引っ越し先の児童精神科が見つからず大ピンチ!自閉症息子の転院手続き奮闘記
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
急いで引っ越し先の児童精神科を探した理由
ASD(自閉スペクトラム症)と3歳の時に診断を受けた長男けんとは、現在小学4年生。特別支援学級の情緒クラスに在籍しています。構音障害があり、集団行動が苦手、数字が大好きな男の子です。
そして、発達障害グレーゾーンの次男ゆうきは小学2年生。通常学級に在籍しています。小さい頃から不安がとても強く、極度の負けず嫌いな男の子です。
新年度になる約1ヶ月前、夫の仕事の都合上、転勤が決定しました。引っ越しをするにあたり、私が1番気持ち的に大変だと感じたのが「かかりつけ医探し」でした。
息子2人は児童精神科に通院しています。転院するので「診療情報提供書」という「紹介状」の作成を通っていた病院にお願いしました。すると、「宛て名に新しい病院の名前を書くので、病院が決まったら教えてください」とのこと。
児童精神科は予約が取りにくく、新規患者の受付をしてない病院や半年以上待機する病院が多くあり、私自身も過去に息子たちの予約をとるのに苦労したことがあります。
すぐに決めるのは難しいだろうと思い、新しい病院の予約が取れなかった場合はどうなるのかを質問をしてみました。すると(その病院の場合)引っ越しをしたあとでも、新しい病院が決定し連絡をすれば自宅に郵送するとのこと。引っ越し後でも診療情報提供書を書いていただけることが分かり安心しました。しかし、どちらにせよ長男けんとが服薬しているので、新しい病院の予約ができないとお薬が途切れてしまいます。急いで新しい病院を探しました。
早く決めないと……プレッシャーで憂鬱に
児童精神科は予約が取りづらいのに「早く決めないといけない」というプレッシャーを感じてしまった私。引っ越しという膨大な量のやることを目の前にして、正直この「かかりつけ医探し」というのは憂鬱すぎて気がめいりそうになりました。
しかも引っ越し先は遠く離れた、一度も住んだことのない雪国。土地勘が全くありません。まず、どこの病院がうちの子たちに合いそうか見当もつかないのですが、インターネットを使って調べてみることにしました。
案の定「新規受付は現在しておりません」とホームページに書かれている病院も多いうえに、口コミや、対象年齢の確認、場所を調べたり……と、途方もなさすぎて「引っ越しで時間がない中なのに、これは無理だ!」すぐに断念しました。
思い切って引っ越し先の地域に相談してみた
「その地域のことは、その地域の人に聞こう!」と、思い切って市役所に電話をしてみました。困っていることを伝えると、その地域では児童精神科のある病院などが連携して支援を行う取り組みがあるとのこと!早速、紹介いただいた病院に電話をしてみると、電話ごしにゆっくり話を聞いてくださり、いくつかの病院の情報をくださったのです。
何も分からないまま、やみくもに電話をしたり調べたりするよりも、はるかに楽に感じました。おかげさまで、紹介していただいた病院に電話をかけまくった中から1つ、A病院だけ2~3ヶ月先の予約が取れました。これで一安心。とても心が楽になりました。
ただ、A病院は、新居からとても遠い場所だったので、転居後にA病院に通いながら新しい近場の病院を探すことにしました。無事、診療情報提供書を書いていただき、予約が取れた日までの分のお薬もいただきました。
大切だと感じた引っ越し後の情報収集
そして4月。ついに引っ越しをしました。新しい環境の中で出会っていく方たち……学校の先生、長男と同じ特別支援学級に通う親御さん、相談支援事業所の方、見学に行った放課後等デイサービスの方たちとのお話しの中で、聞けそうな時は病院の情報も聞くようにしました。
お話しに出てきたいくつかの病院をメモ。そしてインターネットを使って調べてみました。すると指定の日時に電話をかけ、つながると新規患者として受付していただけるという病院が2ヶ所ありました。
指定の時刻に電話をかけまくった結果、B病院はつながらずダメでしたが、C病院にはなんとか電話がつながり新規患者枠をゲット!現在、長男けんとはその新たに予約をとったC病院に通院しています(電話受付で1人分しか予約できなかったので、次男ゆうきは最初に予約をとったA病院に通院しています)。
今回の引っ越し先でのかかりつけ医探し、自分だけで全部抱え込んで調べていたら、途中で心が折れてしまっていたかもしれません。新しい病院が見つかるまでの間だけでもオンライン受診ができたらどんなに楽なんだろう……とも思いましたが、たくさんの方のご協力をいただきながら無事見つけることができ、本当によかったです。
執筆/ゆきみ
(監修:新美先生より)
引っ越し先でのかかりつけ医探しについて、詳細に記してくださりありがとうございます。読んでいて、わずか1ヶ月という限られた準備期間の中で、膨大な荷物や手続きに追われながら、2人のお子さんの医療継続を最優先に動かれた大変さがよく伝わってきました。特に内服薬がある場合、かかりつけ医が薬が途切れるまでに見つかるのかは切実な問題で、ハラハラしながら読みました。
私自身も転居を控えたご家庭から相談を受けることがありますが、児童精神科や発達障害診療の外来は地域によって体制が大きく異なり、「ここに聞けば一発で解決」という窓口がないのが実情だと感じています。地域によって、総合病院の小児科だったり、クリニックだったり、療育センターだったり、(児童)精神科だったりと多岐にわたっていて、初診の予約方法や待機期間もまちまちです。時には予約が取れるのが半年〜1年先ということもあります。そんなこんなの中で、通院が途絶えてしまったという話も聞くことがあります。
そうしたなかで、ゆきみさんがインターネット検索、役所への相談、学校や放課後等デイサービスでの口コミ収集など、多方面に手を伸ばし、複数の候補を探し当てた行動力は本当に素晴らしいと思います。
情報が全国一律にまとまっていないのは残念ですが、比較的役立つのは「〇〇県 発達障がい総合支援センター」と検索する方法です。そこに電話すると地域の相談窓口や医療機関へのつなぎ方を教えてもらえることが多いです。さらに現地での口コミと組み合わせることで、より安心できる医療先を見つけやすくなります。予約が取れた後も、相性や通いやすさの問題は残りますが、新しい出会いの中で信頼できる医療者に巡り会えることを願っています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。