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KAAT神奈川芸術劇場 2024年度ラインアップ発表会レポート~メインシーズンのタイトルは「某(なにがし)」

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2024年度ラインアップ発表会 オフィシャル写真

KAAT神奈川芸術劇場(以下、KAAT)のラインアップ発表会が2024年2月14日(水)に開催され、長塚圭史芸術監督が登壇した。

ラインアップの発表に先立ち、KAAT館長の眞野純から「2020年からのコロナ禍を経て、私たちが取り戻した日常は以前とは全く違う日常だと考えており、それを踏まえて2024年のラインアップを組んだ。また、長塚芸術監督が5年の任期の中で折り返しの3年目というとても大事な時期。どういう方向にこの劇場が行こうとしているのかをお伝えして、皆様にご関心を持っていただき、劇場に足を運んでいただきたい。そしてご批評いただいたり、公共劇場の在り方についても様々なご意見をいただきたい」と挨拶があった。

次に長塚が登壇し、冒頭に「今年は元日からつらいニュースが飛び込んできた。自然災害が起きたとき、芸術文化に携わる者たちは無力感に襲われることもあるが、芸術は様々な形で日常生活を生きる私たちの心を癒すことができるし、新しい視界を与えることができるし、想像力や共感の力を育むことができると思っている。劇場は人々の心を癒したり動かしたりする場所として社会に必要だと思っているし、必要とされる活動を続けていかなければならないと思う。社会と共に歩んで思考を続けながら様々な作品を生み出し育んで発表していきたい」と挨拶をした。

KAAT神奈川芸術劇場 芸術監督 長塚圭史

続いて2024年度のラインアップが発表された。

プレシーズンの最初を飾るのは、沖縄本土復帰50年の節目の年であった2022年に上演され、第26回鶴屋南北戯曲賞ノミネート、第30回読売演劇大賞優秀作品賞受賞、第67回岸田國士戯曲賞最終候補作に選ばれるなど話題となった『ライカムで待っとく』の再演だ。本作はアメリカ占領下の沖縄で起こった1964年の米兵殺傷事件を基に書かれた伊佐千尋によるノンフィクション「逆転」に着想を得て、沖縄市出身で現在も沖縄を拠点に活動する劇作家の兼島拓也が作、田中麻衣子が演出を担当。今回はKAATで上演後、京都・久留米・沖縄でも上演される。

兼島は「再演ができることは非常に光栄。この脚本は演出の田中麻衣子さんと一緒に一年余りをかけてじっくり話し合いながら作った。その中で沖縄や日本が抱える問題について描きたいのはもちろんだが、劇として面白いものにしたい、ということを常々話していた。観客からの反響や各方面から評価をいただけて、少しはその思いが達成できたのかなと思う。初演から2年が経ち、沖縄の状況は変わらないままだと感じている。海外では目を背けてしまいたくなるような光景が日々送られてきて心が苦しくなってしまうが、そういった状況の中での再演ということで、新たな意味合いが生まれてくるのかなと思っている。今回沖縄でも沖縄慰霊の日に合わせて上演できることで、沖縄の人がこの作品を見たときにはまた違った見え方、とらえ方があると思うので、それも含めて楽しみにしている」、田中は「この作品の初演は、長塚さんから「逆転」の本を渡されたことから始まった。作家の兼島さんを先頭に総力戦で、全部署が力を振り絞って千穐楽までやり抜くことができた。思った以上に反響が大きく、それほど必要とされていた作品だったのかなと思った。再演できるということで、一人でも多くの方に見てもらいたい。2年経って沖縄に限らず、世界を巡る状況が刻々と変わってきていると思う。今一度それを稽古場含めてしっかりとみんなで向かい合って、初演以上に伝わるやり方を稽古の中で模索して、強度のある作品にしたい」とそれぞれビデオメッセージを寄せた。

7月上旬にはKAATキッズ・プログラム2024として『ペック』が上演される。本作は昨年に京都、北九州、那覇、山口で上演された言葉を使わないノンバーバルパフォーマンスで、作・出演のアンディ・マンリーは2019年上演の『スティック・バイ・ミー ~ぼくのたいせつでヘンテコなともだち~』以来5年ぶりのKAAT登場となる。アンディ・マンリーは「日本に行ってみなさんにお会いできることを楽しみにしている。『ペック』は想像力豊かな遊びや私たちが楽しんで作ったおもしろいオブジェクトがいっぱい登場するので、ぜひ楽しんでいただき、自分も遊んでみたいという気持ちになってほしい」と文章でコメントを寄せた。

