岳(B・元黒猫チェルシー、頭脳警察)も出演するはずだったが、宮田は急な体調不良で大事をとって出演を見合わせたため、ベースレス編成での演奏となった。
歌はOto&EBBYのどちらか、もしくはツインボーカルで、関根真理が歌うパートもあり。
1曲目の「BLACK JOKE」は、麻田がコーディネートした、JAGATARAのメジャーデビュー・アルバム『それから』(1989年)の収録曲。
3曲目は、1972年リリースの、麻田浩のソロ・デビューアルバムの収録曲「もどってほしい」のカバーで、彼に対するサプライズとして演奏された。
4曲目「れいわナンのこっちゃい音頭」は、2020年1月29日に、JAGATARA2020がリリースしたEP『虹色のファンファーレ』のカップリング曲である。
5曲目「Super Star?」は、じゃがたらのメジャーからのセカンド・アルバムであり、江戸アケミ生前最後の作品になった『ごくつぶし』(1989)年からの曲。
そして6曲目の「もうがまんできない」は、じゃがたらの、というよりも日本のロックの歴史において重要な1曲。大槻ケンヂがカバーしたり(1995年)、宮藤官九郎が自身の演劇作品にタイトルを借り、テーマソングとしても起用したり(2020年・2023年)、時代もジャンルも超えて、後続たちに影響を与えた。
「I Want You Come Back」に入る前にOtoは、麻田さんをじゃがたらに紹介してくれたのは、じゃがたら、BO GUMBOS、THE COLLECTORS、細野晴臣等のジャケットのアートワークを手掛けた八木康夫さんで、彼は2024年の4月9日に亡くなってしまった。今日は麻田さんに「ありがとう」の気持ちと同時に、八木さんがここにいたらどんなにうれしかっただろうなと思って、八木さんも連れて来ました──と、八木康夫が遺した作品をまとめたファイルを掲げた。
またいつかライブがあること、その時は宮田岳も参加した形でのステージを観れることを、期待したい。
<セットリスト>
1. BLACK JOKE
2. Woke Up Blues(新曲)
3.I Want You Come Back
4.れいわナンのこっちゃい音頭
5. Super Star?
6.もうがまんできない
7.クニナマシェ
■小西康陽
ひとりで弾き語りでの出演。「持ち時間が15分しかありません。ブッキングした人、僕のライブを観たことないと思う。15分だと1曲やって終わりかな」という最初の言葉どおり、だいぶ喋ってから歌に入り、歌の途中でまた喋り始め、歌に戻り、そしてまた喋り──という構成で、本当に1曲で終了。
作詞作曲編曲:小西康陽、ボーカル:麻田浩で、7インチのレコードとして作った「きみには歌いたいことなんてないのに」が、この日、小西康陽が歌った曲である。
コロナ禍の自粛期間中に、麻田への曲を作りたくてたまらなくなったこと、本人に会ってOKをもらったこと、雑誌BRUTUSやrelax等を作った岡本仁が個人でスポンサードしてくれたことなどが、曲の途中のしゃべりで明かされる、という、マイペースに見えながらすべてを伝える、見事なステージだった。
次の、小西康陽終わりのステージ転換の時間から、サエキけんぞうが麻田に訊く形で、麻田のキャリアを振り返るトークが、はさまれるようになる。
ミュージシャンとしてのキャリアのスタートから、SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)のアジア代表を30年務めた現在までを、数度に分けて全部ちゃんと紹介していた。
■THE COLLECTORS
THE COLLECTORSは、その前の加藤ひさしのバンド、THE BIKEの頃にたまたま新宿JAMで観た麻田がその後スカウトし、SIONに続く麻田事務所所属アーティストとしてメジャーデビューした──という縁である。
1曲目の「タイムトリッパー」、2曲目の「シルバーヘッドフォン」、6曲目の「Hold Me Baby!」7曲目の「スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない」は、リリース・ツアー中であるニューアルバム『ハートのキングは口髭がない』からの曲。
そして、3曲目「TOO MUCH ROMANTIC!」、4曲目「1・2・3・4・5・6・7 DAYS A WEEK」、5曲目「夢見る君と僕」、ラストの8曲目「僕の時間機械」は、麻田事務所在籍時のメジャーデビュー・アルバム『僕はコレクター』(1987年)の収録曲。
というふうに、現在のアルバムとファースト・アルバム、2つの時代の曲を今日は演奏することを、途中で加藤ひさしが話す。
そのデビュー・アルバムをレコーディングしている途中に、当初の事務所が降りてしまい、途方に暮れていたら麻田が現れて、「日本にもモッズ・バンドがいるんだって?」とマネージメントを買って出てくれた、救世主だった、でも最初の給料は5万円だった──等の思い出話で、何度も爆笑をとりつつ、新旧の楽曲でオーディエンスを酔わせた。
