小2息子、放課後等デイの先生の顔にケガを!「私の育て方がいけなかった?」ショックの私に先生は…
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
小学2年頃まで暴れやすかった長男
この春から発達障害グレーゾーンの長男が中学校に進学しました。引き続き特別支援学級に通っています。
長男は今はだいぶ落ち着きましたが、気持ちの切り替えが本当に苦手な子でした。
保育園の年少~年長の頃は近所のお友達と楽しく遊んでいて、夕方になって私が「帰るよ」とお迎えに行くと納得できなくてギャン泣きするし、旅行の予定を立てていた当日に次男が熱を出したりして急遽行けなくなると床にゴロンゴロン転がって大暴れするし、お友達の家に遊びに行って「今日遊べないんだ、ごめんね」と断られるとトボトボ家に帰ってきてまた大暴れするし……。
小学2年くらいまではこのように気持ちの切り替えが苦手で、持ち直すのにすごく時間がかかっていました。
小学3年以降は落ち着いたのか、と言われると決してそういうわけではなく、コロナ禍に入ってしまい、お友達や放課後等デイで過ごすことが極端に減り、それに伴ってトラブルが減ったわけです。
私はとりあえず、旅行などの長男にとって楽しい予定を前もって言うことをやめました。
それからお友達の家に行くときなどは「もしかしたら今日は遊べないかもしれないよ」とあらかじめ伝えるようにしていました。
ある日大きなトラブルを起こした長男
小学生になった長男は、私がフルタイム勤務していたのもあり学校が終わると毎日放課後等デイに通いました。
学校のあとに行くのでちょっと疲れています。機嫌が悪くなって先生にわがままを言ったり、トレーニング活動をやらずに寝ることもしょっちゅうでした。
それでも先生たちは優しく接してくださいました。
この先もずっと忘れないと思いますが、長男は小学2年の時に大きなトラブルを起こしました。
先生の顔に椅子を当ててしまったのです。
私は話を聞いた時ショックのあまり目の前が真っ暗になりました。それからすぐに、一体何があったのか、先生のケガの具合は、傷跡が残ったらどうしよう、ということが頭を駆け巡りました。
長男が先生をケガさせてしまった理由は、お友達とのトラブルがきっかけでした。
お友達と2人でDVDを見ていたところ、そのお友達が何度も何度も同じシーンばかりを戻して再生していたのだそうです。
それに我慢できなくなって長男は怒り、それをなだめようとした先生に椅子を当ててしまったとのことでした。
先生は念のため病院を受診。私も夫も大きなショックを受け、夫婦で誠心誠意お詫びしました。
失礼ながら先生のお顔のケガを確認したところ(穴が開くほど拝見してしまいました)、傷にはなっていない様子でひとまず安堵したのですが、もしかしたらファンデーション等で隠してたのかもしれないと考えたら申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
家に帰ってから長男を座らせ、今回のことについて話をしました。とはいえ私はショックのあまり怒りの感情が出ず、淡々と叱るので精一杯でした。
長男はそんな私の様子が怖かったのか、反省しているのか、涙をこぼしてじっと聞いていました。
ショックを受ける私を救ったのは
特別支援学級の担任の先生とは毎日、日課帳(連絡帳みたいなもの)でのやりとりがあるのですが、情報共有のため長男が起こしたことについて書きました。
先生に話を聞いてもらいたい気持ちもあったのですが、なんとその夜先生がわざわざ電話をくれました。
先生にケガをさせてしまうなんて、私の育て方がいけなかったと感じたこと、これから先どうやって長男を育てればいいのか分からなくなってしまったことなどを電話口で先生に全部伝えました。
すると先生は優しくこう言いました。
「お母さん。お母さんの育て方がいけなかったというのは、絶対にありません」
「先生のおケガのお具合は気になるところですが、誰かにケガをさせてしまうこと、誰しも一度くらいはあると思いますよ。
それに子どもは小学校の中学年になるとギャングエイジと呼ばれる時代に入っていきます。
仲間意識が強くなって保護者や教師にこれまでとは違った態度を取るようになります。成長の過程ですからそれでいいんです。
ですからお母さんがそんな風に思わなくていいと思うんです」
先生の言葉が1つひとつ私の心に染み込んでいくようでした。
長男の担任の先生がこんなに温かい先生で心からありがたく感じ、私はまた涙が出ました。
おわりに
担任の先生はその後転任されてしまいましたが、あの時担任の先生でいてくださったことに本当に感謝しています。
私が先生の温かい言葉にどんなに救われたか、感謝してもしきれません。
子どもに関わるすべての先生たちのご健康とご多幸を心から願っています。
執筆/星河ばよ
(監修:室伏先生)
放課後等デイサービスでのトラブルについて、ばよさんのお気持ちも交えて共有くださり、ありがとうございます。
気持ちの切り替えが難しかったり、癇癪を起こしやすいとのご相談も数多くいただきます。とはいえ、その原因や背景はさまざまです。予定の変更が苦手、感覚過敏(特定の音や教室のざわざわが苦手、偏食、服の素材によっては不快感を感じるなど)、お友達となんとなくうまくいかない、真面目過ぎたり正義感が強過ぎたりして「まぁいいか」と考えられない、頑張っているのに怒られてしまうことが多いなど、これ以外にも要因はたくさんあります。
ほかのお子さんが全くストレスに感じていない事柄に対して、大きな負担やストレスを抱え、それに耐えて生活している可能性がありますので、そのお子さんの背景や性格、置かれている環境に応じた対応が必要になります。
長男さんが先生におケガをさせてしまったことについて、私も特別支援学級の先生と同じ意見です。先生にケガをさせようと意図したのでは決してなく、自分の怒りをうまくコントロールできなかった結果、失敗してしまったのです。このような失敗は誰しも経験があります(身体的なケガでなくても、心にケガをさせてしまうこともあります)。上述したようなさまざまな負担に日々耐えていると、自分の中のストレスのコップが常に満タンに近い状態で、少しの刺激で簡単に怒りが溢れてしまうのかもしれません。失敗してしまったけれど、お母さまのお話を聞いてちゃんと理解され、反省されたこと、これがとっても大事なことです。お子さんは経験を通してさまざまなことを学んでいきますから、それでよいのだと思います。
長男さんが楽しい中学生生活を過ごされること、お祈りしております。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。