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認知症の親のお金が引き出せない…! 銀行口座凍結に備える3つの方法

「みんなの介護」ニュース

小島 章彦

現在の日本では認知症になる人が増えていて、2025(平成37)年には約700万人になり、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になることが見込まれています。

そんな中で、認知症の人の財産管理が大きな問題になっています。

認知症になってしまった場合には、状況によっては銀行などに保有している口座が凍結される可能性があります。

口座凍結されてしまうと、家族であっても資金を引き出すことができないため、介護費用や生活費などを家族が立て替えなければなりません。

そのため、認知症になった場合の財産管理は重要であり、認知症による口座凍結に対する対策を立てておかなければなりません。

今回は、認知症による口座凍結に備える3つの方法について解説していきます。

認知症になると口座が凍結されるワケ

認知症になってしまい判断能力がなくなったり、低下したりすれると、銀行などに保有している口座が凍結されることがあります。

認知症による判断能力低下と財産管理リスク

認知症の影響で判断能力が低下すると、適切な財産管理ができなくなったり、詐欺や横領などの犯罪に巻き込まれる可能性が高くなります。

そのため、銀行などの金融機関は、認知症になったことによる犯罪や財産を失うことを防ぐため、口座を凍結するのです。

金融機関が認知症と判断するタイミングと口座凍結の実態

銀行などの金融機関は預金者が認知症になったことがわかったタイミングで、口座を凍結します。

しかし、預金者が認知症になったかどうかは、金融機関にはわかりません。

そのため、実際には以下のような事例があった場合などに、金融機関が認知症と判断することが多いです。

家族から相談があった場合
預金者本人が窓口で手続きを行う時に、判断力の低下などに気がついた場合
家族が預金者本人のキャッシュカードを使用して多額を引き出した場合
詐欺や横領などが疑われるような多額の出金や振込が見られた場合

認知症による口座凍結で起こるトラブルとは?