同じくKAATキッズ・プログラム2024として7月下旬に上演される『らんぼうものめ』は、舞台のみならず映像でも近年目覚ましい活躍を見せる、劇団た組主宰で劇作家・演出家の加藤拓也による作品で、加藤は初めて子ども向けの作品を手掛ける。加藤は「主人公の乱暴者の男の子が、とあることから神様と偽物のお父さんと共に神様の世界を旅していくという、少し不思議でちょっと怖いお話をキッズの皆さんに向けて作っていく。まだどんな作品になるか僕自身わかっていないが、ちょっと怖かったり不思議だったりするような演劇を楽しく作れたらと思っている」とビデオメッセージを寄せた。

9月からのメインシーズンのタイトルは「某(なにがし)」。長塚芸術監督就任初年度の2021年は「冒(ぼう)」、2022年は「忘(ぼう)」、昨年は「貌(かたち)」と毎年タイトルを定めてきた。長塚は「私たち個人は大小さまざまな形で社会の一部を担っている。しかし社会の側から見たとき、個々の存在は軽んじられてしまったり、一括りにされたり、場合によっては抹消されてしまうことさえある。反対に個人自らが社会の中でその存在を晦ませてしまうこともある。誰でもない誰か、私でもあり、あなたでもあるかもしれない“某”のレンズを通すと何が見えてくるのか」とタイトルに込めた思いを語った。

シーズンの最初に上演されるのは、シェイクスピアの『リア王の悲劇』だ。『リア王』にはクォート版とフォーリオ版という異なる2つの版が存在し、両方の版を合成したものが一般的に知られている『リア王』だが、今回はフォーリオ版での上演となる。翻訳はシェイクスピア研究の第一人者でもある河合祥一郎、演出は先日発表された第31回読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞した藤田俊太郎が担う。藤田はこれが初のシェイクスピア作品の演出となる。長塚は本作の上演について「この作品は、リア王が権力を娘たちに渡してしまい実質的には王でなくなるし、コーデリアは父リア王から絶縁されてしまうし、エドマンドは兄エドガーを裏切りその地位を奪ってしまうし、と劇の冒頭で登場人物の役割が変わって行くところから始まる。役割が変わることでそれぞれの人物たちが本性と向き合うことになるところが面白い。シーズンタイトルに非常にふさわしい作品」と述べた。

藤田は「世界中で愛され、長い時間をかけてたくさんの方が演出してきた作品に挑戦できることを心から幸せに思う。多くのテーマを持っているこの作品の中に、2024年の今に響く真髄を見つけてお客様に手渡していきたい。フォーリオ版にした理由の一つは、女性の価値観や女性の解釈が豊かにできること。理性的に男性に「ノー」を突き付けた女性の姿を描くことで、現代に訴えかけるものがあるのではないかと考えている。演出するにあたり、時代設定を3~5世紀にしている。キリスト教の概念が入る前の男性も女性も様々な価値観を持って生きていた時代なので、現代の私たちに多くのものを与えてくれるのではないか。演劇の喜びにあふれるような作品を作りたい」とビデオメッセージを寄せた。

9月~10月にはKAAT EXHIBITION 2024として、南条嘉毅展『地中の渦』が開催される。KAAT EXHIBITIONはKAATの劇場空間と現代美術の融合による新しい表現を展開する企画で、本企画が第9回目となる。全国各地で風景とその場所性をテーマとしたインスタレーションや絵画作品を展開している美術家の南条嘉毅が、大都市横浜に積み重なった地層に注目し、そこに生きた「某(なにがし)」を感じるインスタレーション作品を展開する。

南条は「今回注目したのは横浜の積み重なった地層で、場所によって地層のできる速度は違うのだが、横浜は150年くらいで1mの地層ができる。ものすごいスピードだが、それだけ人がその場所に関わった濃度があるということなので、そこを読み解いていった。会場となるKAATのエリアを重点的に調査したが、古くは縄文・弥生時代の人々が住み、明治期には外国人居留地として多くの人が行き交う重要な場所だった。本展では横浜の地中に潜って、地層の中に埋もれた時間の蓄積と人々の痕跡をたどりながら、現在私たちが見ている景色や暮らしを再認識できるような作品を計画している」とビデオメッセージを寄せた。

