海のギャング<ウツボ>を自宅で飼育してみた 水槽立ち上げ&給餌の様子を全て公開
細長くてどう猛にみえる顔、そのあだ名は「海のギャング」とされるウツボ。水族館で展示されていることも多く、好きな魚のひとつとしてウツボを挙げる人も多いのではないでしょうか。
実は、水族館だけでなく自宅でもウツボの仲間を飼育することは可能です。
実際に筆者がウツボ水槽を立ち上げてみました。
水槽のセットアップの手順
まず、水槽やろ過槽、ヒーターなどの器具をしっかり水で洗い、底に敷くサンゴ砂、ろ材も同様に洗います。
底に敷く粉にライブサンドを使用する場合は、砂にいるバクテリアを水槽の立ち上げに必要になりますので、水洗いは避けましょう。
いずれも水道の流水で洗うようにし、洗剤は絶対に使用してはいけません。
次に、ろ材をろ過槽の中に敷きます。今回は別の水槽でろ材として使用していた粗目のサンゴ砂をろ材として使用します。すでにバクテリアが定着しているので立ち上げが早くなります。
新しく海水魚飼育を始めるのであれば海水魚専門店で「バクテリアつきろ材」として販売されているのを購入するとよいでしょう。
サンゴ砂を敷くのであれば、海水を張る前に敷いておきます。厚さは2~3センチほどがよいでしょう。
DSBシステムといい、水槽にサンゴ砂を厚く敷く方法もありますが、これは酸っぱいも甘いも噛分けたベテラン向けのシステムであり、初心者向けではありません。
またDSBシステムはおもにサンゴを飼育するためのもので、海水魚をたくさん入れたり、ウツボのような大型魚に向いたシステムでもありません。
海水を張り、ろ過槽のスイッチを入れ、水槽用ヒーターで水温を25度に合わせたらバクテリア材を投入します(入れすぎは厳禁)。
これで水のにごりがとれれば準備は完了です。隠れ家を入れるのはこの時点でもよいですし、ウツボを水槽に入れるときでもかまいません。
準備ができたからといってすぐウツボを水槽に導入するわけにはいきません。初心者の方は一週間くらい空回してからハゼ科やスズメダイ科の魚などを水槽に導入し、もう2週間から3週間ほど飼育します。ウツボをお迎えするのはそれからです。
これらの魚は水質を安定させる役割を持ち、パイロットフィッシュとも呼ばれます。
筆者は現在ウツボの仲間を飼育している水槽に、タルボッツドゥモワゼルというスズメダイの仲間を入れて、数日飼育しました。その飼育で水槽に問題がないことを確認したあと、その魚は別の水槽に移動させ、そこにウツボの仲間をお迎えしました。
そうでないと、ウツボがタルボッツドゥモワゼルを捕食してしまうおそれがあるからです。
ほかに水槽がない場合は、ウツボの餌にするつもりでそのまま飼育するか、お店に引き取ってもらうようにし、決して近辺の海に逃がすようなことのないようにしましょう。
近辺の海で採集した魚も同様です。寄生虫や感染症などをもっている可能性もあるからです。
ウツボをお迎えする
ウツボをお迎えする方法としては、観賞魚店で購入する、通信販売で購入する、自分で採集するの3通りの方法があります。
初心者の方がウツボを購入するのであれば、自ら観賞魚店に出向いて購入するのが望ましいです。
ウツボを購入したら早めに持ち帰り、ウツボと海水の入った袋を30分ほど浮かべて水温を合わせ、水槽に導入します。
観賞魚店で購入する
ウツボの仲間は海水魚を扱っている観賞魚店で購入することができます。
そのようなお店は基本的にホームページやブログを持っているので、それを見てどこのお店が、どんなウツボを扱っているのかを知ることができます。しかしインターネットで「ウツボ 販売」で検索しても、出てくるのは食用魚としてのウツボを販売する店舗ばかり……なんていうこともあります。
海水魚雑誌に掲載されている広告や特集記事なども見て、ウェブサイトをチェックしたり、電話をして問い合わせるとよいでしょう。
なお、ウツボに強いといえる店舗は和歌山県湯浅町にある「やどかり屋」、大阪府の「ペットバルーン」、愛知県長久手市の「名東水園リミックス」などがあげられます。
通信販売で購入する
近年のインターネット通信販売の台頭はアクアリウムの世界にもおよび、水槽や器具、餌はもちろんのこと、生体、つまり飼育の対象になる生物も通販で購入することが一般的となりました。
しかしながら手軽な一方、品質や対応はピンキリなところもあり、「あたり」「はずれ」が大きいといえ、ビギナーにはおすすめできないところもあります。
またインターネットでの通販詐欺というのは、アクアリウムというジャンルでも残念ながら存在しており、大手通販サイトから無断転載した写真を使用し、それよりも驚くほど安価な値段をつけていることがあり、注意が必要です。
海水魚の雑誌を1冊購入し、巻末に出ているショップリストに問い合わせてみることをおすすめします。
なお、先述したおすすめの店舗としてあげたお店はいずれも通信販売を行っており、そのようなウツボに強い店舗で購入したほうが安心といえるでしょう。
自分で採集する
自分で採集したウツボを飼育することもできます。
ウツボを飼育しているアクアリストのなかには、「磯採集をしていたらウツボが獲れたから飼育をはじめた」という人もおり、実は筆者も高知県の磯で採集したクモウツボを飼育したのがウツボ飼育のはじまりでした。
大きな網を二つ用意し、片方の網に追い込むようにして採集するとよいでしょう。
なお、漁業でのウツボの採集方法のひとつに、「突き漁」といってモリやヤスなどでウツボを突く方法もありますが、これだとウツボは致命傷を負ってしまうので、飼育するウツボを採集する方法としては不適切です。
近年は漁業で獲れたウツボの仲間(やそのほかの魚、甲殻類、貝類など)を販売するアクアリウムショップがありますが、そのような場合も入荷してしばらくたち、よく餌を食べている個体を購入するようにしましょう。
ウツボは肉食性が強い!何を食べる?
