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ヴェネツィアの澄んだ空やまばゆい水面、街並みが広がる 『カナレットとヴェネツィアの輝き』レポート

SPICE

カナレット《昇天祭、モーロ河岸のブチントーロ》1760年 油彩、カンヴァス ダリッジ美術館、ロンドン 

2024年10月12日(土)から12月28日(土)まで、東京・新宿のSOMPO美術館にて、『カナレットとヴェネツィアの輝き』が開催されている。

1697年にヴェネツィアに生まれたカナレット(本名 ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)は、生誕の地であるヴェネツィアを題材にし、客観的に都市を描き出すヴェドゥータ(景観画)で評判を呼んだ。英国のパトロンに恵まれたそうで、1768年にヴェネツィアで没するまで、英国に長期滞在して現地の景観も描いていたという。

本展はカナレットを紹介する日本初の展覧会で、スコットランド国立美術館のコレクションを中心に、油彩や素描、版画など約60点もの作品を鑑賞できる貴重な機会だ。加えてヴェドゥータの新たな側面を開拓した19世紀の画家たちの絵画も展示される豪華な内容である。以下、内覧会の様子をレポートする。

肖像部分原画:ジョヴァンニ・ バッティスタ・ピアツェッタ/ 画面構成、彫版:アントニオ・ ヴィゼンティーニ《カナレットとヴィゼンティーニの 肖像》1735年 エッチング、紙 個人蔵


日本で見ることが難しいカナレット作品を多数紹介

本展は「第1章 カナレット以前のヴェネツィア」「第2章 カナレットのヴェドゥータ」、「第3章 カナレットの版画と素描-創造の周辺」、「第4章 同時代の画家たち、継承者たち-カナレットに連なる系譜の展開」、「第5章 カナレットの遺産」という5つの章で構成される。

カナレットの作品はヨーロッパの主要な美術館に収蔵され定期的に個展が開催されるほか、英国王室がコレクションを多数所持している高名な作家である。しかし日本では彼の作品をまとめて鑑賞する機会は少なかった。本展ではそんなカナレットの作品が集結。彼が活躍した18世紀に、グランド・ツアー(上流階級の子弟が文化の中心地を巡る旅行)でヴェネツィアを来訪した人々が持ち帰りたいと望んだ風景をたっぷり堪能することができる。

左:カナレット《サン・マルコ広場》1732-33年頃  油彩、カンヴァス 東京富士美術館、 右:カナレット《サン・ヴィオ広場から見たカナル・グランデ》1730年以降 油彩、カンヴァス スコットランド国立美術館

カナレットの絵にはヴェネツィアの澄んだ空やまばゆい水面のほか、人々が仮面を身に着け仮装を行うカーニヴァル、レガッタ(ボートレース)やキリスト昇天祭、壮麗な劇場や教会などが描かれており、当時の文化や風俗を今に伝える。輝かしい情景を見ていると、多くの人が憧れる水上都市ヴェネツィアのイメージは、カナレットの絵によってつくられた部分が大きいのだと実感する。

左:カナレット《昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ》1738-1742年頃 油彩、カンヴァス レスター伯爵およびホウカム・エステート管理委員会、ノーフォーク、 右:カナレット《昇天祭、モーロ河岸のブチントーロ》1760年 油彩、カンヴァス ダリッジ美術館、ロンドン 

晩年に近づくにつれ、カナレットは人物の細部や画面の明るい部分を点で表現するようになる。よく見ると、まるで画面に光の粒子が舞い散っているようだ。こうした絵は飾られた場所に華やぎをもたらし、見る人は気持ちが明るくなったことだろう。

カナレット《昇天祭、モーロ河岸のブチントーロ》(部分)1760年 油彩、カンヴァス ダリッジ美術館、ロンドン 

パトロンの多くが英国人だったため、カナレットは渡英して主要顧客のために制作している時期もあった。彼の手による英国の観光地や遊興施設は人々が緻密に描かれていて活気があり、鑑賞者を飽きさせない力がある。作品を観た人は描かれた場所に足を運びたくなったに違いない。

左:カナレット《ロンドン、ヴォクスホール・ガーデンズの大歩道》1751年頃 油彩、カンヴァス コンプトン・ヴァーニー、ウォリックシャー、 右:カナレット《ロンドン、ラネラーのロトンダ内部》1751年頃 油彩、カンヴァス コンプトン・ヴァーニー、ウォリックシャー

カナレットの素描には、メモや透視図法上の消失点なども残され、真面目で細かい仕事ぶりを今に伝える。彼の作品は「写真のような絵」とも形容されるが、実際にカメラ・オブスキュラを大まかなメモ代わりに使っていたとも言われており、会場には19世紀頃のカメラ・オブスキュラも展示されている。