10月中旬には、KAAT×山田うん×池上高志『まだここ通ってない』(仮)が上演される。振付家・ダンサーの山田うんと、人工生命研究者の池上高志による、コンテンポラリーダンスと先端科学のコラボレーションによるプロジェクトで、2022年から挑戦している人間とサイエンスの関係、アートとサイエンスの関係を探す取り組みの第二弾となる。長塚は「池上さんと話をする中で、どのような公演になるのかと尋ねたら、わからないと言われた。そのときになってみないと研究がどこまでたどり着いているかわからないので、本番直前のギリギリまでが実験であり対話で、本番にも実験と対話という要素が含まれてくるのでは」と語った。

山田は「池上さんとは2022年から作品をいくつか手掛けてきた。AIとかALifeといった人工知能・人工生命というものと、人間の中にどのような関係ができるか、相互作用によってお互いに新しい知性が生まれたり、何か別の糸口が生まれることで新しい時代の中に機能するようなことがないだろうか、と模索している。今回KAATで新たな場を展開して、また一歩先の面白いものを見せられると思う」、池上は「前回、山田うんさんと創作した作品がとても面白く、もっとAIやロボットの可能性を設計できると思い、今回もいろいろ計画している。今回は、日常生活においてAIを使うことで人間の知覚や認識が広がり今まで見えなかったものが見えてくる、ということをテーマにして、新しい表現が作れるのではないかと思っている」とビデオメッセージを寄せた。

11月29日(金)~12月8日(日)は、日英共同制作『品川猿の告白 Confessions of a Shinagawa Monkey ​』が上演される。イギリスの現代演劇を代表する劇団ヴァニシング・ポイントとの国際共同制作による、村上春樹の短編小説をもとにした新作だ。2022年から数回にわたり「カイハツ」プロジェクトの一環として、劇場内のみならずスコットランドでもワークショップやディスカッションを重ねての本公演となる。長塚は「コロナ以降、KAATで初の国際共同プロジェクト。カイハツで時間をかけた今作を楽しみにしてもらいたい」と語った。

本作の脚色・演出を手掛けるマシュー・レントンは「村上春樹の書いた、複雑な筋書きのあるミステリーで、アイデンティティの喪失、私たちが本当は何者であるかといったテーマが描かれている。スコットランドと日本の共同制作で、ユニークで美しく面白い作品を創作したい」とビデオメッセージを寄せた。

12月13日(金)~15日(日)は、KAAT×ケダゴロ×韓国国立現代舞踊団『黙れ、子宮』(仮)が上演される。ダンスカンパニー「ケタゴロ」を主催する下島礼紗が、韓国国立現代舞踊団(KNCDC)に委嘱を受けて2021年11月に発表した『黙れ、子宮』(英題:『Shut Up Womb』)をベースに、2024年度版としてさらに進化させながら再創作し、日韓のダンサーによる国際共同制作の新作として発表する。長塚は「3月に出演者オーディションを行う予定で、まもなく募集を開始する。下島さんの作品は徹底的な肉体の追い込みという特徴がある。使い果たされたボロボロの状態の肉体から生み出される輝きもあって、そこに強く魅かれた」と述べた。

下島は「私には生まれつき子宮がなくて、そのことをいつか作品にしたいと思っていたが、なかなか日本でやろうと思うきっかけがなく、韓国から新作の話をもらったときに「今だな」と思った。同じ文化背景を持っている人同士だとなかなか語れないことも、異文化同士だと赤裸々に話せることがある。韓国で数え年の文化に触れたとき、自分は母親の胎内にいたときに意志があって、子宮を持たずに生まれてくることを選んだ、という感覚に出会うことができた。今回の再創作にあたり、18歳のときに病院で「あなたには睾丸があるかもしれない」と言われたことも盛り込んでリメイクしたいと思っている。自分の身体を通して日本と韓国で感じた経験や感覚を存分に発表できたらと思っている」とビデオメッセージを寄せた。

