ベテラン職人の絶品餃子がうまい!福岡・西公園で出合った「隠れ実力店」
大濠公園から北へ伸びる道の終点に、石造りの大鳥居が建っています。光雲(てるも)神社と西公園に続く散策スポットの入口ですが、この鳥居の脇に餃子好きを夢中にさせる店があるのをご存知ですか? そこに「紫おん」の提灯を見つけたら、暖簾をくぐる価値アリですよ。
神社のお膝元らしい厳かさを感じる一画に、「紫おん」ができたのは2021年。15歳で餃子の世界に飛び込み、生粋の餃子職人として研鑽を積んだご主人が営む居酒屋です。「中洲の餃子専門店〈天手古舞〉の創始者だった叔父に、10年以上育ててもらいました」と語る“師匠”への敬意から、49歳のいまも当時の味を守り続けています。
さて、入店すると雰囲気一変。20席の店内には人気アーティスト〈B’z〉のポスター等が山と貼られ、外界とは真逆の趣味的空間となっています。これは熱烈な〈B’z〉ファンであるご主人のパートナー・渡辺絵美さんの私物で、なかにはボーカル・稲葉氏の母のサインも。そんな“推し活”の賜物か、「紫おん」の名を知る〈B’z〉ファンは多く、福岡ライブの折は遠征組の交流会場にもなるそうです。
それではさっそく餃子を注文。焼・蒸・揚など10種を揃え、値段はすべて660円です。1品目はご主人お勧めの「しそ餃子」で、博多餃子伝統の愛らしい一口サイズで供されました。口に運ぶと、カリッとした皮の奥から豊かな甘みがフワリ。しその風味と相まって、雑味の少ない上品な野生味が楽しめます。
この優れた味を出すために、なんと餡の仕込みには7時間もかけるとか。「大量の淡路島産玉ねぎに、鹿児島産豚ミンチとニラを混ぜ、玉ねぎの水分が2割に減るまで馴染ませるのが秘訣です」とご主人。「叔父が考案したこの味が一番だと思うので、苦労する価値はありますね」。なお、翌日の匂いが気にならないようニンニクは使いませんが、注文時に頼めば餡に追加してもらえます。
2品目はタルタルソースでいただく「海老餃子」。刻んだ海老を餡に混ぜるタイプかと思いきや、丸々1尾の海老と餡を包み揚げにした豪快な餃子です。海老の旨味がガツンと伝わる独創的逸品で、「しそ餃子」とこれが人気の2トップだそう。とはいえ他の餃子も甲乙つけ難く、「職人歴30年余は伊達じゃない」と舌を巻く美味揃いでした。
もちろん他の料理も本気モードで、特に赤字覚悟で出す上質な肉料理は要注目です。「黒毛和牛ステーキ」(1900円)や「牛・紫おんステーキ」(1300円)などは、あまりの良コスパに「今どきこの値段で?」と二度見してしまいました。ご主人も「儲けはないけどお客さんが喜んでくれるから」と頼もしい一言。
が、僕が最も魅了されたのは「ホルモン鉄板」(1200円)でした。九州産黒毛和牛の上級ホルモンは甘みが深く、しかもサラリと溶けるため胃もたれは皆無。ひとたび食せば箸が止まらぬホルモンマニア必食の一皿ですよ。
そして今宵のシメは、これも叔父から継承したという「中華粥」(850円~)に決定。「アワビ」「海鮮」などの9種から、韓国海苔で塩味を効かせた「海苔粥」(1000円)を選びました。生米の状態から2~3時間炊き続けた労作で、米が崩れる寸前の繊細な歯応えがたまりません。餃子の脂も洗い流されるようで、熱心なファンが多いのも納得のクオリティでした。
餃子だけじゃなく、個々の料理の満足度も高い「紫おん」。庶民派の素朴な顔にひたむきな職人魂を宿す、隠れた町の実力店です。
餃子居酒屋 紫おん
福岡市中央区西公園6-22
092-713-2271