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太平洋の深海に生息する<ハゲナマコ属>の未記載種を発見 遺伝子解析により種多様性が明らかに?

サカナト

無人潜水艇で採集されたハゲナマコと底曳網で採集されたハゲナマコ(提供:文化庁)

“最後のフロンティア”とも呼ばれている深海は調査の難しさから解明できていないことが山ほどあり、生物多様性に関する理解も遅れています。深海は環境変化が少なく生物の種分化が起こりにくいと考えられ、広い分布域を持つ種が多く知られてきました。

ハゲナマコ属でも同様であり、かつて、太平洋のハゲナマコ属はムラサキハゲナマコのみが太平洋全域に分布していると考えられていました。

しかし、世界各地から得られた標本を比較することにより、太平洋で1種とされてきたハゲナマコ属には複数の種含まれていることが判明。未記載種を含む10種が太平洋に生息していることが明らかになったのです。

この本研究成果(Molecular phylogenetic re-evaluation of deep-sea holothuroid genus Pannychia based on COI gene and genome-wide SNPs data)は海洋生物学分野の国際誌「Marine Biology」にオンライン掲載されています。

なぜハゲナマコと名付けられた?

無人潜水艇で採集されたハゲナマコと底曳網で採集されたハゲナマコ(提供:文化庁)

ハゲナマコ属は太平洋の水深約200~2600メートルの海底に生息し、日本周辺でもごく普通に観察されています。名前の「ハゲ」は体の脆さに由来し、底曳網で漁獲された標本では表皮が剥がれボロボロになってしまうことから、このような名前がつけられました。

ハゲナマコ属と同様、深海において体の脆い生物は珍しくなく、漁獲時に鱗がほとんど剝がれてしまう魚や体が崩れてしまう軟体動物などもいます。

従来、太平洋のハゲナマコ属はムラサキハゲナマコ(Pannychia moseleyi)のみが生息すると考えられていました。

技術の進歩により多様性を解明

ハゲナマコ属の主な採集方法は底引き網ですが、ボロボロになり表皮がはげてしまうことから形態比較が困難であり、形態比較による正確な分類が難しい状況だったといいます。

この研究で使われたハゲナマコ属の採集地点(提供:文化庁)

しかし、近年における無人潜水艇の登場や遺伝子解析技術の進歩により、1種と考えられていた太平洋のハゲナマコ属には形態や遺伝子の異なる複数種が含まれている可能性が報告されていました。

今回の研究ではこの太平洋のハゲナマコ属の多様性を解明することを目的とし、世界各地で採集された標本による形態的・遺伝的な再検討が行われたのです。

太平洋のハゲナマコ属が10種に

研究では日本、オーストラリア、ニュージーランドなど世界各地の研究機関に収蔵されている178個体のハゲナマコ属の標本が調査されました。

ハゲナマコ属の系統ネットワーク(提供:文化庁)

この研究では、2つの遺伝子解析手法を用いてハゲナマコ属の種多様性を再検討。研究の結果、従来、1種とされていた太平洋のハゲナマコ属には遺伝的な特徴が異なる10個のグループがあることが判明したのです。

また、発見された10個のグループはそれぞれ形態的な特徴も異なることから、各グループを異なる種として扱うべきだとされ、この研究の以前ムラサキハゲナマコとされていた種が遺伝的、形態的に異なる10種を含む複合種であることがわかりました。

10種のうち4種は未記載種

10種を包含した複合種と判明したムラサキハゲナマコ。

この10種のうち6種は既に学名が付けられているナマコであり、それぞれムラサキハゲナマコ(Pannychia moseleyi)、ハゲナマコ(Pannychia virgulifer)、シンカイハゲナマコ(Pannychia henrici)、ナガサキハゲナマコ(Pannychia moseleyi)、ミサキハゲナマコ(Pannychia rinkaimaruae)、Laetmophasma fecundum(和名なし)に同定されました。

残りの4種については未記載種と考えられており、今後、より詳しく既知の種との比較をおこない新種記載を進めていくとのことです。

形態比較と遺伝子解析により種多様性が解明

今回のハゲナマコ属のように遺伝子解析により1種とされていた生物に複数種含まれていることが判明することは少なくありません。

今後も標本を用いた形態比較と遺伝子解析により、深海の多様性が解明されていくことを期待したいですね。

(サカナト編集部)

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