「ばきばき」「びりびり」…B音のオノマトペのイメージとは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】
「B音」で始まるオノマトペのイメージとは?
秋田喜美さんの解説を紹介!
これまでP(ぱらぱら)、T(たらたら)、K(からから)、S(さらさら)、H(ひらひら)音を扱ってきた当連載。今回からはいよいよ濁音(B、D、G、Z音)です。
2024年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。
オノマトペは「ふんわり」「ひらひら」など擬態語や擬音語の総称です。
様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。
今回は『NHK俳句』テキスト2024年10月号から、「B音」のオノマトペに宿るイメージについての解説をお届けします。
阻害音 B音で始まるオノマトペ
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清濁の対立は日本語のオノマトペの中核を担います。「ぱらぱら/ばらばら」「たらたら/だらだら」「からから/がらがら」「さらさら/ざらざら」といった微妙なニュアンスの違いを理解することは、俳句の音選びに大いに役立つはずです。
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その名が示す通り、清音は清らかさ、濁音は澱(よど)みを感じさせます。より具体的には、清音と半濁音は小さく、軽く、弱い。濁音は大きく、重く、強い印象を与えます。今回はバ行(B音)をパ行(P音)と比べながら、このことを確認していきましょう。
「ちょっと待って、バ行とハ行(H音)の間違いでは?」と思われるかもしれません。違います。B音と音声学的に対立するのは、同じく唇を一旦閉じて発音するP音です。音のイメージについても、B音はP音と対をなします。
「バランバラン/パランパラン」「びりりびりり/ぴりりぴりり」とB音とP音のオノマトペを並べてみるとわかるように、両者の意味はよく似ています。P音のオノマトペの解説で述べた緩みのなさという基本的な意味が共通しているためです。違うのは重さや強さ。声帯が震えるBは、震えないPよりも甚(はなは)だしい様子を表します。青葡萄に「バランバラン」と当たる雨は、「パランパラン」よりも大粒で強い。「ハランハラン」ではそもそも雨の様子が写せません。寒雷の衝撃で「びりりびりり」と鳴るガラス戸は、「ぴりりぴりり」よりも激しく揺れています。鶏頭を折る「ぶっつり」は「ぷっつり」よりも、田や菜の花が照る「べたべた」は「ぺたぺた」よりも、やはり激しさが感じられます。
『NHK俳句』テキストでは、オノマトペ以外の「濁音で始まる和語」に宿るイメージや、文脈・情景によって選ばれる「清濁のオノマトペ」についての解説を掲載しています。
講師
秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ進化したか』、Ideophones Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です
◆『NHK俳句』2024年10月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『オノマトペの認知科学』(秋田喜美著・新曜社)/『日本語のオノマトペ──音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版)/
『日本語の音声』(窪薗晴夫著・岩波書店)/『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『擬音語・擬態語辞典』(山口仲美編・講談社学術文庫)