認知症により銀行などの金融機関で口座凍結された場合、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。

引き出しや各種手続きができなくなる

金融機関で口座が凍結された場合、預金者本人のみならず、家族であっても預金を引き出すことはできません。

また、資金使途が認知症における介護費用のためであっても、預金を引き出すことはできません。

年金受取口座の変更手続きもできませんし、代理人カードも使えなくなります。

介護費用の捻出などで家族が困る

金融機関の口座が凍結されると、資金の引き出しができなくなります。

本人の口座から資金の引き出しができなければ、本人のお金から介護費用を支払うことができません。

そのため、家族が介護費用を捻出しなければならなくなるのです。

また、認知症になった場合には施設に入る人も多いですが、施設の入居費用なども家族が捻出しなければなりません。

認知症による口座凍結への備え方①任意後見制度の活用

認知症による口座凍結への備え方のひとつとして、任意後見制度の活用があります。

任意後見制度の仕組みとメリット

任意後見制度とは、成年後見制度のひとつであり、認知症など本人の判断能力が不十分な人に代わって療養看護、財産管理などについて代理権を与える制度のことです。

成年後見制度には法定後見制度もありますが、こちらは判断能力が不十分になった後に家庭裁判所によって選任された成年後見人により支援する制度のことです。

一方、任意後見制度は、判断能力が不十分になる前にあらかじめ任意後見人を決めておいて、判断能力が不十分になった場合に本人に代わって事務を行う制度です。

任意後見制度は、判断能力が十分なうちに任意後見人を決めることができるため、口座凍結などの対策を事前にできることがメリットです。

他にも任意後見制度には、本人の希望する支援内容を具体的に反映できることや、後見人を自分で選べることなどのメリットがあります。

任意後見制度の手続きの流れと注意点

任意後見制度の手続きは、判断能力が十分なうちに行われる「任意後見契約手続き」と、判断能力が不十分になってから行われる「任意後見監督人選任手続き」が必要です。

任意後見契約の手続きは、以下の順に行われます。

任意後見人になる人の決定
任意後見契約の内容を決定
任意後見契約を公正証書で作成し締結
法務局で任意後見人選任の登記

任意後見監督人選任の手続きは、以下になります。

家庭裁判所にて任意後見監督人選任のための申立て
家庭裁判所による任意後見監督人の選任
任意後見人の仕事開始

任意後見制度の活用には、高額の費用がかかることや、口座凍結の解消のためだけには活用できず途中でやめることができないなどの注意すべき点があります。

また、申し立てをしてからすぐに利用が始められるわけではありませんので、注意が必要です。

認知症による口座凍結への備え方②家族信託の活用

認知症による口座凍結への備え方のひとつとして、家族信託の活用があります。

家族信託の仕組みとメリット

家族信託とは、財産管理の手法のひとつであり、資産を持つ人が保有する不動産や預貯金等の資産を家族などの信頼できる人に託し、老後や介護に必要な資産の管理、運用、処分などを任せる仕組みです。

家族信託は、財産の所有者であり財産を信託する委託者と、財産の管理、運用、処分を任される受託者と、財産権を保有し財産から利益を受ける受益者の三者から成り立ちます。

すなわち、委託者が財産の管理などを受託者に信託して、受託者が管理する財産から発生した収益を受益者が得る仕組みです。

基本的には、委託者と受益者は同じ人になります。

家族信託のメリットは、委託者が認知症になった場合、家族である受託者が金銭を使用したり、不動産を処分することができるところです。

また、任意後見制度と比べて、負担と制約が少ないことがあげられます。

家族信託の手続きの流れと注意点

家族信託を行うには、以下の手順で手続きを行います。

委託者と受託者との信託契約の締結
信託財産管理用の信託口座の開設
信託財産が不動産の場合の名義人変更の登記
信託財産の管理、運用を開始

家族信託は認知症による口座凍結への対策としては有効ですが、以下のようないくつか注意すべき点があります。

委託者が認知症になった場合、受託者は財産の管理はできても代理人として入居契約はできないこと
家族信託の受託者にならない他の親族と不公平が発生することにより、トラブルになる恐れがあること

認知症による口座凍結への備え方③生前贈与の活用

認知症による口座凍結への備え方のひとつとして、生前贈与の活用があります。

生前贈与の仕組みとメリット

生前贈与とは、亡くなる前に財産を他者に無償で贈与することです。

認知症になる前に生前贈与をしておけば、財産の凍結を防ぐことができることがメリットです。

生前贈与の手続きの流れと注意点

生前贈与の手続きの流れは、以下になります。

誰に何を贈与するのかの決定
暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらの課税方法かの選択
受贈者の合意後に贈与契約書の作成
登記などによる贈与する財産の移転

認知症になる前に生前贈与をしておけば、資産の凍結を防ぐことができます。

しかし、生前贈与をすれば贈与税がかかりますので、注意が必要です。

口座が凍結されてしまったら?成年後見制度の活用

これまで事前にしておくべき対策をご紹介してきました。ですが、口座がすでに凍結されてしまった場合は、法定後見制度を利用することが唯一の対処法となります。

実際、最高裁判所の報告によると、成年後見制度の利用目的として最も多いのが「預貯金等の管理・解約」となっています。

法定後見の仕組みと申立ての流れ

成年後見制度のひとつである法定後見制度とは、判断能力が不十分になった後に成年後見人が家庭裁判所によって選ばれる制度です。

法定後見の申立ての流れは、以下になります。

家庭裁判所に後見開始申立ての手続きを行う
家庭裁判所に申立書や関係書類一式を提出
申立人と後見人候補者に対する面談調査
家庭裁判所による審査
家庭裁判所が申立てについて審判を行い、申立人と後見人に審判書を送付
後見人としての仕事を開始

法定後見のメリットとデメリット

法定後見のメリットは、選任後すぐに財産管理ができることや、介護サービスや施設の入居の契約ができることがあげられます。

一方、法定後見のデメリットは、家庭裁判所が後見人を選任するため自由に決められないことや、本人の死亡まで解任できないことなどがあげられます。

まとめ

このように、認知症になった場合は口座を凍結される可能性がありますので、早めに口座凍結のリスクに備えておくことが重要です。

また、どのような方法で備えておくのがよいかは状況などによって異なりますので、一度専門家に相談してみることが大切です。

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