左:カナレット《サン・マルコ広場でのコメディア・デラルテの上演》1755–1757年? ペン、インク、淡彩、紙  ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ロンドン、 右:カナレット《サン・マルコ大聖堂の内部》1766年頃 ペン、インク、赤と黒のチョーク、紙 ヴィクトリア・アンド・ア ルバート博物館、ロンドン

ロンドン、ジョーンズ製《レフレックス・カメラ・オブスキュラ》1800年頃 東京富士美術館


ヴェネツィアの街中を歩いているような気分に

ヴェネツィアは7世紀末期から1797年まで共和国として栄えた。カナレットが活躍した時代は、海外の領土も貿易の利権もほとんど失っていたものの、オスマン帝国との戦争が終結して長い平和を享受しており、魅力的な旅行地となっていた時期だ。本展では、栄華を極めたヴェネツィア共和国の雰囲気を伝える絵画が数多く紹介されている。

「第4章 同時代の画家たち、継承者たち-カナレットに連なる系譜の展開」会場風景

カナレット活躍時の最も著名な画家の一人がジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロである。当時の貴族は邸宅の壁面にティエポロのフレスコ画を望んだという。本展でもティエポロの手による澄んだ色調の華麗な作品を堪能できる。

左:ジョヴァンニ・バッティスタ・ ティエポロ《ヴィーナスによって天上に導かれ るヴェットール・ピサーニ提督》1743年頃 油彩、カンヴァス(楕円形)国立西洋美術館、 右:ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ《アントニウスとクレオパトラの出会い》1747年頃 油彩、カンヴァス スコットランド国立美術館

会場はヴェネツィアの建物を連想させる優雅な内装で、ヴェネツィアン・グラスやヴェネツィアの関連地図、各種映像なども流れている。まるでヴェネツィアを旅しているような気持ちになれるのも嬉しい。

「第1章 カナレット以前のヴェネツィア」会場風景


カナレットの及ぼした影響を伝える内容

ヴェドゥータの第一人者として名を馳せたカナレット。本展では彼の影響が見られる後世代の作品も多数紹介されているので、カナレットが描いたヴェネツィアの明るい面だけではなく、人の気配がない橋や街の裏側など、ヴェネツィアの影の部分も知ることができるだろう。

ウィリアム・エティ《溜息橋》1833-1835年 油彩、カンヴァス ヨーク・ミュージアム・トラスト(ヨーク美術館)

ヴェドゥータは都市のイメージを形づくるほか、思いがけない形で活用される。カナレットの甥であるベルナルド・ベロットは、ポーランドのワルシャワなどに滞在してヴェドゥータを描いた。第二次世界大戦時、ワルシャワは壊滅的に破壊されるが、復興時に参考とされたものの一つがベロットの絵だったという。本展ではベロットがイタリア国内を取材した作品も展示されている。

ベルナルド・ベロット《ルッカ、サン・マルティーノ広場》1742-1746年 油彩、カンヴァス ヨーク・ミュージアム・トラスト(ヨーク美術館)

カナレットはカプリッチョ(架空の景観画)も得意とし、古代の遺跡や虚構の建物を実在の建物と組み合わせ、架空の風景を描き出した。本展では英国のウィリアム・マーローらによるカプリッチョも紹介、異国にあるはずの建物が同居する不思議な光景を楽しめる。

ウィリアム・マーロー《カプリッチョ:セント・ポール大聖堂とヴェネツィアの運河》1795年頃?  油彩、カンヴァス テート

風光明媚なヴェネツィアの情景は、エドゥアール・マネやピエール=オーギュスト・ルノワール、オデュロン・ルドンなど、多くの画家を惹きつけた。本展では印象派の先駆となったウジェーヌ・ブーダン、巨匠のクロード・モネ、新印象派のポール・シニャックが描いた作品が並ぶ。薄雲に覆われた空、蜃気楼から現れてきたような教会など、画家たちが腕を振るって描き上げたヴェネツィアの多様な姿を堪能してほしい。

「第5章 カナレットの遺産」会場風景

本展オリジナルグッズも見逃せない。特にコラボグッズが充実しており、サンリオキャラクターであるハンギョドン、絵本作家の谷川夏樹が描くコンテナくん、イラストレーター・STUDY優作とコラボしたアイテムなどがずらりと並ぶ。他にもポストカードやクリアファイルといった多彩なアイテムも揃っているので、是非チェックいただきたい。

物販コーナー

物販コーナー

本展は、日本で見る機会が少ないカナレットの作品をたっぷりと鑑賞することができ、栄光に輝くヴェネツィアの魅力を知ることができる展覧会だ。ヴェネツィアの華やかな街並みを散策しているような気持ちになれる『カナレットとヴェネツィアの輝き』は、12月28日(土)まで、SOMPO美術館にて開催中。

文・写真=中野昭子

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