ウツボに限らず魚飼育の楽しみといえば、給餌でしょう。
イヌやネコのように、ボール遊びをしたり、追いかけっこして遊ぶことができない魚の飼育では、この給餌が魚との最大の触れ合いとなります。
ただし与えすぎはよくありません。ウツボの種類や大きさにもよりますが、筆者は大体1週間に2回ほど、写真の大きさのイカの足を与えています。
水槽に導入してしばらくは何も食べませんが、空腹のときにイカなどを置いておくと食べることが多いです。
ウツボといえばよくタコを襲うシーンがクローズアップされますが、タコと同じ頭足類であるイカもウツボの好物のひとつといえ、健康上問題がなければばくばくと平らげてしまいます。
しかし与えすぎは急死につながることがあるとされていますし、食べ残しがあると水質悪化を引き起こしやすいのでよくありません。
筆者は購入したイカの下足などを切り分けて小袋につめていったん冷凍、解凍して与えています。いったん冷凍するのは寄生虫などを殺すためです。
クモウツボやシマアラシウツボといったアラシウツボ属のウツボは甲殻類を食べていることがよくあり、以前シマアラシウツボをさばいたときに消化管の中からカニの甲や脚の破片が多数出てきたことがあり、これらの種を飼育する水槽にはカニの仲間を入れてあげると、初期、まだイカなどを食べてくれないときに効果的です。
ただしカニの殻は水を汚すので、食べた後の殻はホースで吸い取ってあげましょう。
ウツボやトラウツボなどの大型個体ははイカのほか、アジの切り身なやイワシのミンチなども好んで食べますが、そのような餌は脂肪分が多く、イカ以上に水を汚しやすいので、ほどほどにします。オーバーフロー水槽であればプロテインスキマー(タンパク質分離機)などの器具をつけるのもよいでしょう。
噛まれてけがをしないようにしよう
なお、餌はかならずピンセットでつまんで与える必要があります。そうしないと、ウツボに咬まれてけがをするおそれがあるからです。
筆者も飼育しているサビウツボにかまれてけがをしたことがあります。
けがをしたら消毒し、真水で洗って病院へ行った方がよいでしょう。海水・淡水にかぎらず魚の飼育水には細菌やバクテリアなどが多く含まれているためです。
ウツボには主に生の餌を与えることになるため、どうしても硝酸塩濃度が上がりやすくなります。強力なろ過槽を使用しているだけではだめで、しっかり水かえして対処しましょう。基本的に2週間に1回、水量の半分から3分の1をかえるようにします。
しかし、餌をあげすぎたとき、あるいは、ウツボが餌を吐き出してしまいそのせいで水質が悪化することもあります。その場合、海水が濁り、腐ったようなにおいがすることが多いです。
そのようなときは水をすべてかえてあげましょう。そして、同時に液体のろ過バクテリアも添加するとよいです。
楽しいウツボとの生活を
このように、ウツボの仲間を水槽で飼育するのには覚えておかなければいけないことがたくさんあるのですが、とても楽しいものです。
みなさんも楽しいウツボの仲間との生活を過ごしてほしいと願っています。
(サカナトライター:椎名まさと)
参考文献
榮川省造(1982)、新釈 魚名考、青銅企画出版
中坊徹次編(2013)、日本産魚類検索 全種の同定 第三版、東海大学出版会
上野輝彌・坂本一男(2005)、新版 魚の分類の図鑑 -世界の魚の種類を考える、東海大学出版会
コーラルフィッシュ Vol.31、えい出版社
マリンアクアリストVol.75、エムピージェー