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実は山形県の接種率が全国1位!?意外と知られていない子宮頸がんとHPVワクチン「Jリーグ モンテディオ山形×一般社団法人シンクパール」がスペシャル対談

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女性の健康教育と予防医療の推進を行うシンクパール。子宮頸がんの予防接種である『HPVワクチン』のキャッチアップ世代(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)が公費(無料)で接種できる期限が2025年3月末までと迫る中、病気の啓発、ワクチンの接種促進を目的に、Jリーグ・モンテディオ山形と共同で試合会場でのチラシ配布を行いました。

通常10万円程度の費用がかかるワクチン接種を無料で行っている背景にはどのようなことがあるのか?また、子宮頸がんなど女性特有の病気や性にまつわる教育の課題とは何か?これらの啓発活動の最前線で活躍されている、一般社団法人シンクパール 代表理事の難波美智代さん(以下、難波)にお話を伺いしました。後半では、女性の病気や性に関するテーマで、モンテディオ山形の広報担当 伊庭詩英里さん(以下、伊庭)と対談を行いました。

 ――シンクパールを立ち上げた理由を教えてください

難波)一般社団法人シンクパールは女性の健康教育と予防医療の推進、特にがんの一種である子宮頸がんの啓発に特化して活動をしています。
私自身、15年前たまたま受けた検診で『子宮頸がん』と診断され、その時に「人生のリスクは誰にでもある」ことを身を持って感じました。それと同時に、知らないか知っているかで人生は大きく変わってしまう、そしてそういう知るための情報にアクセスできる環境がこの日本にはないと課題を感じました。

――「こんな大切なこと、なんでいままで教えてくれなかったのだろう」に込められた想いは?

難波)当時(15年前)は教育の中で“がん”について教えてくれる環境がありませんでした。
この活動をはじめ、毎年約1万人以上の方に直接、こうした“がん”の情報をお伝えてしていますが、15年経った今も当時と同じように「なんでこんな大切なことを教えてくれなかったんですか」と言われてしまうことがあります。この伝えるということにゴールはなく、ずっと伝え続けるしかないと思っていますし、新しく信頼できる情報に触れることで意識や行動が変わる様子を目の当たりにし、最初のタッチポイントがあるかどうかで人生そのものが変わってしまうと考えています。

――子宮頸がんワクチンの認知度や接種率はどれくらいですか?

難波)現在『HPVワクチン』と言われているワクチンは、2009年10月に国内で承認され、12月から販売が開始されたものです。当時は「子宮頸がんワクチン」と呼ばれていました。2013年から定期接種化されて、小学校6年生から高校生1年生までは無料で打てるようになり、導入当初は接種率が80%前後もあったんです。
しかし、コロナのワクチン接種の際もそうでしが、ワクチンを接種することによる発熱や腫れなどの副反応が悪いイメージを想起してしまい、炎上のように扱われました。それにより、厚労省が安全性の検証を目的に接種対象者への通知等をストップしたことで、2020年では接種率は0.1%程度まで下がってしまいました。
現在は、ワクチンの安全性について特段の懸念が認められないことが確認され、ワクチン接種の有効性が副反応のリスクを明らかに上回ることが示されたため、2022年から厚労省が積極的に接種を勧奨することを決め、知らないから受けられなかった人に対して、『キャッチアップ接種』と称して、無料で打てる期間を設けています。
*2025年の3月末まで
HPVワクチンの接種を逃した方へ~キャッチアップ接種のご案内(厚生労働省資料にリンクしています)

自己負担だと10万円程度の費用がかかるワクチン接種が無料で受けられるので、この機会にぜひ受けていただきたいのと、3回の接種をするのに半年かかるので、計画的に1回目の接種は2024年9月末までに打ってほしいというのがあります。
ワクチンの安全性と有効性に関しても、WHO(世界保健機関)はすでに5回の検証を行い「安全なワクチン」であることは世界的にも発信していて、厚労省も積極的に推進をしていますし、全国の病院ネットワークができるなどのフォロー体制も充実しています。

――ワクチン接種や病気の理解を促進するためには何が必要だと思いますか?

難波)まずは自分ごとにすることが一番大切だと思っています。
「自分ごと化」してもらうために必要なのは、自分ごとだと気が付いた人がその人の感性で広めてくれることが一番良いと考えています。
また、2015年から学校でがん教育として“がん”のことを知識として身につけましょうと学習指導要領に書き込まれているので、世代によっては構造的に理解しているのですが、対象の親世代の知識理解が追いついていないがために、子どもがやることに対するブロックになってしまうことは現状の課題としてあります。

――今回スポーツチームと協力して啓発したいと思った理由はどのあたりですか?

