突きつけられた非情 江差看護パワハラ自殺 北海道が”全否定” 看護師になりたかった…⑨
驚くべき主張が展開されたのはクリスマスイブのことでした。
「パワハラと認定された4つの事例はパワハラと評価し得ない」
北海道側が提出した準備書面に書かれていた内容に、遺族は泣き崩れたといいます。
パワハラ自殺で遺族提訴 北海道が驚くべき主張展開
HTBが継続して取材・報道してきた、2019年に北海道立江差高等看護学院(江差町)で教師からのパワーハラスメントを受けた男子学生が自殺した問題。2023年3月に第三者調査委員会が3人の教師による4件のパワハラを認定し、学校の学習環境と自殺との「相当因果関係」を認めたにもかかわらず、北海道は賠償に応じない考えを示し、遺族側との和解交渉は事実上決裂。ついに2024年9月、遺族は約9500万円の損害賠償を求めて北海道を訴えるに至りました。
提訴に際し、亡くなった男子学生の母親は「静かに落ち着いた生活が出来ると思っていましたが、道からの対応で裁判までしなければならなくなった事で不安しかありません。道はひと1人亡くなっている事実を受け止め責任を取って頂きたいです」と悲痛なコメントを寄せています。
これまで「誠意をもって対応していきたい」と繰り返し述べてきた北海道の鈴木直道知事。しかし、この裁判で北海道側は知事の言葉とは裏腹な、遺族に対する裏切りともとれる驚くべき主張を展開したことが分かりました。
北海道、パワハラ認定を全否定 「パワハラと評価しえない」
提訴から約1か月後の10月下旬、第1回口頭弁論が函館地方裁判所で開かれました。北海道側は争う姿勢を示しましたが誰も出廷せず、その主張の中身が明らかになったのは、奇しくもクリスマスイブの2024年12月24日、非公開で行われた期日でのことでした。北海道側は、第三者調査委員会が認定した4つのパワハラについて「いずれもパワハラとはいえず、原告がパワハラや不適切な指導と主張する各事例と本件学生の自死との相当因果関係は認められない」と主張し請求の棄却を求めました。
自ら設置した第三者委員会の認定を全否定するという、異例の事態。この北海道側の主張に、母親はHTBの取材に対し、「道の主張を聞き、泣き崩れました。息子の命にも責任を取ってくれると信じ、謝罪を受け入れたのに、全てを、息子の死まで否定する道に憤りしかありません」と無念さを滲ませました。
「係争中」連発で説明せず 知事の姿勢問われる
北海道側の異例の主張について、鈴木知事は12月26日の定例会見で「係争中の案件のためコメントを差し控えたい」と繰り返し、明確な回答を避けました。しかし、この問題では既に、第三者調査委員会の調査結果を受けて、北海道の担当課長と局長が遺族に直接謝罪しており、鈴木知事自身も定例会見で遺族に謝罪の言葉を述べています。
◆2024年12月26日鈴木知事定例会見
(記者)
亡くなった学生の遺族による訴訟の中で、道は第三者委員会が認定したパワハラ4件について、該当しないというふうに主張されたと伺っております。この点について知事、どのようにお考えでしょうか。
(知事)
この件につきましては、現在係争中の案件でありますので、コメントは控えさせていただきたいと思いますけれども、今後も適切に対応させていただきたいと考えています。
(記者)
道庁を訴えた裁判でもあるので、ある程度、道民も知る必要もある部分があるとは思うのですが、道が設置した第三者委員会の認定について知事もこの場で、第三者委の報告で教員によるパワハラが認定された、監督責任を有する道にも問題があるとされ、遺族に謝罪したというふうにお答えいただいているのですけれども、現在そのような主張をされているということは、この謝罪の前提が崩れることになるのですけれども、このこと自体が間違いだったというような、今、認識でいらっしゃるのでしょうか。
(知事)
係争中ですから、そこはまさに弁護士と、しっかり議論をしながら対応していくという中でありますので、その点についてはコメントは控えたいと考えています。
(記者)
言っていることと、今の状況を見ればやってることが違うというふうにとられるところもあるのですが、そういう意味で、道民との信頼関係を毀損する行為とも思えるのですけれども、その点について、知事はどのようにお考えでしょうか。
(知事)
私は道民の代表として、知事として仕事をしています。また、道と係争中でありますから、当然のこととして、その対応についてしっかり判断をした中で向き合っていますので、ですからこの記者会見の場で申し上げることは控えたいと思いますが、今後も適切に対応していきたいと考えています。ここで、この係争中の案件について申し上げることは控えるべきだと思います。
(記者)
今回、道は裁判に臨むに当たって、以前の謝罪は撤回するということでよろしいのですか、スタンスとしてそれだけ知りたいのですが。