2025年2月中旬~下旬には、新ロイヤル大衆舎とKAATが2021年の『王将』三部作以来となるタッグを組み『花と龍』を上演する。小説家・火野葦平の躍動感あふれる自伝的長編小説を原作に、齋藤雅文が脚本、長塚圭史が演出、山内圭哉が音楽をそれぞれ担う。明治35年、それぞれ故郷を追われて北九州の若松港に流れてきた男(玉井金五郎)と女(マン)が最下層の荷役労働者となり、度胸と義侠心で人々を束ねていくという、港湾労働の近代化を背景に展開する波乱万丈の物語となっている。長塚は「この小説がほぼ実話だったことに驚いた。火野葦平が金五郎とマンの長男で、アフガニスタンで人道支援を行っていた医師の中村哲さんは火野葦平のおいにあたる。『王将』上演時に、出店を出したり飲み食いしながら観劇するなど賑わいを作りたかったが、コロナ禍でかなわなかった。今回はホールでの上演だが、そういったかつての芝居小屋のような空間を作れないかと考えている」と語った。

メインシーズン最後は、2025年2月~3月に山本卓卓の新作書き下ろし演劇作品を上演する。演出は劇団子供鉅人(2022年解散)などで活躍してきた益山貴司が務める。長塚は「山本さんが2022年に岸田戯曲賞を受賞した『バナナの花は食べられる』から感じられる筆の執念深さには、僕の大好きな作家・三好十郎と通じるものがあると思った。この不穏な時代に主題は「愛と正義」と言い切った山本さんがどのような新作を生み出すのか楽しみ」と語った。
山本は「愛と正義をテーマに書こうと思っている。(自身が代表を務める)範宙遊泳で上演した『バナナの花は食べられる』まで描いてきた「人情」のフェーズが一通り自分の中で達成できたと思い、去年ぐらいから「愛と正義」というフェーズに入って、そのフィルターで世界を読み解いていこうと思っている。(このフェーズでの)愛と正義をテーマにした新作長編としては多分今作が初めてになる。2024年の最新の今というものを、セリフを通して、戯曲を通して、物語を通して、きっちり表現してみたいという欲望に駆られている。いい作品にします」とビデオメッセージを寄せた。

さらに長塚より、12月上旬に開催されるYPAM横浜国際舞台芸術ミーティング2024の公演プログラム主会場となること、公演事業以外の「カイハツ」プロジェクトおよび、街の一部である劇場、街に飛び出す劇場、またあらゆる人々に「ひらかれた」劇場を目指すKAATフレンドシッププログラムの継続、神奈川県に拠点を置く劇団四季のミュージカル『オペラ座の怪人』の上演が4月~8月にあることが紹介された。

質疑応答にて、メインシーズンのタイトル「某」には特にどのような思いがあるのか、と問われた長塚は「匿名性、何者の言葉を自分は語っているのか、ということが「某」という言葉を考え始める一つの焦点だった。目の前で語られているが、それがどの立場で言っている言葉なのかわからない、それは本当にあなたの言葉なのか、という体験があった。「某」という言葉を考えたときに、社会の中に溶け込んで自分の存在を薄めていくことによって何かを発信したり、何かから身を守ったりする人たちもあるという中で、それとは逆に一生懸命暮らしていても光を当てられずにいる人たちもいる、と視点が広がって行った」とタイトルの発想のスタートとなった自身の体験も交えながら語った。

芸術監督として3年目となる長塚圭史が、初年度からスタートした様々な試みを継続していく強い意志を示したことが印象的だった。特に「カイハツ」プロジェクトについては、2024年のプログラムの中では『ライカムで待っとく』と『品川猿の告白』がカイハツから生まれた作品で、その成果は確実に上がっていると言えるだろう。芸術活動は特に、短期間での成果が出にくいものだが、日本のクリエイションの現状としては、一つの作品にあまり時間を多くかけられず、いわゆるコストパフォーマンスが重視される現場がほとんどだ。時間をじっくりとかけてクリエイションの種を蒔き、育てていくという“贅沢”ができるのは公共劇場だからこそであり、時間をかけて熟成させるという意識を日本の舞台芸術界に植え付けていくこともKAATの使命の一つかもしれない。コロナ禍の就任で、1年目・2年目は思うようにいかなかったことも多かったかもしれないが、3年目となる2024年度はより一層、長塚芸術監督の試みの成果が見られる年となることを期待したい。

取材・文=久田絢子

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