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【子ども近視】「読書よりもスマホやタブレットのほうが目に悪い」ってホント?

コクリコ

【子どもの近視予防】第2回 「読書よりもスマホやタブレットのほうが目に悪い」? 増加する近視から子どもを守るため、目に関する最新予防知識を得よう!

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2023年秋、小中高生の裸眼視力が過去最低を更新したというショッキングなニュースが報じられました。文部科学省の2022年度学校保健統計調査によると、裸眼視力が1.0に満たない子どもの割合は、小学生で約38%、中学生で約61%、高校生では約72%と過去最多に。子どもたちの視力低下は、深刻な問題なのです。

眼科医の窪田良先生は、「近視は治療が必要な『病気』である」と語ります。近年の研究で、近視は将来的に失明につながりかねない病気のリスクを増やすことが明らかになったからです。2024年9月には、科学界の最高権威のひとつである米国科学アカデミーが「近視を病気に分類すべき」との提案を出しています。「近視は予防ができ、進行を抑制できるもの」と、窪田先生。目が悪くなってしまったからメガネをかけて終解決、ではないのです。

前回(#1)では、「子どもの目が悪くなるのは遺伝!?」という読者からの質問に、窪田先生が「遺伝的要素より環境的要素によるものが多い」と解説しました。

今回は、「スマホやタブレットより、本を読みなさいと𠮟っている」というお話について。世界基準の正しい目の情報をお伝えします。

●PROFILE 窪田良(くぼた・りょう)
眼科医、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO。「世界から失明を撲滅する」ことをミッションに掲げ、眼疾患に関する研究開発を行う。近著に、『近視は病気です』(東洋経済新報社刊)。

近視の増加はスマホやタブレットの普及が原因?

小6・小4の2児を育てるママからの相談です。

「学校からタブレットを支給されてからというもの、小6と小4のきょうだいたちは動画漬けに……。そのせいなのか、最近、視力が落ちてしまいました。そこで『YouTubeを見るよりも本を読みなさい!』と𠮟るようにしています。色や光が激しいスマホやタブレットのデジタル画面より、読書のほうが目にはいいですよね?」(Dくんママ・38歳)

この相談にDr.窪田こと、窪田良先生の答えは?

問題は「何を見ているか」ではない!

スマートフォンやタブレットは、今や子どもたちの生活に欠かせないアイテムとなっています。こういったデバイスを子どもたちが使うことについて、「なんとなく目に悪そう」という印象がありますよね。

しかし、目が悪くなる=近視になる原因は、「近見(きんけん)作業」といって、近くで物を見る状態が続くことです。スマホやタブレットは顔の近くで操作しますから、幼児期にこの近見作業を長時間続ければ、近視の子どもを生み出してしまいます。

そして、これは読書であっても同じことです。実は、スマホやタブレットの閲覧が子どもたちの目を確実に悪くしている、という決定的なエビデンスはありません。他の近見作業と比べて、スマホやタブレットのほうが悪いかといったら、そうだとも言いきれないのです。

私個人の見解としては、紙の読書とスマホ操作、どちらも同じ程度に目に良くない作業だと考えています。

ただ、ITデバイスは、子どもたちを飽きることなく熱中させる面があります。中毒性が高く、長時間使用になりやすいのがネックです。放っておいたら何時間もYouTubeを見ている、という状況もあるのではないでしょうか。一方で読書は、本好きな子ども以外は、集中して何時間も読み続けられる子はあまりいないと思います。

問題は「何を見ているか」ではなく、どれだけの時間、近見作業をしているのか、なのです。

アジアの子どもは目が悪い理由

少し余談になりますが、子どもの近視が世界的な課題とされているなかで、特にアジア圏の子どもたちには近視が多いとされています。中国、台湾、韓国、シンガポールの子どもたちの近視は、日本と同じような数値です。

特に、「学童期の9割が近視」、「しかも、度の強い近視」のようなひどい状況だとされているのが、中国や韓国の都市部です。これらの地域で近視が急激に増加している背景には、加熱する受験勉強があるとされています。幼いころから家庭や塾で過剰に勉強をさせていることが、子どもの視力に影響しているのです。

受験勉強のような屋内での近見作業は、近視の原因になります。そこで、中国政府は2018年から、近視予防・進行抑制の法案を実施。学業の負担増加や、スマホ・パソコンなどの電子機器の普及が、子どもの近視の大きな要因になっていると指摘し、社会全体で子どもたちの目を守ることを目的にした具体的な取り組みと数字の目標を定めました。

2021年からは、若者のゲーム中毒を阻止するルールも制定。18歳未満を対象に、オンラインゲーム利用を1週間で計3時間に制限するという新たなルールを導入しました。このように中国は、国を挙げて子どもの視力問題に着手しているのです。

科学的リテラシーを高めることが必要

日本は近視対策に後れをとっていますし、日本人は、目に関するリテラシーがまだまだ低いな、と感じています。

いわゆる「スマホ育児」と言って、公共の場で子どもにスマホを持たせ動画などを見せておく場面をよく目にします。静かにしてほしいシーンなどで、紙の絵本などを渡しておくより、子どもの意識を集中させることができるから便利なのでしょう。

でも、こういった「スマホ育児」は、私が住んでいたアメリカではあまり行われていませんでした。子どもにはスマホを持たせない、という親も多くいました。

これは目に関するリテラシーが高いからだと思います。デジタル機器は依存症になりやすく、長時間の近見作業が目に悪影響を及ぼすことがしっかり認知されているのです。米国眼科学会が推奨する「20‐20‐20ルール」が広まっています。デジタル画面を20分見たら、20秒間、20フィート(約6m)離れたところを眺めるというルールです。

国民がいかに物事に対しての科学的な理解を持っているのかが、子どもたちの健康や教育に関わってきます。

ですから、「スマホやタブレットを見るなら読書を」ではなく、「20分デジタル画面を見たら、20秒は遠くを見なさい」のほうが適切な声掛けです。

デジタルデバイスとどう付き合うのか?

とはいっても、子どもたちの生活からスマホやタブレットを切り離せないのも事実です。デジタルネイティブとして生まれた子どもたちにとって、これからの人生にも欠かせないデバイスでしょう。

でも、成長期はスマホを始めとした近見作業はなるべく遠ざけておくのが賢明です。与えるならばルールを設けて制限しましょう。

実は、台湾では10年も前から画期的な近視抑制政策が実施されており、子どもたちの目に良い活動の成果が認められています。

次回は、「近視の予防と抑制」についてお話しします。

─・─・─・─・

取材・文/遠藤るりこ

「近視は治療が必要な『病気』である」という認識が、世界的に高まってきています。目に関するリテラシーを上げることが、今まさに必要。眼科医で創薬や医療デバイスの研究開発を行う窪田良先生が目について「役立つ」、「世界基準の」情報を伝える一冊『近視は病気です』(東洋経済新報社刊)。

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