<セットリスト>
1.タイムトリッパー
2.シルバーヘッドフォン
3. TOO MUCH ROMANTIC!
4. 1・2・3・4・5・6・7 DAYS A WEEK
5.夢見る君と僕
6. Hold Me Baby!
7.スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない
8.僕の時間機械
■小西康陽
このタイミングで、小西康陽がDJで登場 (開場時などの、他のタイミングでは、渋谷PARCO QUATTRO LABの柿原晋がDJを務めた)。1曲目にTHE COLLECTORSの「世界を止めて」を持ってきて、オーディエンスを湧かせる。
その後は、中学の頃、デイヴィッド・ブルーの『短編集』を買ったら、麻田さんがライナーノーツを書いていて、彼の存在を初めて知った──という、さっきのライブの時にした話を受けて、そのアルバムの1曲目である「Looking For A Friend」や、同じくさっきの出番で歌った「きみには歌いたいことなんてないのに」等を、トークを交えつつスピンした。
■曽我部恵一
麻田さんのレコードが好きで、やっぱり僕はシンガーソングライターというイメージがあって。今日はこんなすばらしいところに呼んでいただいて、僕なんか今日の中では若輩者ですけど、すごく幸せです──というような話をしながら、3曲を弾き語りした曽我部恵一。
1曲目は2014年に曽我部恵一名義でリリースしたシングル、2曲目はサニーデイ・サービスの2020年リリースのアルバム『いいね!』の収録曲。子供が3人いて、いちばん下の高1男子は今ニュージーランドに3ヵ月留学している、次の曲は長女が生まれた時に作った──という紹介から歌われた「おとなになんかならないで」は、サニーデイ解散後のソロになって2作目のアルバム『曽我部恵一』(2002年)からの曲である。
「子供が3人いて」のところで「へえー!」と声が挙がったりしていたので、普段あまり曽我部に触れていない人も多かったと思われるが、にもかかわらず、その歌の圧倒的な表現力で、オーディエンスを引き込み、曲が終わる度に大きな拍手と歓声が上がった。
<セットリスト>
1.bluest blue
2.コンビニのコーヒー
3.おとなになんかならないで
■田島貴男
麻田へのメッセージを「クルマのパイセン」というひとことで簡潔に表した田島貴男は、ピチカート・ファイヴの二代目ボーカリストだった時期に、共に仕事をした関係である。
「ひとりソウルショウ」と銘打って全国を回っているあのスタイル=ギターとハープとリズム(右足がキックで左足が鈴)を自在に操りながら、自身の新旧の代表曲を熱唱。「なんかしゃべると思ってます? しゃべんないですよ、苦手なんで」などと言いつつ、矢継ぎ早に曲を放ち、オーディエンスを巻き込んでいく。
「bless You!」でのハンドクラップと、「JUMPIN’ JACK JIVE」でのコール&レスポンスの熱さは、彼のワンマンライブのような圧巻のパフォーマンスだった。
<セットリスト>
1.フィエスタ
2.接吻
3.bless You!
