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天然記念物を獲ってはいけない理由 自然と私たちの関係を守る意義とは?

TSURINEWS

天然記念物を守る理由とは(提供:PhotoAC)

日本における天然記念物とは、動物や植物、地質などの自然物に関して国が指定する記念物です。この天然記念物、生息数が少なく、保護するべき自然物が指定されるものですが、天然記念物が制定されるようになった歴史や基準についてはご存知でしょうか。 記事の最後には、水生生物に関わる天然記念物を3つ紹介しています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

「天然記念物」の概念

天然記念物という概念は、18世紀におこった産業革命以後の近代化に伴って自然の破壊が進んだことで、自然を保護しようとした動きがきっかけにうまれた概念です。

天然記念物という用語は、ドイツの博物学者アレクサンダー・フンベルトが1800年に「Neturedenkmal」という言葉を用いたのが初めだとされています。天然記念物の保護思想は当時の自然保護活動の推進と共に発展しました。

日本においては東京帝国大学の教授であった三好学がNeturedenkmalを「天然記念物」と和訳して紹介したのがはじまりです。

三好学は1915年(大正4年)に出版した著書『天然記念物』において、「その土地に古来から存在し、天然のままで残っているか、あるいはほとんど人為の影響をうけないでいるもの、すなわち、天然林・天然原野または固有の地質・岩石・動物など」と天然記念物の定義を示しました。

和歌山県の天然記念物「古座川の一枚岩」(提供:PhotoAC)

現在、日本における「天然記念物」は一般的に、国が指定したものを指します。指定対象は、動物、植物、地質鉱物、保護すべき天然記念物に富んでいる一定の区域(天然保護区域)の4種です。

日本列島の成り立ちを示す地質現象や過去の生物の姿を知ることのできる化石、日本列島の生物地理学的な特性を示す固有種等の動植物など、日本列島が辿ってきた「自然史」としての意義と、人が関わり作りあげた自然、巨樹やホタルなど日本人の自然観の形成に寄与したものや、並木や家畜・家禽など、私たちと自然との親密さを物語る「文化史」としての意義も持っています(天然記念物-文化庁)。

天然記念物と特別天然記念物の違いは?

天然記念物のうち、特に重要なものを「特別天然記念物」として指定しています。

令和5年現在、天然記念物の登録件数は以下の通りです。

動物:196(21)
植物:558(30)
地質鉱物:261(20)
天然保護区域:23(4)
合計:1038(75)

※カッコ内は特別天然記念物の数。
(記念物-文化庁より編集部作成)

天然記念物を獲ってはいけない理由は?

国の天然記念物に指定されたものは消滅や崩壊の危険から守るために保護しなければならず、生物の捕獲や、土地の開発ができないように規制がかけられます(文化財保護法・第百二十五条「現状変更等の制限及び原状回復の命令」)。

天然記念物を獲ってはいけないのはこの規制があるためです。天然記念物に指定された生物を保存するために、国や都道府県が生育・生息環境を整えることもあります。

アユモドキ(提供:PhotoAC)

対象の記念物が生息・存在している都道府県に許可申請を提出して認められれば生物の採集や捕獲、土地の現状変更ができます。天然保護区域の工事に関しては、天然記念物の保存に配慮された計画を提出する必要があります。

天然記念物に指定されている水生生物

天然記念物にはどのような水生生物が指定されているのでしょうか。天然記念物として代表される3種類の水生生物を紹介します。

ネコギギ

ネコギギはナマズ目ギギ科ギギ属に分類される魚類です。ネコギギは日本固有種で、愛知県、岐阜県、三重県の一部の地域にしか生息していません。1977年に種として天然記念物に指定され、さらに2011年には三重県の中村川が「中村川ネコギギ生息地」として天然記念物に指定されました。

近年、生息環境の開発により生息数の減少が危ぶまれています。ネコギギがすむ自治体では積極的な保全活動が行われています。

ネコギギ(提供:PhotoAC)

鯛の浦タイ生息地

スズキ目タイ科マダイ属に分類されるマダイ。この魚は種としては天然記念物に登録されていませんが、生息地である鯛の浦が天然保護区域として1922年に天然記念物、1967年には特別天然記念物に指定されました。

魚類に関する特別天然記念物は、唯一「鯛の浦タイ生息地」のみ。この場所はマダイが群泳することで知られており、この海域内では釣りが禁止されています。

この群れは遊覧船で観察することができます。群れの大部分がマダイで、他にクロダイやイスズミ、メジナなどが混ざるそう。なぜここにタイが群れをつくっているのかはまだ完全には解明されていません。

また、鯛の浦のある房総半島は日蓮宗の開祖である日蓮の生誕地でもあります。日蓮が両親の供養に小舟で訪れ、海に題目を唱えると海面に題目の文字が現れ、鯛の群れがその題目を食べつくした、という不思議な伝承が残っています。

この伝承から、近くの村では鎌倉時代から鯛を「日蓮聖人の化身」と神聖視してきたそうです(特別天然記念物タイの生息地-鯛の浦遊覧船-小湊妙の浦遊覧船協業組合)。

鯛の浦で見られるタイの群れ(提供:PhotoAC)

オオサンショウウオ

オオサンショウウオは有尾目オオサンショウウオ科オオサンショウウオ属に分類される完全水生の両生類です。日本列島南西部における固有種であり、両生類で唯一、特別天然記念物に指定されています。

オオサンショウウオと見た目がよく似たチュウゴクオオサンショウウオという種類が同じ水域に住んでおり、こちらは特定外来生物。現在、両者が生活しあっている水域では交雑個体が問題となっています。

オオサンショウウオの生息地を保全するとチュウゴクオオサンショウウオも住みやすい環境になってしまうのです。2024年には、オオサンショウウオとチュウゴクオオサンショウウオの交雑個体を特定外来生物として認めるとする意見がまとめられました。今後の動きにも注視が必要です。

なお、オオサンショウウオ生息地は岐阜県で2地域、他に岡山県、大分県と、合計4つが天然記念物として指定されています。

オオサンショウウオ(提供:PhotoAC)

天然記念物に触れて自然を学ぶ

天然記念物に関する知識は、自然の近くで活動・研究をする人には欠かせないものです。この語源や成り立ちについて意識することで、今一度私たちと関わってきた自然を大切にするきっかけになるのではないでしょうか。

自然は私たちの生活と切っても切り離せないもの。天然記念物という存在は、そのようなことを振り返り、気付かせてくれる意義も持っているのではないでしょうか。

都市化が進み、普段自然をあまり意識せずとも生活できる世の中ですが、ときどき自然が作り出した世界へ目を向けてみることで新たな発見や興味がうまれるかもしれませんよ。

(サカナト編集部)

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