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中央本線の線路付け替え区間を陸路と空撮写真で追う【前編】スイッチバックの名残りも見られる初狩~富士見間

さんたつ

立場川橋梁

鉄道路線は、長年の歴史の中で線路を付け替えた場所があって、ときには旧線の痕跡がしっかりと残っていることもあります。そういうところを探して巡るのは、廃線跡探索の醍醐味のひとつ。2回にわたって、JR中央本線の線路付け替え区間にスポットを当てていくのですが、今回は例によって、私の十八番の空撮を多用して紹介します。中央本線は東京駅を起点に塩尻を経由し、名古屋駅へ至ります。大正8年(1919)に東京〜名古屋間が開通し、通称では東京〜塩尻間を中央東線、塩尻〜名古屋を中央西線と呼び、東線がJR東日本、西線がJR東海管内の路線です。

線路付け替え区間が多いのは、山越えのためだった

初狩駅を真上から空撮。ホームは1968年の複線化により本線の25‰(パーミル、1000mの長さで25mの高低差がある)勾配に移転した。移転前は写真左の保線施設にホームがあった。駅舎は現在も旧ホームの位置である。2023年11月9日空撮。

中央本線は山間部や盆地を踏破します。

幹線ながらも単線で、スイッチバックや急カーブが何カ所も存在していました。それらは輸送力増強とスピードアップの弊害となり、昭和40年代前後に線路設備の近代化が推し進められるなか、複線化とともに線路付け替え区間が誕生。

付け替えられた旧線は草木に埋もれ、橋梁は橋桁が撤去され、トンネルは人知れず埋められていきました。

笹子駅の空撮。本線上にホームがあるが、移転前は左手の保線施設が旧ホームであった。2020年10月27日空撮。

そこで、今回の前編では中央東線の線路付け替え区間のうち、いくつかをサラッと紹介しながら、信濃境〜富士見間の散策をちょっとお話します。後半はガッツリと同区間を紹介します。

なお、中央西線も線路付け替え区間が数カ所あるのですが、まだ訪れていないところもあるので、そのうちにやります。

列車からスイッチバックと線路付け替えの痕跡を見る

東京駅から西へ進み、高尾駅で電車を乗り換え。前方は緑が濃くなり、山々も迫ってきて、都県境の小仏峠を越えて山岳地帯へと分け入り、神奈川県から山梨県へ。

鳥沢〜猿橋間は橋長513mの新桂川橋梁を渡りますが、1963年までは桂川と国道20号線甲州街道に沿う単線でした。

旧線は桂川に架かる奇橋「猿橋」のすぐ近くを通っていましたが、甲州街道沿いの廃線跡はもうほとんど痕跡が残っていません。

2012年11月14日空撮。鳥沢~猿橋間の新桂川橋梁。旧線は右手の桂川に沿って線路があった。もうほとんど痕跡がない。
旧線のだいたいの位置を加筆した。白線のルートを通っていた。
2008年9月17日撮影。鳥沢~猿橋間の旧線。国道20号線に近い場所。左手の平らなところに線路があった。
2008年9月17日撮影。奇橋「猿橋」に近い旧甲州街道を歩いていると、居酒屋の隣に突如としてトンネル坑門の笠石と壁柱部分が現れた。この直下に大原トンネルが口を開けている。

初狩駅に笹子駅と、スイッチバック駅だった名残りが車窓に映り、25‰前後の勾配で駆け上がると、電車は笹子峠を笹子トンネルで抜けます。

トンネルの先は甲府盆地の東端部にあたり、線路は25‰前後の下り坂となります。電車が新大日影第2トンネルを出ると、勝沼ぶどう郷駅へ到着しました。1993年に「勝沼」から改称された駅です。

2015年10月14日空撮。勝沼ぶどう郷駅を南方向から空撮。左手が甲府盆地で一帯は斜面を利用したワイン用のブドウ畑である。秋の撮影だから紅葉しているが、ホーム左手の桜並木が旧スイッチバック構造の名残り。

勝沼ぶどう郷駅を途中下車すると、ホームの左手が桜並木となっています。これはスイッチバック駅の名残りで、道路が交差する部分にはレンガアーチが残されています。

勝沼ぶどう郷駅を途中下車して大日影トンネルへ

2009年3月13日撮影。勝沼ぶどう郷駅の傍らに残るスイッチバック構内の痕跡。レンガアーチは「菱山道路隧道」。明治45年(1912)の勝沼駅開業の際にスイッチバック構造の乗り場をを増設するために建設された。
菱山道路隧道は歩道として歩ける。手前の高いアーチは明治36年(1903)の中央本線開業時のもの、奥の低いアーチが1912年に増設した乗り場の部分で、双方の高低差が良く分かる。2009年3月13日撮影。
菱山道路隧道の接合部。右が1903年の中央本線開業時で、左が1912年の勝沼駅開業による増設。迫石もつくられた断面にピッタリとくっつくように増設されたのがうかがい知れる。2009年3月13日撮影。

また駅前の甚六桜公園には、中央本線で活躍したEF64 18号機が静態保存されています。

駅前の公園に保存されているEF64 18号機。近年、再整備されて美しくなった。2009年3月13日撮影。

そしてその先には、1997年に線形改良によって廃止となった大日影トンネルが口を開け、「大日影トンネル遊歩道」として歩くことができます。大日影トンネルは明治36年(1903)に竣工し、重厚な石積みの坑口が出迎えます。

私は2009年に訪れて以来ご無沙汰しているのですが、しばらく来ないうちに漏水によって一時閉鎖され、長期間漏水対策工事が行われ、2024年3月から再開されました。

大日影トンネルについては駆け足で紹介するともったいないので、日をあらためて訪れてレポします!

