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アリスはフォークグループではない!デビューアルバムを聴いて驚く多彩な音楽エッセンス

Re:minder

1972年09月05日 アリスのファーストアルバム「ALICE Ⅰ」発売日

音楽は多彩なサウンドエッセンスをベースとして生み出された「ALICEⅠ」


アリスの『ALICE Ⅰ』(1972年)から『ALICE Ⅹ』(1987年)までのオリジナルアルバムが最新リマスタリングで復刻される。

アリスのファーストアルバム『ALICE Ⅰ』は1972年9月のリリース。アリスの結成は1971年12月とされているから、結成からあまり時間を空けずに発表された作品と言えるだろう。ちなみに、それ以前のリリースには1972年3月のファーストシングル「走っておいで恋人よ」、7月のセカンドシングル「明日への賛歌」がある。

アリスに限らないことだけれど、アーティストのファーストアルバムには他のアルバムとは異なる魅力を感じることが多い。その後の作品と比べると、一般的に認知されているそのアーティストならではの音楽性はまだ未完成だったりするけれど、逆に、そのアーティストの音楽性の素材となるエッセンスを垣間見ることができたりもするのだ。

『ALICE Ⅰ』からも、その後のアリスサウンドから結実していくさまざまなエッセンスを見て取ることができる。アリスはフォークグループとカテゴライズされることが多いけれど、その音楽は多彩なサウンドエッセンスをベースとして生み出されていることが『ALICE Ⅰ』を聴くとわかるのだ。

アリス結成までの流れ


大阪で少年時代を過ごした谷村新司は、高校生時代に女性1人、男性2人のフォークグループ、ロック・キャンディーズを結成し、関西のアマチュアシーンで活動していった。神戸の学生フォーク団体ポート・ジュビリーの人気グループとなったロック・キャンディーズは、1968年9月に「どこかに幸せが」(作詞:栗原玲児、作曲:谷村新司)という、まさに当時のカレッジフォークらしい楽曲でデビュー。その後、3枚のシングルとアルバムを発表して1971年夏まで活動した。

1970年、ロック・キャンディーズは大阪万博の音楽イベントに参加し、谷村新司はイベントの企画者で後のアリス所属事務所の社長となる細川健と出会い、細川が企画した『ヤングジャパンツアー』(日本のミュージシャンや若者が演奏をしながら全米を旅して交流するという趣旨)にも参加する。

このツアーには作曲家・プロデューサーの惣領泰則が結成したばかりのR&Bテイストのバンド、ブラウン・ライスも参加しており、そのドラマーだった矢沢透と谷村は意気投合、一緒にグループを結成することを約束する。ちなみに、矢沢がグループを離れた後、ブラウン・ライスはアメリカをホームグラウンドにして1975年まで第一線で活躍してくことになる。

矢沢透とグループ結成の約束をした谷村新司が、もう1人のメンバーとして声をかけたのはやはりポート・ジュビリーに所属していたロックバンド、フーリッシュ・ブラザース・フットのボーカリスト堀内孝雄だった。そしてアリスは谷村と堀内が先行する形でスタートし、1972年に入ってから矢沢が合流することとなる。

こうした結成までの流れを見ていくと、アリスがフォーク一辺倒のグループではないことがわかる。矢沢透はもともとジャズ・ドラマーで、R&Bやラテンにも精通したサウンドクリエイターでもある。堀内孝雄も、もともとロック畑のシンガーだった。さらに谷村新司もけっしてフォークだけでなく、アメリカンスタンダードからシャンソンなど幅広い音楽的素養の持ち主だということは、彼の一連のソロアルバムなどを聴いてみれば一目瞭然だ。

こうしたメンバーの幅広い音楽的指向やスキルを、どのようにアリスというグループの個性、そして魅力として結実させていくかが初期アリスの大きなテーマだった。『ALICE Ⅰ』はまさに、そうした取り組みの第一歩というべき作品なのだ。

軽快で華やかなパレードを連想させる「アリスの飛行船」


『ALICE Ⅰ』を聴き直して改めて感じたのは、彼らが、当時の流行になりつつあった “フォーク” の枠にとらわれないオリジナリティを、洋楽的エッセンスを積極的気に取り込むことで、生み出そうとしていたのではないかということだった。例えばオープニング曲の「アリスの飛行船」は軽快で華やかなパレードを連想させるスウィング感のあるサウンドに乗せて、これからこのアルバムで楽しいファンタジーが繰り広げられることを期待させるようなわくわく感を演出している。

もちろん「冬が終わって」「羊飼いの詩」のようにストレートにフォークっぽさを感じさせる曲もある。しかし、同時に同じフォークでもニニッティー・グリッティー・ダート・バンドの「ミスター・ボージャングル」にも通じるジャグテイストをもった「ブラウンおじさん」など、当時の日本のフォークよりもアメリカンフォーク的なモダンな手触りが感じられるのだ。

