アブ・シンベル神殿(エジプト)を訪ねて~作家・秋山秀一「旅の記憶(26)」
訪れた国や地域90以上、海外への旅は222回。
旅行作家の秋山秀一さんが、自身で撮影した写真とともに、世界の街を歩いた思い出をつづります。
秋山秀一さん 旅行作家、元東京成徳大学教授、NHK文化センター講師。日本エッセイスト・クラブ常務理事、日本旅行作家協会会員、日本外国特派員協会会員。『鎌ケ谷 まち歩きの楽しみ』『世界観光事情 まち歩きの楽しみ』『ウクライナとモルドバ』など著書多数。鎌ケ谷市在住。鎌ケ谷市国際交流協会(KIFA)会長、鎌ケ谷市都市計画審議会会長。
ダム建設による水没危機を免れた大神殿
エジプト南部にある巨大なダム、アスワンハイダムの上に立つと、上流側にはダム建設によってできたナセル湖が広がっている。
ダムから280㎞遡った砂岩の崖に、ラムセス2世が岩窟を利用して造ったアブ・シンベル神殿がある。
ダム完成によって水没の危機にあった神殿は、元の場所から64m高い場所に移された。
南東を向いた大神殿のテラス上に、高さ20mほどのラムセス2世の石像が4体並んでいる。
大神殿正面のラムセス2世像は王を守護するコブラの頭を額につけ、王権を表すネスメ頭巾を被り、その上に上下エジプト王を表す二重の王冠をつけている。
大神殿入り口の上には、頭上に太陽円盤をいただいたハヤブサの頭を持つ太陽神ラー・ホルアクティの立像が彫られている。
世界遺産創設は神殿の移設がきっかけ
大神殿から右の方、方角でいうと北へ100mほど離れた所に小神殿がある。
小神殿はラムセス2世が王妃ネフェルタリのために建造した岩窟神殿で、ネフェルタリとアブ・シンベルの地方神ハトフルに捧げられたもの。
正面には、高さ約10mのラムセス2世の立像4体とネフェルタリの立像2体が並ぶ。
足元には二人の間に生まれた子どもたちの像が刻まれている。
このアブ・シンベル神殿の移築計画がきっかけとなって、1972年のユネスコ総会で世界遺産条約が成立し、「世界遺産」が創設されることになったのである。
(文・写真/秋山秀一)