大原千鶴さんの「すごくいいアイデア」が浮かぶときって? 【ソムリエ若林英司さんとの対談レポート】
ひとり分だからこそのちょっとしたアイデアで、驚きがあるのに無理なく料理を楽しむことができる。そんなヒントがたくさん盛り込まれた、大原千鶴さんの新刊『NHKきょうの料理 大原千鶴のひとり分ごはん』の刊行を記念して、トークイベントが、大垣書店麻布台ヒルズ店にて開催されました。
NHK「あてなよる」で共演した、ソムリエ界の「若さま」こと若林英司さんをゲストに迎え、本書掲載の料理2種を、お酒のペアリングと合わせてお楽しみいただきました。本記事ではイベントの一部をご紹介いたします。
実食&ペアリング付き 大原千鶴さん×若林英司さんのトークイベント!
大原さんは魔法をかけるみたいに……
大原 皆さんお仕事して帰られる時って、スーパーでそろそろお刺身なんかに値引きのシールが貼られる時間ですよね。そういったものでも、下味と言いますか、塩水に漬けたり、お醤油のタレに漬けたり、あと甘酢に漬けたりすることでおいしくいただく。どうしても、お刺身って切っちゃうと、ドリップが出て生臭みが出ちゃうからね。
シールが貼ってあるお刺身をパックのまま食べるなんてわびしいから、そこをどうおいしく楽しむかっていうことが、すごいテーマだなと思って。例えばこの本に出てくる「ごちそうお刺身3種盛り」なら、サーモンはお砂糖とお醤油とお水とをちょっと割ったものに、ほんとに1分ぐらい漬けるだけなんですけども、表についてる生臭みのあるドリップを洗い流しつつ、ちょっと身を締めるっていう感じかな。たいの方も塩水で少し締めてあげる。あじは市販のすし酢でもいいんですよ。米酢と砂糖、塩にちょっとくぐらせて、「締め」とか「漬け」みたいな感じにするだけで、お料理もぐっと盛り上がってくる。
あと、薬味ですね! 1人でも薬味が充実してるとね、幸せが増えるんですよね。ほんで、よそに食べに行っても、薬味がたっぷりのっているとこって、ええ店が多いね。お刺身とかで、薬味やわさびをお醤油のとこにちょっととっといて、それを下げようとしはったら、「まだ置いといてください!」って言うんですよね。私らお酒飲みていじましいところがあるとは思うんですけど(笑)。
でもこれはお醤油とか塩水でうっすら味はついてるんですけど、そこに例えば気分変えて梅肉を付けてみるとか。料理って香りですよね、香り。
若林 香りですね。やっぱり。これはすごく見た目もおいしそうに見えますよね。実際おいしいんですよ。でもすごいのは、よくある普通に売ってるものでも、この方が何かすると、なんか魔法がかったみたいに、「え! こんなおいしくなっちゃうの」っていうことをすごい簡単にやるんですよね。
今千鶴さんがお話されたことはフランスでもやるんですけど、 日本料理も魚を締めたり寝かすと旨味が出たりっていうことはありますよね。やっぱり切られて売られているものは、どうしてもそこからもうよくはならないんです。退化してしまうんですよね、食材が。それを止めるっていうか、退化を逆の発想で「旨味」に変えてしまうとおいしさってすごい出るので、本当に一工夫で、このように綺麗に。で、やっぱりパックで食べると本当わびしいです(笑)。あれはやっぱいかんですね。
大原 いかんですよ(笑)。
若林 だからお皿に盛り換えるだけでも全然気分も違うと思うし。それで美味しかったら、日本酒飲もうかなとか……それが心の豊かさ。それから今日良かったなとか、自分のご褒美じゃないですけど、そういう風になるのかなと思います。
大原 そうですね。
当たり前みたいなことよりも、ワクワクすることがいい
大原 「うにバターバゲット」を映してくださいましたけど、バターね、罪なものですけれども、おつまみになるんですよ。
瓶に入ったようなうにの塩漬けとかあったらそれを混ぜてもいいし、別にうにじゃなくても、梅干しでも、実山椒でもいいし、なんか冷蔵庫の隅にディルとか、バジルが残ってたら、刻んでそれを練り込んだり。この間クリームチーズとね、そうめんの残りがありましたので、ミョウガを刻んで混ぜましたらね、すっごいおいしかったから是非やってください。
サワークリームとかにも合うと思いますけどね、ヨーグルトでもいいですよ、濃厚なヨーグルト。
若林 このうにバターバゲットってすごいいい逸品で、ソムリエというか、お酒を飲む、合わせる立場から見ると、これ最強なんですよね、こういうのね。けっこうたくさん思い浮かぶやつ。
大原 お酒が?