難波)基本的な姿勢として、「難しいことを分かりやすく伝えたいし、深刻にならずに真面目に伝えたい」と思っているんですよね。スポーツの力を借りてメッセージを伝えるきっかけにしていただけるのは知る機会がないというアクセスにもなるので非常に有り難く思っています。

モンテディオ山形広報担当の伊庭さんとの対談

難波)伊庭さんはお生まれがキャッチアップ世代に入るのですが、ワクチンや子宮頸がんの存在は知っていましたか?

伊庭)ワクチンの存在自体は知っていましたが、打つ必要があるかは知りませんでした。子宮頸がんに関しては、私が対象という意識は特になく・・・

難波)そこはみなさん同じなので安心してください。では、学校で“がん”についてどのような教育を受けたか覚えていますか?

伊庭)中学生のときに、“がん”も含めた三大生活習慣病については学んだ記憶があります。ただ、すごく深く学んだというわけではないので・・・

難波)そうしたら、少し情報も提供しながらお話しますね。実は20代、30代のがん患者の約8割が女性なんですよね。50代前半までは圧倒的に女性が多く、女性本人だけではなく、働きざかりの男性のパートナーにも影響があるため、社会や組織にとっても啓発活動が大切だと言われています。
その若い世代の“がん”の中でも、高い割合になっているのが、子宮頸がんです。ただ、この子宮頸がんは、WHOが史上初の世界戦略として、唯一撲滅の対策が進められている「予防できる“がん”」とされているんですね。
検診とワクチンが予防の手段なのですが、検診やワクチンをしていないと、私が15年前に子宮頸がんになった時のように、痛みや痒みも感じてないのに、子宮を全摘出するまでに進行してしまっているということもあるんです。
いきなり「出産できない」という現実を突きつけられて、当事者の女の子たちは「何でなの?」というやるせない気持ちを抱えながら生きていかないといけなくなります。いまは結婚することも出産することも選べる時代になったと思いますが、私は自分が子宮を失ってはじめて「産まないことと、産めないことは全然違う」と痛感しました。だからこそ、それを正しくお伝えしたいと思って活動をしています。
伊庭さんはこのような情報はどうしたら伝わると思いますか?

伊庭)学校でどれだけ病気のリスクや情報を伝えられてもなかなか自分ごと化はされないと思います。私もそうですが、社会との接点を持ち初めて、外部からの情報を意識的にとるようになった時にはじめて気にしはじめるのかなと思います。学校が悪いのではなく、学校ではたくさんの学ぶ情報があって、一つ一つを深く知る機会というのはなかなかありません。時々、学校でも外部の方をお招きして講話をしていただくことがあるじゃないですか。そういう時の言葉というのはいくつになっても覚えていたりするので、学校外からの情報というのは大切な気がします。

難波)そうですよね。実際に20代、30代ががんのリスクがあり「こどもが産めなくなってしまう」と聞いてワクチンを接種しようと思いますか?逆にすぐ打たない理由はなんですかね?

伊庭)打とうかなとは考えるのですが、知識が乏しいこともあって、ワクチン接種による副作用が怖いという部分もあります。麻痺して立つことができなくなったり、元の生活に戻れなくなったりなど・・・もちろんケースとしては多くないことは理解しているのですが、情報バイアスといいますか、少なからず打たない理由にはなっていると思います。

難波)実はほとんどの人が伊庭さんと同じような気持ちなんですね。その原因は、「新しくて信頼できる情報」を知らないからなんです。昔のその部分だけ極端にフォーカスされてしまうと、伊庭さんのように印象だけが残ってしまいます。新し信頼できる情報、つまりは専門家やかかりつけ医と話ができるプロセスというのはつくっていく必要があります。このプロセスを補助する役割としてスポーツでどのようなことができると思いますか?

伊庭)女性アスリートが、「私も打ちました」「打ったけど、これまで通りに選手としてプレーができています」というメッセージはわかりやすいかなと思います。打った後の状態というのは健康が売りのスポーツ選手が発信するのは納得感があります。

難波)そうですよね。HPVワクチンは、女性だけではなく、世界的には男性も打ってるんですね。東京都では、小学校6年生から高校1年生まで無料で打てる環境が整っていたり、山形県ではキャッチアップ接種もふくめ南陽市が男女ともに無料で打てます。日本国内でも男性の接種を促進しようという議論は進んでいます。
なぜ男性も?と思いますよね。これは、性交渉によりうつってしまう病気だからなんです。経験が一人でも回数が一回でも感染するリスクはあって、女性は50歳までに約80%の人が感染を経験しているとまで言われています。男性と女性で感染し合ってしまっている状況があるので、男性もワクチンを打ちましょうというのは当然です。ただ、コロナのようにがんはすぐに発症する訳ではなく、子宮頸がんの場合は、5年から15年かけてがん化していくので、効果がわかりづらいという点があげられます。もちろん、男性自身も中咽頭癌や肛門癌になるリスクもあるので、打っておくことにこしたことはありませんね。自身とパートナーを守るためにも、男性側の理解というのも必要なんです。