4.JUMPIN’ JACK JIVE
■麻田浩and Thee Band
Dr.kyOn(key・元BO GUMBOS)、上原ユカリ裕(Dr・元村八分・元シュガー・ベイブ)、井上富雄(B・元THE ROOSTERS)、武谷健(G・麻田が現在率いているカントリー・ミュージックのバンド、The Flying Dumpling Brothersのメンバー)、小木奈歩(Cho・Petty Bookaのメンバーで、麻田の友人で、曲提供もした森山良子の長女)──という、麻田に縁のある歴代のミュージシャンたちが集まった、この日限りのバンド=麻田 浩and Thee Bandが、トリ。
ほぼカバー曲なので、曲名の後の( )に、元のアーティスト名と、その曲を歌ったボーカルの名前を記した。
エルヴィス・コステロやトム・ウェイツは、麻田が最初に日本に招聘したアーティスト。コステロの「アリスン」を歌うにあたって、曽我部は日本語訳詞を書いてきて、初披露した。
細野晴臣、センチメンタル・シティ・ロマンス、小坂忠は、麻田と同じ時代を生きて、親交が深かったアーティストたちである。
Dr.kyOnがマンドリンを弾きながら歌った「Wild Horses」は、彼自身の選曲。キース・リチャーズ&ミック・ジャガーが書いた曲を、グラム・パーソンズが気に入ってフライング・ブリトー・ブラザーズで録音し、後にローリング・ストーンズも演奏したこの曲を、Dr.kyOnは、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアとマンドリン奏者のデヴィッド・グリスマンを中心とするOld &In The Wayのバージョンを参考に、ブルーグラス・テイストにアレンジし、麻田に捧げた。
曽我部恵一、田島貴男、というゲストボーカルに続いて出てきた麻田は、「昔、田島が新宿のJAMでやっている頃は、まだ数人しかお客さんがいなかったのに、すっかりすばらしいミュージシャンになっていて。今日は他にも、すごい出演者がたくさん集まってくれて」と、感謝を伝えた。
麻田自身の楽曲である「マヨネーズ・ベイビー」は、「Dr.kyOnとやるなら、この曲」と、麻田自身がセレクト。1974年にムーンライダースの岡田徹、はちみつぱいの和田博己、ギタリストの徳武弘文らとレコーディングしたが、レコード会社から「これじゃ売れないからアレンジを変えよう」と言われてリリース出来なくなり、歌うことをやめてしまった──という幻のセカンド・アルバムの曲で(後年に出たベスト盤に収録された)、当時、ニューオリンズを意識して作った曲だという。
「ありがとう」は、麻田が中心となって2005年・2006年・2023年に埼玉県狭山市で開催した「ハイドパーク・ミュージック・フェスティバル」の一回目=2005年の時、細野晴臣のステージにゲスト出演した小坂忠が歌った曲。小坂忠は2022年に亡くなり、2023年の同フェスでは「小坂忠トリビュート・バンド」の時間が設けられた。「今日来てくださったみなさんへ」という意味合いで、麻田はこの曲をセレクトした。
そして最後の「The Weight」は、コステロ等と同じく、かつて麻田が招聘したザ・バンドの、最も世に知られたレパートリーである。ガース・ハドソンが今年1月に87歳で亡くなった、これでザ・バンドのメンバーは全員いなくなってしまった、この歳になると周囲がどんどん亡くなっていく──という話のあと、そうした友人たちへ捧げるように、演奏された。麻田、小木、曽我部、田島、EBBYが歌い継ぎ、井上もボーカルをとる。
曲が終わると、ロリータ18号の石坂マサヨから、花束と「ハッピーバースディ」の歌が麻田に贈られた。そして、THE COLLECTORS、小西康陽なども登場して記念撮影を行い、4時間47分に及んだこのイベントは終了した。
麻田浩and Thee Bandの出番前、最後のトークで、サエキけんぞうは、ここまで紹介してきた麻田の生き方を総括し、「麻田浩さんのような人を、人生の勝利者というんじゃないでしょうか」と締めた。
それを受けて麻田は「今日はっきりと、80まで生きてよかったと思いました」と答えた。
これからも麻田浩の活動が続き、次のアニバーサリー・ライブも行われることを、楽しみにしたい。
<セットリスト>
1.TIME IS TIGHT(BOOKER T & THE MG’s/インスト)
2.Pom Pom蒸気(細野晴臣/小木奈歩)
3. Wild Horses(ローリング・ストーンズ/Dr.kyOn)
4.Alison(エルヴィス・コステロ/曽我部恵一)
5.内海ラヴ(センチメンタル・シティ・ロマンス/曽我部恵一)
6.Ol’55(トム・ウェイツ/田島貴男)
7.Got My Mojo Workin’(ジミー・スミス/田島貴男)
アンコール
8.マヨネーズ・ベイビー(麻田浩/麻田浩)
9.ありがとう(小坂忠/麻田浩)
10.The Weight(ザ・バンド/麻田浩、曽我部恵一、田島貴男、井上富雄、EBBY、サエキけんぞう)
取材・文=兵庫慎司
撮影=佐藤哲郎、西岡浩記