大日影トンネルは線路も残されていて、現役時の雰囲気がそのまま残っている。補修工事により天井の照明部分が補強材に覆われているとのこと。毎日9~16時の間に通行できるが30分以上かかるので、時間ギリギリにならないよう要注意。 
2015年10月14日空撮。大日影トンネル東側の坑口を空撮。手前がそれである。奥の線路は現行の中央本線。狭い谷間にトンネルが連続している。

続く上り勾配。新府駅を過ぎて穴山駅へ

電車は甲府駅を過ぎて西へ進むと、韮崎駅から再び25‰前後の勾配で駆け上がります。

八ヶ岳の山体崩壊と河川の浸食で誕生した台地「七里岩」を上がっていくのです。

線路は蛇行しながら上り勾配が連続し、途中の新府駅(旧信号場)と穴山駅はスイッチバック構造でした。駅前は、スイッチバック引き上げ線の名残りが少し残っている程度です。

2014年11月5日空撮。手前は韮山駅。中央本線はV字状にせり上がった七里岩を登って、写真奥の八ヶ岳左手方向へ勾配を上がっていく。
2014年11月5日空撮。韮山駅もスイッチバック駅だった。ホーム右手の駅舎と駅前、白いビルのあたりに旧駅があった。
2014年11月5日空撮。七里岩の上を登っていく線路は新府駅を過ぎ穴山駅へ。この駅もスイッチバックだった。線路左手の長細い空間が旧駅の名残り。
穴山駅。左手の細い道路は引き上げ線の跡。2014年11月5日空撮。
2009年3月12日撮影。穴山駅の引き上げ線の築堤は遊歩道となっており、生活道はレンガのトンネルで潜る。もともと道だったのか水路だったのかは一見して分からなかった。

ついに立場川橋梁の線路付け替え区間へ!

七里岩を行く線路はなおも上り勾配が連続し、どんどんと上昇していきます。韮崎駅で標高354mだったのが、小海線との分岐駅小淵沢では標高866m。ここまで来ると北側には八ヶ岳の威容が望め、隣駅の信濃境は標高921m。複線の線路はコンクリート橋の立場川橋梁で立場川の谷間を越えて、小海線開業前まで国鉄最高地点であった標高955mの富士見駅へ至ります。

富士見駅を境にして今度は下っていくのですが、さらっと過ぎた信濃境〜富士見間の立場川橋梁の箇所も、開業時からの単線を廃止して、昭和55年(1980)に線路付け替えを行なっています。このほかに小淵沢〜信濃境間にも単線を廃止した付け替え区間があるのですが、信濃境〜富士見間には3カ所のトンネルと日本の鉄道黎明期のトラス橋が残されているのです。

空撮写真が分かりやすい。下り列車に乗車していると右手に旧立場川橋梁のボルチモアトラスが見える。高い築堤にも目を見張る。

現行の立場橋梁を渡るとき、下り列車の右手車窓に赤錆びた鉄橋と、高い築堤が過ぎ去ります。

架線柱が残されているので「これは現役の上り線路か?」と見間違うほど廃止時の姿をよく留めています。

鉄橋は「ボルチモアトラス」と呼ばれる種類で、明治37年(1904)の韮崎〜富士見間延伸開業時に架橋されました。国産ではなくアメリカからの輸入であり、アメリカンブリッジ社が製造したものです。

この一帯は過去に2回空撮したことがあり、どのように線路が付け替わっているのか、上空から俯瞰して把握しましょう。

2016年11月2日空撮。信濃境~富士見間の線路付け替え区間を空撮。いまは懐かしいE351系が走行する地点で旧線が右手に分岐していた。草地になっているところは掘割で、乙事トンネル東側坑口があった。掘割とトンネルは埋められている。
旧線を白線で加筆。こんな感じでカーブが急であったのだ。

空撮は2016年と17年の2回。八ヶ岳方向から流れてくる立場川の部分が浸食崖のような窪地となり、谷間が形成されています。急激な断崖の高低差は鉄道にとって難所であり、橋梁を架けざるを得ません。線形は信濃境駅方向からきつめに右へカーブするとともに、掘割となります。

一帯の地面は八ヶ岳へ向かって斜面となっており、斜面を横断する線路は堀割となって、乙事トンネルを掘削しました。

2017年10月30日空撮。旧立場川橋梁のボルチモアトラスと現行の複線立場川橋梁。旧線は線路が剝がされているものの、現役時の雰囲気が色濃く残されていた。

乙事トンネル、姥沢トンネルと続いたあとは、ストンと谷になるのでボルチモアトラスの立場川橋梁を架橋。その先は高い築堤を築いて、左へカーブしながら瀬澤トンネルを掘削し、斜面の地面を堀割で抜けて富士見駅へ至りました。

その模様は上空からでもくっきりとわかり、台形のような線形をしていた痕跡が見て取れます。現行線路が比較的真っ直ぐに引き直したのも頷(うなづ)けるほど、カクンと立場川を迂回しているのです。

2017年10月30日空撮。北側から空撮。旧線は立場川の窪地を避けるように迂回しながら、谷が狭い位置に架橋したとうかがい知れる。

さぁ、この場所が気になってきましたね。

後半は橋梁前後のトンネルも含めてじっくりと観察していきます!

取材・文・撮影=吉永陽一

吉永陽一
写真家・フォトグラファー
鉄道の空撮「空鉄(そらてつ)」を日々発表しているが、実は学生時代から廃墟や廃線跡などの「廃もの」を愛し、廃墟が最大級の人生の癒やしである。廃鉱の大判写真を寝床の傍らに飾り、廃墟で寝起きする疑似体験を20数年間行なっている。部屋に荷物が多すぎ、だんだんと部屋が廃墟になりつつあり、居心地が良い。

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