(知事)
まず謝罪は謝罪として、これは道として対応したということは事実です。現在はこの案件について係争中でありますから、その対応についてはコメントを控えたいと思います。
(記者)
謝罪したことはそれはそれだけれども、その内容を変えるかどうかについては言えないという、そういう理解でいいですか。
(知事)
これはもう個別係争中の案件ですから、そこはしっかり道として、これはそこに向き合って対応していくという状況の中で、今後も適切に対応していきたいと思っています。
(記者)
今回、道が設置した第三者委員会の認定を、道が否定するということになっているのですけれども、どのようにお考えかというところと、一般的にそういうことはあり得るのかどうかというのをお願いします。
(知事)
繰り返しで申し訳ないのですが、現在係争中ですから、コメントは控えさせていただきます。
(広報)
ちょっと繰り返しになりますので・・・
(記者)
今回この方針が変わったことについても知事が判断されたことなのでしょうか。
(知事)
方針が変わったとか変わっていないとか、個別のそういった状況についてお話しする状況にはないと思いますが、今後も適切に対応したいと思っております。私は知事として、道民の皆さまの付託を得て道政を預かっていますから、道民の皆さまに対して、しっかりと仕事で向き合った中で、適切に対応しているということを申し上げたいと思います。
この問題は確かに係争中ですが、同時に、第三者調査委員会の認定を北海道がどのように受け止め、対応しているかという問題でもあります。「係争中」を理由に説明責任を免れるべきなのか、行政問題に詳しい札幌大学の武岡明子教授は「第三者委員会は客観性を確保するために設置されるものであり、その報告書は最大限尊重されるべきです。報告書の内容を否定するのであれば、北海道には説明責任がありますが、現状ではそれが果たされていないと感じます」と指摘しています。
救えた命 忘れてはならない「北海道の責任」
そして忘れてはならないのは、北海道立高等看護学院でのパワハラ問題が深刻化した背景に、北海道の杜撰な対応があったという点です。亡くなった男子学生以外にも、江差町と紋別市の学院で11人の教師による53件ものパワハラが認定されています。北海道には、10年近く前から苦情や相談が寄せられていました。それにも関わらずしっかりとした対応を取らず問題を深刻化させたとして、第三者調査委員会は、北海道の責任を厳しく指摘しています。北海道が迅速に対応していれば、救えた未来、そして命があったはずです。
この問題は単なる係争中の事案ではありません。北海道が設置した第三者調査委員会の認定を、北海道自身が否定するという異常事態であり、北海道民全体に関わる重大な問題です。北海道、そして鈴木知事は、自らの言葉で真摯な説明を行い、失われた信頼の回復に努めるべきです。亡くなった学生のためにも、二度とこのような悲劇を繰り返さないためにも、北海道の責任ある対応が求められています。
北海道立高等看護学院パワハラ問題の経緯
⚪︎2021年
<春>
・保護者などの告発によりパワハラ問題が表面化
<10月>
・第三者調査委員会①が江差と紋別の2つの学院で11人の教師による52件のパワハラがあったと認定
→問題を放置して深刻化させた北海道の責任も厳しく指摘
※江差高看で2019年に自殺した男子学生の事案は調査の申し出がなかったとして調査せず
・のちの追加調査で1事案が追加認定され、パワハラは11人の教師による53件に
⚪︎2022年
・自殺した男子学生の遺族が北海道に調査を要望
・第三者調査委員会②が立ち上がり調査開始
⚪︎2023年
<3月>
・第三者委②は自殺した男子学生に対する3人の教師による4件のパワハラを認定
全てが自殺につながったとし、学習環境と自死との相当因果関係を認めた
<5月>
・北海道の担当者が遺族に直接謝罪。鈴木知事も会見の場で謝罪
<10月>
・北海道側が自殺の賠償には応じない考えを遺族側に示す
→パワハラ行為が必然的に自死に直接結びついたとは言い切れないと主張
⚪︎2024年
・代理人同士で交渉するも事実上決裂
※北海道側は知事の謝罪はパワハラ認定に対するもので自殺に対するものではないとする趣旨の主張<9月>
・遺族側が北海道に対し約9500万円の損害賠償を求め提訴
<10月>
・初弁論に北海道側出廷せず
<12月>
・北海道側が、第三者委が認定したパワハラはパワハラではないと新たな主張を展開
看護学院パワハラ追及取材「看護師になりたかった…」
◆HTBが取材・放送した過去のVTRをご覧いただけます。
https://www.htb.co.jp/news/harassment/
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