助産院で自然分娩で産むはずが…想定外の緊急帝王切開に
10歳の男の子と3歳の女の子の2児の母で、フリーランスWebライターをしている小吉です。37歳で初めて妊娠し、自然分娩に向けて準備万端整え、とうとう臨月を迎えることができました。あとは産むだけというときに、急転直下で緊急帝王切開へ。最後まで自然分娩にこだわった私が、緊急帝王切開に応じた理由と手術台から見えた景色、手術中に考えていたことについてお伝えします。
自然分娩を諦められない私に看護師が…
待ち望んだ妊娠に意気込み、自分の理想を追い求めて立てた「助産院で産む」というプランが崩れ落ちたのは妊娠38週目のこと。それまですこぶる順調に来ていた私にとって、妊娠高血圧症候群の疑いで助産院から病院への転院を余儀なくされたのは不本意でしかありませんでした。医療行為が許されていない助産院は、少しでもリスクのある妊婦を転院させる、と頭では分かっていても、気持ちの処理ができなかったのです。
予定日まで約10日を残し、陣痛を待つばかりだったはずが、自宅で破水を迎えてしまい、電話で確認してから急きょタクシーで病院へ向かいました。到着してまもなくまた同じ現象が起こり、手早く着替えさせられベッドへ移動すると、ほどなく医師から帝王切開を勧められました。「考えてみてくださいね」という言葉に、それでも私は自然分娩の可能性を見出そうとしていました。
家族が病院に揃うまでの間、手術の同意書を何度となく読み返すものの、私の意思は変わりませんでした。再び医師が来て、やはり帝王切開での出産を提案されました。なかなか決断しない私に業を煮やしたのか、近くにいた若手の看護師が大きな声で私に聞こえるように言ったのです。「もう考えてる時間なんてありませんよ!」
このとき、破水から約2~3時間が経過していたと思います。陣痛が始まっていたのでこのまま何とかなるんじゃないかと、まだ自然分娩を諦めきれずにいた私に突き刺さったひと言でした。
手術の同意書へのサイン。追いつかない自分の気持ち
医師の勧めと若手看護師の言葉、そして家族の心配にあと押しされるようなかたちで私は同意書にサインしました。これは退院後に聞いたことですが、赤ちゃんの心拍と私の血圧に問題があったため、帝王切開を勧められたそうです。「2人とも危なかったんだって」と、その時はじめて母から聞きました。
同意書にサインをすると、すぐに手術の準備が始まり、医師や看護師からそれぞれ必要な説明がありました。その中でも印象に残っているのは、メスを入れる方向を縦か横かで選択できたことです。アンダーヘアに隠れて傷が見えにくくなるという理由で、私は迷わず横を選びました。
それ以外にもさまざまな説明があったはずですが、麻酔のこと以外はあまり頭に入ってこなかったように思います。手術に向けてめまぐるしく物事が動いていく一方で、自分の気持ちは止まったまま、現実に追いつけないでいたのでしょう。
いよいよ手術室へ! 手術台の上で私が考えていたこと
ときどきやってくる陣痛に堪えながら待っていた手術までの2時間。会話の内容は、ほとんど記憶にありません。手術着に着替えた私は、ストレッチャーの上で家族に見送られました。
生まれて初めて生で見る手術室は、明るい照明とひんやりした空気が印象的で、そこにはドラマで見るように多くの機材とたくさんの医療スタッフがいました。ここまで来るとさすがに腹が据わるのか、妙に冷静さを保ったまま手術台の上にいたことを覚えています。
手術中の痛みは、下半身麻酔をかけるときのチクッとする一瞬だけで、すぐに麻酔が効いてくるのが分かりました。何か冷たいものを太ももに当てられ、「痛くないですね?」と確認されました。
手術の様子は私に見えないよう、パーテーション代わりの緑色の布が胸の下あたりから掛けられていました。聞こえてくるのは、医師や医療スタッフの間で交わされる会話や器具同士によるカチャカチャという金属音、心拍や血圧などを確認するためのモニターの機械音だけで、それ以外は静まり返っていました。
いざ手術が始まると自分には何もできないので、照明を見つめたり、時計をチラチラと見たり、聞こえてくる声や音に耳を澄ませたり、何とか無事に取り上げて欲しいと祈ることをひたすらに繰り返していました。
待ちに待った出生の瞬間は、「ブルブルッ」とともに!
「ちょっと体が揺れますよ」という医師の言葉の直後に、ブルブルッと体が揺れるのが分かりました。それが何を意味するのかすぐに分かったので、「いよいよだな」と気持ちを整えると、何度目かのブルブルの後に心待ちにしていたひと言を聞くことができました。「はい、出たよ!」
生まれたという喜びもつかの間、待ち焦がれた赤ちゃんは緑の布越しにその顔を一瞬見せてもらえただけで、すぐに別の場所へと移動されていきました。産声を上げてもらわなければならなかったからです。
オギャーという声を聞くまでの間は、きっと物理的には短い時間だったのでしょうが、私には長く感じられました。力強い泣き声が聞こえてきた瞬間に心から安堵し、涙が流れ落ちたのを覚えています。緊張から解放されたからか、残されたおなかの縫合ついての記憶は、医療用ホチキスを留めるバチンバチンという音がわずかに頭の片隅に残っているだけです。
こうして無事に生まれてきてくれたのは、体重2630g、身長49.0cmの元気な男の子でした。私にとっては想定外の緊急帝王切開となりましたが、どんな生まれ方であっても、子どもの可愛らしさが変わるものではありません。授乳やおむつ替えに忙しくしながらも、自然分娩を希望していた自分が、ふと「帝王切開になっちゃったな」と思ってしまうときには、2人とも命を落とさずに済んだことを感謝し、気持ちを切り替えるようにしています。
[小吉*プロフィール]
一男一女の母で、フリーランスWebライター。上の子(10歳男児)の傍若無人さやこらえ症のなさに振り回されるも、それを下の子(3歳女児)の愛らしさや無邪気さで埋め合わせ、なんだかんだ言いつつ育児を楽しむ日々を送っている。
※この記事は個人の体験記です。記事に掲載の画像はイメージです。