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土下座で謝罪されても、納得しないのは見返りを得るため。カスハラ加害者の考える「合理的な選択」とは

毎日が発見ネット

土下座で謝罪されても、納得しないのは見返りを得るため。カスハラ加害者の考える「合理的な選択」とは

従業員を高圧的に攻撃し苦しめる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。コロナ禍を経てますます増加したカスハラから従業員を守るため、企業は早急な対策を求められています。犯罪心理学者の桐生正幸氏は、著書『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)で、豊富な調査実績をもとにカスハラが起こる理由とその対策を提案。いまや社会問題化しているカスハラの事例を通し、従業員や自身の心を守る方法、そして「客」としての自分自身を見つめなおしてみませんか。


※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。


※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)

終わらない土下座事件


仲間がいることを匂わせて、従業員を脅して土下座をさせる事件は他にもある。同じく2014年12月、北海道釧路市のコンビニで起きた事件では、20~30代の男女4人が店員を脅し、土下座をさせたとして「強要」の疑いで逮捕された。10代の女性店員が言いがかりをつけられ、「若いやつ何十人も連れてくる」と脅されたうえ、約25分にわたって土下座を強要された[J-CASTニュース 2014年12月30日]。


同月、滋賀県のボウリング場でも同じ事件が起きている。一緒にいた未成年の少女2人に対し、店員が年齢確認をしたことに20代男性が腹を立て、「前に来たときはそんなこと聞かれんかった」「土下座せえへんかったら、店のもん壊す」と店員に約45分間も土下座をさせた。少女らがSNSに投稿した土下座画像が滋賀県警に通報され、被害に遭った店員も警察に被害届を出したことで、3人は強要容疑で逮捕されている[産経ニュース 2015年5月9日]。


さらには、傷害事件も起きている。


2015年4月、滋賀県守山市で飲食店員に土下座をさせたあげく後頭部を足で蹴って軽傷を負わせたとして、20代男性が逮捕されている。男性は、知人2人と共にドライブスルー型の飲食店に来店。注文した際、商品が足りないとクレームを入れた。その後、店を出て知人宅に戻ったのだが、男性は店に電話をかけ、店員の帽子のつばが顔に当たったのを謝罪しろと、店員を知人宅に呼びつけていたのだ。[産経ニュース 2015年6月9日]。

土下座させても納得できない"お客様"


クレームへの謝罪や適切な対応を受けてもなお、キレた"お客様"たちは納得しない。執拗に相手を傷つけ、過度な要求をエスカレートさせていく点で、これらの事件は共通している。


大阪府茨木市コンビニ土下座事件で逮捕された男性は、裁判の席で「謝罪に納得できずに怒りが勝ってしまった」と説明した。それに対し、「相手が土下座してまで謝っているのに、どこまで謝れば気が済んだのか合理的に説明してください!」と語気を荒らげた裁判官の言葉には、誰もが頷くだろう[産経ニュース 2014年12月24日]。


バカバカしい理由と理不尽な行為ではあるが、犯罪心理学の視点から見ると、加害者たちのほとんどは「利益を最大化するように合理的な選択をした」とも言える。


2013年の衣料品店土下座事件のケースで言えば、穴の空いたタオルケットを持って、店を再訪する手間も時間もかけている。それ以上の心理的な見返りを手に入れるために「土下座の要求」や「SNS投稿」をおこなったのだろう。


大阪府茨木市のコンビニ土下座事件の加害者女性も、搾り取れるだけ搾り取ろうと、自分の人脈を利用している。しかも、カスハラ成功体験を持つ仲間の心理を熟知して、うまく動かしている。トラブルの現場にいなかった男性たちが義憤を覚え、わざわざ乗り込んで無償で脅迫行為に加担したり、7回も電話をかけたりしている。


しかし、こうした犯罪者の惜しまぬ努力を向けられた店は堪(たま)ったものではない。ターゲットにされた店は、いずれも人だかりができるような場所でも高級店でもない。手ごろな商品やサービスを売る日常的な店だ。接客をしているのも一般人がほとんどだ。犯行は容易だっただろう。トラブルのあとに店を一度去り、時間をおいて店に戻ってくる、あるいは従業員を呼びつけるなどの時差があるのも特徴だ。その間に、加害者たちは不満を募らせるのと同時に、利益と不利益を天秤にかける時間があったとも考えられる。


理不尽極まりないカスハラも、他の犯罪と同じように、加害者は合理的な選択をして事に及んでいるのだ。

"お客様"のその後


残念ながら、カスハラ加害者の身勝手さは、社会的制裁を受けても直らないケースもある。


2014年9月、兵庫県加古川市の50代男性職員が、コンビニの女性従業員にセクハラ行為をおこない、停職6カ月の処分を市から受けた。ところが、男性職員は、この懲戒処分は重過ぎると不服を申し立て、市を訴えたのだ。訴訟の上告審判決で、裁判長は懲戒処分は「著しく妥当を欠くものであるとまではいえない」として男性職員側の請求を退けた。カスハラ加害者が、自身の加害行為を正当化する一方で自分の不利益には過敏であることを物語る事例だ[弁護士ドットコムニュース 2019年2月14日]。


なかには、殺人事件に至ってしまったカスハラもある。


2004年、東京都墨田区で30代の会社員男性が刺殺される事件が起きた。逮捕されたのは当時20代の牛丼店の店長だ。被害者の会社員男性は以前からたびたび店でクレームをつけ、店長との間でトラブルが続いていた。男性に現金を支払っても納得してもらえず、業務に支障が出ると考えて店長は殺人を犯してしまったのだ[毎日新聞 2004年12月12日]。


クレームに対する謝罪と対応があってもなお、キレる"お客様"が矛(ほこ)を収めないケースは多い。こうした終わりの見えない理不尽さを、現場の人員だけで解決することがいかに容易でないか、数々の事件は示している。


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