若林 はい、赤ワインも白ワインも。例えば白ワインなら チリとかオーストラリアとかカリフォルニアとかのシャルドネ。赤も合いますね、これ。赤はピノとかガメイとかそういうのとか合わせやすいし、これは日本酒も合いますね。日本酒の場合は、すっきりしたやつじゃなくて、甘みがあるとろっとしたような感じの味わいのものもいいし。これ、ウイスキーも合いますわ。
大原 あかん! 飲みたくなってきました。皆さんどうしましょう。
若林 この人ウイスキー好きなんで。
大原 「角」とかでもいいですか。
若林 「角」はぼくは冷凍庫に、そのまま入れてます。グラスに氷入れて、お水がーっといっぱい入れて、凍らせたウイスキーを表面張力で上からシングルぐらいのせるんです。そうすると強いウイスキーが来るけど、凍ってるからとろっとして、それからお水が来るんですけど、それはすごい飲みやすくて、満足度がすごいあるんです。
これはほんとにいろんな飲み物に合う。もちろん泡でもいいし。楽しそうですね。
こういうのそんな難しくないじゃないですか。ご自分でアレンジがけっこうできると思うし、ぱっと食べられて、とりあえずなんか出しとけみたいな感じのとき。1人でもいいですし。これはもう本当にいろんなものにアレンジできるのでいいですね。
大原 うにがない方は味噌でいいと思います。有塩バターだと少し味が濃くなりますけど、割といけますよ。塩辛でもいいし、しょっつるみたいなものをちょっと合わせるとかでもいいと思うし、組み合わせは無限大ですよね。
若林 アイデアって気づきだと思うんですよね。なんでもそうなんですけど。あとは一番大事なのはワクワクすること。僕は今いつもお店でもそうなんですけど、ワインと料理合わせたり、日本酒合わせたりするときに、もうワクワクしないやつはやらないです。つまんないんで。で、これとこれは合うよねって思うものはもうあんまりやらなくて、これとこれでこんなんなっちゃうかもしれないとかっていう風な方が面白いので。
大原 当たり前みたいな分かりきったことよりも、ワクワクすることがいいと。
若林 はい、そっちをやります。でも、最終的にイメージだけだとお客様にはご理解いただけないので、そこにロジックと理由付けが必要なんですね、世の中って。ただ、天才的な人ってやっぱりぱっと浮かんで。そこに裏付けのお話があったり、ロジックでこの香りとこれが結びつくとか。
例えばそこは歴史でもいいんでしょうね。ここに、誰が住んでたから、この人の料理はこうだからとか。そういう物語があればすごく面白いと思うので、それを自分で一人ごはんのとき考えちゃったら、それはそれで面白いし。
大原 そう。でもそうやってなんか考えながら飲んだりしてると、そういうときにね、すごくいいアイデアが浮かぶの、これ合うし、今度これの料理やってみようとか思うし、なんかそう言うててね、ただの酔っ払いなんですけど。いろいろこう、飲んでると私、ものが書きたくなるのよ。文章を書くのいつも。で、それ次の日読んだらおかしいなとか思うんですけど(笑)
でも、すごいストレス発散になるので、思ったことを、そのとき感じたこと、こうかなああかなっていうことを書くと、自分の心の中にあるものが、次の日読むと可視化できるっていうか、こんなこと考えてるんだなって、本当はここにこう自分の引っかかってることがあるんやなとか思ったのが見えてくるから、なかなかいいストレス発散というか。
やっぱりここ気をつけなあかんなとか、ここをこうしてるからもうちょっとこうしてみようかなという風になっていくかなとか思いますよね。誰にも見せられない(笑)
若林 千鶴さんはプロの研究家の方ですが、僕は料理素人ですから、料理つくるときって、整ってないと。要するに、イライラしてるときには多分おいしいのをつくれない。やっぱりそこは自分を見つめてるものなので、男性の方も僕も含めてそうですけど、料理絶対した方がいいなと思います。料理ってすごい頭使うじゃないですか。
手際がやっぱり一番。 やっぱり手際と準備さえちゃんとしておけばおいしいものって必ずつくれるし、千鶴さんもおっしゃいますけど、食べたときに、おいしいと思ったら「自分は天才だ」と思うことがすごい必要ですよね。
大原 「店できるわ~」とかね(笑)
お楽しみの実食&ペアリング
イベント会場で初対面だったというお客さまもみなさんで談笑おられ、とても楽しくおいしいひとときをお過ごしのようでした。
大原千鶴 (おおはら・ちづる)
料理研究家。生家は京都・花脊(はなせ)の老舗料理旅館で、里山の自然に親しみながら和食の心得や美意識を育む。合理的な手法で繰り出される確かな味わいの家庭料理と、明るく親しみやすい人柄で幅広い層の支持を集めている。