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【ミリオンヒッツ1995】Mr.Children「シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜」これぞ平成J-POP!

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1995年08月10日 Mr.Childrenのシングル「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」発売日

リレー連載【ミリオンヒッツ1995】vol.8
シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜 / Mr.Children
▶ 発売:1995年8月10日
▶ 売上枚数:181.2万枚

強烈に思春期の胸に突き刺さった「シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜」


1995年は、1月に阪神淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件が発生するなど、世間は暗い話題に覆われていた。その一方、音楽シーンはかつてないほどの熱気に包まれていた。毎週のように生まれるミリオンヒット。ドラマやCMでは、人気アーティストの最新曲が競うように流れ続けた。統計的にみれば “最もCDが売れた年” は3年後の1998年なのだそうだが、体感的なピークはこの1995年頃にあったように思う。

さて、1985年生まれの筆者は当時小学4年生。クラスの多くが “流行の音楽” を意識しはじめる時期である。例に漏れず、私もその1人だった。とりわけ強烈に思春期の胸に突き刺さったのが、Mr.Childrenの「シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜」だった。なぜかこの曲は遠足の情景とセットで記憶に残っている。公園のシーソーで遊ぶ女子を、男子がからかって替え歌にしていた。早いもので、あれから30年。リリース当時のことを思い出しつつ、この名曲をあらためて聴き返してみた。

一躍 “時代の顔” となったミスチル


その前に、「シーソーゲーム」に至るまでのMr.Childrenの動静を振り返っておきたい。前年である1994年、「innocent world」「Tomorrow never knows」という2作連続のメガヒットで、一躍 “時代の顔” となったミスチル。その勢いは、子供心にもひしひしと伝わるほどだった。年明けにはサザンオールスターズの桑田佳祐とのコラボシングル「奇跡の地球」がリリースされ、これもまた大ヒット。“夢のコラボ” という言葉がまだ一般的でなかった時代に、日本のトップ・オブ・トップをひた走る両者の競演は、まさしく “夢” というのにふさわしいものであった。

5月には、風刺色の濃いミディアムバラード「【es】〜Theme of es〜」を発表。5作連続ミリオンを達成すると、そのわずか3か月後には早くも9枚目のシングル「シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜」をリリースした。まるで “勝負の年” とばかりに矢継ぎ早に新作を放ち、出す作品すべてがリスナーの期待を軽々と飛び越えてゆくーー。当時のミスチルは、もはやヒットメーカーの域を超え、“時代そのもの” を創る存在へと進化していた。

底抜けに明るい王道ポップチューン


毎回、曲調も世界観もガラリと変えるミスチルだったが、「シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜」はその中でも特に異彩を放っていた。歌詞の内容とは無関係の “猿がシーソーを漕ぐ” というポップなアートワーク、リスペクトするエルヴィス・コステロになりきった桜井和寿のミュージックビデオでのはっちゃけぶり。そして『笑っていいとも!』のテレフォンショッキングでは、桜井以外のメンバーが猿の全身コスチュームで登場するなど、コミカルなプロモーションの数々に “今度はコミックソングか?” と一瞬戸惑ったファンもいたに違いない。

 恋なんていわば
 エゴとエゴのシーソーゲーム

もちろんコミックソングではないが、底抜けに明るいポップソング。シーソーゲームと言えば、これ! という超有名なサビの一節は、一見ポップで明快に聞こえるが、よくよく考えるとまったく不思議なフレーズだ。“恋” を “シーソーゲーム” に喩えつつ、それは2つの “エゴ” によって成り立っているーー。だが、そのエゴが具体的に何を指すのかは語られない。そんな細かい理屈など抜きにして恋を、人生を楽しもうよとでもいうようなお気楽な陽気さが、リスナーを強引にでも前へ引きずってゆく。

桜井和寿が生み出すメロディの魔力


桜井和寿自身が、シーソーゲームについて “歌詞の意味がよく分からない” と語ったとか語らないとか。Cメロで突如「♪アダムとイブ」が登場するなど、一見哲学的な香りも漂わせながら、その実は頭を空っぽにして楽しめる王道ポップチューンとして完成している。少々乱暴な言い方をすれば、この曲の魅力は、“シーソーゲーム” と “She so cute” という2つの言葉の頭韻、そしてそれに当てはめた軽快なメロディによってその大半が形作られている。音の乗りがあまりにも心地よく、細部を分析する余地さえ与えないのだ。さらに桜井の十八番ともいえる、字余りを多用した言葉遊び的な歌詞が、ポップなメロディと抜群に噛み合っている。

和文としての意味を多少犠牲にしてでも、メロディとの親和性を優先するこの手法は、同時期にシーンを席巻した小室哲哉にも通じる。サビ冒頭からの転調など、“発明” とも言うべき画期的な作曲技法を駆使した小室だが、歌詞だけを取り出せばその意味を読み解くのが難しいものも少なくないが、むしろ我々は、歌詞の世界観に縛られることなく、ただシンプルに彼の生み出すメロディの魔力に魅了されるのだ。

平成J-POPの奥深さを象徴している「シーソーゲーム」


言葉の意味を細かく追わずとも、メロディとリズムが心を満たしてくれるーー。そんな “感覚の共有” こそが、この時代のヒットソングの特徴だったのではないだろうか。作り手も聴き手も、歌詞の深意よりも “心地よさ” や “高揚感” といった直感的な快楽を何より大切にしていた。平成という混迷の時代に生まれたJ-POPには、戦後以来かつてないほど “人々を幸せにする” という使命が宿っていたように思う。

そのためには、細かいことなど気にせず、何よりもキャッチーであることが求められた。けれども、心の奥底に沈む感情も表現したいし、ネガティブな思いだって吐き出したい。だからこそアーティストたちは、ポップなメロディと言葉遊びによってそれらを巧みに包み込み、“幸せな歌” を届けようとした ーーそんな “葛藤のシーソーゲーム” こそ、平成J-POPの奥深さを象徴しているのではないだろうか。

Mr.Childrenの歌詞は「名もなき詩」に代表されるように、月並みな表現ではあるが “深い” 内容のものが多いことで知られる。その点、この「シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜」は、彼らの作品にはめずらしく、ポップ的快楽をとことんまで追求した作風となっており、まだ子供だった私などでもその魅力を無条件に受け入れることができたのかもしれない。

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