さらにビートルズの「ゲット・バック」にも通じるロックビートの「ティンカベル」、ハモンドオルガンを効果的に使ったブルースロックの「何も言わずに」、カントリーロック調の「好きじゃないってさ」、ザ・バンドにも通じるテイストの「移りゆく時の流れに」など、きわめて多彩な洋楽的エッセンスが感じられる。コンボジャズをBGMにメンバーがコーヒーを飲みながら会話する「ティー・タイム(ナレーション)」も大胆な実験的トラックだ。

“アリスの音楽” を創造しようとする意欲


こうして文字だけで見ると、まとまりのないアルバムのように感じられるかもしれない。でも、『ALICE Ⅰ』全体を聴いた印象はけっしてそうではない。作曲は谷村新司が6曲、堀内孝雄が4曲を担当しているが作詞をすべて谷村が手掛けていること、さらに矢沢透を中心にメンバーによるサウンドづくりが行われていて統一性のある世界観が保たれているのだ。だからアルバム全体から、結成間もないアリスが、それぞれのメンバーが持っている多彩な音楽性を積極的に取り入れて “アリスの音楽” を創造しようとする意欲が感じ取れるという気がするのだ。

さらに、こうした試行錯誤のなかに、大胆なポリリズムを生かした「木枯らしの街」やシングル盤とはアレンジを大きく変えた「明日への賛歌」など、後のアリスサウンドを彷彿とさせる楽曲が聴けるのも興味深い。

アルバムに収録されなかった「走っておいで恋人よ」


今回の復刻版にはボーナストラックとしてファーストシングル「走っておいで恋人よ」とセカンドシングル「明日への賛歌」がカップリング曲とともに収録されている。

ファーストシングルの「走っておいで恋人よ」は『ALICE Ⅰ』に収録されても違和感のない楽曲だが、この曲をアルバム入れることで当時のフォークというイメージが強くなりすぎることを避けたかったのかもしれない。また、「明日への賛歌」の2つのテイクを聴いてもらえれば、この時代のシングル盤とアルバムとの考え方の違いも感じられるのではないだろうか。

一般的に、アーティストの最初のご挨拶ともいえるファーストシングルは、自分たちの音楽性を主張することよりも、親しみやすさやポピュラリティを優先したデコレーション(アレンジやテンポ設定)が施されたものになることも多く、それだけにアルバムに入れようとした時に全体から浮いてしまうこともある。

しかし、シングル曲として余所行きに装っていた楽曲が、アルバムというホームグラウンドに戻った時に、より素顔に近くアレンジをし直されることで、新たな魅力を感じさせてくれることもある。表情を大きく変えている「明日への賛歌」の2つのテイクは、そんな音楽の楽しみ方があることも教えてくれる。

アルバム『ALICE Ⅰ+4』収録曲
01. アリスの飛行船(作詞作曲:谷村新司)
02. 冬が終って(作詞:谷村新司 / 作曲:堀内孝雄)
03. ティンカベル(作詞:谷村新司 / 作曲:堀内孝雄)
04. 羊飼いの詩(作詞:谷村新司 / 作曲:堀内孝雄)
05. 何も言わずに(作詞作曲:谷村新司)
06. 木枯らしの街(作詞作曲:谷村新司)
07. ブラウンおじさん(作詞作曲:谷村新司)
08. ティー・タイム(ナレーション)
09. 好きじゃないってさ(作詞・作曲:谷村新司)
10. 移り行く時の流れに(作詞:谷村新司 / 作曲:堀内孝雄)
11. 明日への讃歌(作詞作曲:谷村新司)

[Bonus Track]
12. 走っておいで恋人よ(作詞作曲:谷村新司)アルバム未収録。ファーストシングル
13. さよなら昨日までの悲しい思い出(作詞作曲:谷村新司)アルバム未収録。シングル「走っておいで恋人よ」カップリング
14. 明日への讃歌(作詞作曲:谷村新司)シングルバージョン
15. あなたのために(作詞作曲:谷村新司)アルバム未収録。シングル「明日への讃歌」カップリング

Information
谷村新司追悼企画
アリス 追悼コンサート決定!

アリスコンサート2024 
ALICE FOREVER 〜アリガトウ〜

▶︎ 東京 / 日本武道館
9月18日(水)19:00開演(予定)
お問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799

▶︎ 大阪 / 大阪城ホール
10月13日(日)17:00開演(予定)
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888

▶︎ 出演:谷村新司(音声/映像)、堀内孝雄、矢沢透

▶︎ 全席指定:¥11000(税込)*未就学児童入場不可

▶︎ アリス公式サイト
https://alice1972.com/

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