伊庭)やっぱりこういう部分は、知らない人がほとんどだと思います。子宮頸がんもそうですし、妊娠にまつわることなど、女性だけのことと捉えられています。これが悪いというわけではなく、男性側も知っておくと、互いの生活がしやすくなる、思いやりがもてるというのはあるなと感じます。

難波)そうですね。今年、厚労省が発表したのですが、一般の方々がHPVワクチン接種を判断するにあたって、「どこからの情報を信頼しますか?」という調査をした結果、圧倒的に行政や国からの発信を信頼するという割合が多かったんですよね。なので、情報自体はそういう機関や専門医による必要があるのですが、「伝える・知る」という部分では、新しく信頼できる情報までの距離をどう詰められるかというのはポイントになっています。
何かそこをスポーツの力で是非担っていただきたいというのがあります。
スタジアムでチラシを配布している時に、「ワクチン打ちましたか?」と聞くと、「打ちました〜子宮頸がんの予防ですよね」という回答もあったりしたのですが、山形県は令和4年度の定期接種世代の接種率が全国で1位だったんです。でも、こういうことも外には知られていないので、モンテディオ山形さんが一緒になってそういう発信ができると外向きに広がっていくのかなと思います。

伊庭)スポーツチームは地域貢献活動やホームタウン活動に力を入れているので、学校や地域の人とのタッチポイントは日常からあります。もちろんスポット的にチラシを配るのも必要ですが、日常的に何か関わりを持てると良いなと思います。

難波)外部講師なども盛んにされてますよね。アスリートやチームの方が学校に来るというだけで、生徒たちの姿勢が前のめりになりますよね。伝える人というのはやっぱり大切で、アスリートがそういう役目を担っていただくのは、この活動に限らずすごく効果的だと思います。
あとは、教える側の課題もあります。子どもたちの周りを取り巻く大人が知識不足だったり自信がないので、情報を伝えられないケースは多々あります。教育現場の先生がなんでも完璧に伝えるのは限界があるからこそ、外部との連携、保護者やPTA等に向けた情報を伝える機会というのが必要になってきます。

伊庭)性に関するテーマも含めて、学校教育だけで補うのは難しいですよね。

難波)学習指導要領の中で、先生たちが教える内容は決まっています。性的接触や性交渉の話も、言葉として伝えることが決まっている。それが分かりにくさを生んでしまっているし、変な羞恥心に繋がり、正しく情報を伝わらなくなってしまっているように思います。がん教育の外部講師として、年間1万人くらいの児童、生徒にお伝えしているのですが、生物学や科学の観点からも興味を持つ子が多いです。
特に、中学生や高校生には性を含めた体のことをしっかりと知ってほしいという思いがあります。

伊庭)日本は性教育が遅れてるイメージがありましたが、そういう背景があったんですね。私として、難しく考えずに、互いの違いを知るというところからスタートするのが良いのかなと思います。

難波)まさに、私もよく生物学的な性差を、同じ哺乳類でも、「男性と女性はパンダとゴリラぐらい違う」というたとえ話をします。その体の違いを知ることが大事だし、お互いご機嫌で生きていくことが目的なので、とにかく分かりやすく伝えたいと思っています。
パンダとゴリラじゃないですけど、スポーツのクリエイティビティにはそういうワードや伝える力というのはあると思うので、是非その部分で協力をしていただきたいです。

―― ありがとうございました。

編集者より

自分ごと化するためには、最初の知るきっかけをどのようにつくるかが大切です。しかし、HPVワクチンもそうですが、難しいことや新しいこと(概念)というのは伝える方法が難しく、発信はしていても対象者に届かずに流れてしまうケースがあります。Jリーグチームのように地域に根ざし、地域からの信頼、関心を得ている存在が情報を発信し、タッチポイントを創出することで、通常よりも伝わる効果というのは変わってくると思います。難波さんがお話されていた、「難しいことをわかりやすく伝えたいし、深刻にならずに真面目に伝えたい」、これを実現するためのツールとしてスポーツチームは活用ができます。こうした事例がいろいろなところで起きてくると、スポーツチームがもたらす地域貢献は加速し、多くのタッチポイントが生まれることで結果としてチームの存在を知ってもらえることも増えるでしょう。

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