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【静岡市立芹沢銈介美術館の「芹沢銈介の収集 日本篇」展】 民衆から湧いて出た「面」、展示室に点在する「箱」たち

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の静岡市立芹沢銈介美術館で1月4日に開幕した「芹沢銈介の収集 日本篇」展を題材に。

昨年同時期に開催された「海外篇」と対になる「日本篇」。同館が収蔵する戦後の収集品4500点から、約200点を出品した。

「海外篇」ではマリ、メキシコ、カナダ先住民など、各国の仮面の数々が印象に残った。人の顔や動物をかたどったマスク群は、人間の恐れや希求、死生観を雄弁に語っていた。今回は日本各地の「面」が見どころの一つである。

翁や猿、ひょっとこ、鬼。鼻を膨らませた獅子頭。作家性が伝わる端正なものばかりではない。作りが粗雑なものも混ざっている。だが、芹沢はむしろそこに魅力を感じたのだろう。同じスペースに展示された作者不詳の泥絵や、江戸時代の土産物だった大津絵、こまごまとした土人形からも、彼が民衆から「湧いてきた」ような絵画や造形に愛を注いでいた様子が分かる。

コレクションは多岐にわたる。鞍掛、馬飾り布、半纏(はんてん)、羽織、着物、絵馬、伊万里焼、張子…。中でも興味深いのは点在する「箱」たちだ。

企画展エリアの手前の芹沢コーナーに、「李朝の函文帯」(1965年)という紬がある。添えられたキャプションによると、1940年のインタビューで芹沢は「わたしは金があったら、箱をあつめてみたいとおもいますよ。」と答えているという。紬には箱が5個描かれており、表面の質感や留め金の風合いがリアルに感じられる。

これを踏まえて企画展を歩くと、あちこちに置かれた「箱」に目が行く。側面に朱書された「鳴門海」の明荷(19~20世紀)。明荷、というからには恐らく大相撲の力士の名前である。江戸時代の直径50センチほどの角樽は、いわゆる溜塗(ためぬり)だろう。使い込まれて表面が一部かすれ、漆の赤黒がいい具合に混在している。

螺鈿(らでん)を散らした江戸時代の菓子箱には、側面に「大垣本町 御菓子所 桔梗屋益伯」とある。岐阜県大垣市のお菓子屋さんは、この大きな直方体に何を詰めたのか。造作が凝った「箱」を見つめていると、中身についてあれこれ思いが巡る。芹沢もきっとそうだったに違いない。
(は)

<DATA>
■静岡市立芹沢銈介美術館「芹沢銈介の収集 日本篇」
住所:静岡市駿河区登呂5-10-5 
開館:午前9時~午後4時半
休館日: 毎週月曜(祝日を除く)、祝日の翌日(土日曜を除く)
観覧料(当日):一般420円 、高校生・大学生260円、小・中学生100円
会期:3月16日(日)まで

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