「地球儀をキングスで埋めたい」イタリアの次は豪州へ…安永淳一GMが描く“沖縄らしい”クラブのあり方とは
プロバスケットボールBリーグの琉球ゴールデンキングスが、今季も海外遠征に挑む。 Bリーグ史上初の欧州遠征だった昨年のイタリアに続き、今年はオーストラリア(以下、豪州)。9月12〜14日、同国のプロリーグ「NBL」に所属し、豪州南西の都市パースに本拠地を置くパース・ワイルドキャッツが主催する「Perth Wildcats International Series」に参戦する。 NBLからは10回のリーグ制覇を誇る名門のワイルドキャッツと、各国代表クラスの選手も所属するサウスイースト・メルボルン・フェニックス、Bリーグからはキングスとサンロッカーズ渋谷の計4チームが参戦し、異なるリーグのチームと2試合ずつを行う。 豪州は世界トップクラスの国の一つ。キングスというクラブ、個々の選手にとって、今回の遠征でも貴重な経験が得られるはずだ。 昨年のイタリア遠征の際と同様に、今回も豪州遠征が持つ意義を安永淳一GMに聞いた。
「NBAと欧州の中間」世界トップ級の豪州バスケ
豪州の代表チームは昨年のパリ五輪は6位、2021年の東京五輪は3位、2016年のリオデジャネイロ五輪は4位。FIBA(世界バスケットボール連盟)の最新ランキングは7位につけ、世界トップクラスに挙げられる国の一つだ。オセアニア地域は「FIBAアジア」の管轄に入っており、このランキングはアジアでトップ。日本は全体で21位となっている。 パリ五輪はメンバー12人のうち、実に8人が世界最高峰リーグNBAの選手だった。NBLで新人王を獲得し、NBAドラフトにおいて1巡目全体6位で指名されたジョシュ・ギディー(シカゴ・ブルズ)、サンアントニオ・スパーズでNBA優勝経験のあるパティ・ミルズ(ロサンゼルス・クリッパーズ)など著名な選手が多い。 豪州が3連覇を果たした今年8月の「FIBAアジアカップ2025」はNBL所属選手や学生らが中心で、言わば“Bチーム”だった。中国と対戦した決勝は90-89という薄氷の勝利だったが、NBLのレベルの高さや、国としての選手層の厚さが改めて垣間見える大会だった。 豪州のプレーヤーは、他の強豪国と同様に高さやフィジカルの強さ、スピードを備えた選手が多い。プレースタイルについては、安永GMは「ヨーロッパとアメリカの間のような印象です。ヨーロッパはきれいなパス回しで外から3ポイントシュートを決めるけど、オーストラリアは強いドライブでフィジカルにプレーする選手も多いです」と見る。
GM同士の繋がりで実現…EASLカンファレンスで動き出す
今回の国際大会への参加は、安永GMとワルイドキャッツのダニー・ミルズGMによる、以前からの友人関係が起因している。具体的に動き出したのは、今年3月の東アジアスーパーリーグ(EASL)ファイナル4の際に開かれた、各国のバスケ関係者が集ったカンファレンスの場だ。 「ダニーとテーブルが同じで、ずっと話をしていました。以前から国際大会について話が出ていたのですが、改めて『是非やりたい』ということを伝えられ、一気に実現に向けてスピードが上がりました」 ワイルドキャッツは、キングスでエースを張る#4ヴィック・ローが2021-22シーズンに所属していたチームでもある。安永GMは当時からローに注目していたと言い、それを念頭に「(ミルズGMとは)同じようなレベルの選手を見ている感覚があります。お互いに違うリーグではあるので、『切磋琢磨したいね』という関係性です」と続ける。 今年5〜8月には、BリーグとNBLのパートナーシップの一環として、U22枠の#77佐取龍之介がNBLトップリーグの下部組織に当たるチームで活動をしながら、ワイルドキャッツのアカデミーで個別ワークアウトを受けた。 安永GMは「ワイルドキャッツは練習環境が優れているし、ダニーであれば安心して選手を預けられるという思いがありました」と語り、深い信頼関係をのぞかせる。
「ふーん」→「知ってる知ってる!」に変わったクラブの知名度
日本と豪州では、代表チームや国内リーグの競技レベルにまだまだ大きな差があるのが現実だ。ただ、ビジネス的な側面も含めた成長度合いの観点から、日本プロバスケの存在感が世界で高まっていることは間違いない。豪州のような強豪国のチームから誘いを受けることは、その証左の一つだろう。 安永GMは「ダニーとアジアのバスケットボールの話をしている時も、『オーストラリアから見ても、アジアの中で日本が桁違いに頭角を現してきている』ということを言っていました」と明かす。 その中で、「琉球ゴールデンキングス」というクラブ自体の存在感が高まってきている感触も強いという。 「以前はNBAをはじめとする世界のGMやスカウトに『日本で琉球ゴールデンキングスというチームを運営してるんだ』と言ったら、『ふーん』くらいの感じでしたが、ここ1、2年くらいで『キングス、知ってる知ってる!』という反応がとても増えました」 注目度が増すBリーグで4シーズン連続のファイナル進出を果たし、国際大会のEASLにも3シーズン連続で出場しているキングス。昨年はイタリア遠征を実施した。2023年のFIBAワールドカップでは、ホームコートの沖縄サントリーアリーナが戦いの舞台にもなった。クラブと沖縄の知名度が上がる要素は多いだろう。
高いレベルを求める理由…安永GMや#14岸本隆一が「涙した」原体験とは
キングスは「沖縄をもっと元気に!」という活動理念に加え、「沖縄を世界へ」というビジョンも掲げる。その実現に向け、アジアNo.1のクラブになることや、沖縄でNBAチームと対戦することなどを目標に置く。 その背景には何があるのか。 「Bリーグは『NBAに次ぐ世界2位のリーグ』を目指しています。そのためにはクラブも頑張らないといけない。野球で言えば、野茂英雄選手が1990年代に大リーグで活躍し、そこから日本野球の世界における地位が上がっていきました。バスケでも八村塁選手のようにNBAで活躍する選手が出てくる中、僕たちも井の中の蛙にならず、世界の人から『アジアと言えば琉球ゴールデンキングスだよね』と言われるようになりたいです」 大都市圏に比べて経済規模が小さく、移動などの不利性も抱える離島県に本拠地を置くクラブとして、常に「強い相手と戦いたい」「ジャイアントキリングをしたい」という挑戦心が根付いていることも海外遠征の理由に挙げる。 その原体験の一つが、Bリーグ開幕3シーズン目の2018-19シーズンの11月にあったアルバルク東京(A東京)とのアウェー戦だ。実業団時代から強豪だったA東京は、このシーズンにBリーグ2連覇を達成。キングスは2016年9月のBリーグ初年度の開幕戦という注目の大舞台でA東京に2連敗を喫していた。 それを念頭に、安永氏が振り返る。 「2016年のBリーグ開幕戦では本当に力の差を感じて、ずっと負い目があったんです。でも、3シーズン目の敵地での連戦で1試合目に勝って、涙が出てきたんですよね。岸本選手を見たら、彼も泣いていました。2試合目も勝利して、フロック(まぐれ)ではないことを証明しました。沖縄県民の僕からしたら、小さな島しょ県のチームが大都市のチームを倒すというのは、本当に達成感がありました」 こういった経験の積み重ねが、海外挑戦への意欲にもつながっているのだという。
アジアカップ3連覇のメンバーなど代表級も
「Perth Wildcats International Series」では、キングスは9月12日の午後5時(現地時間)からサウスイースト・メルボルン・フェニックス、9月14日の午後4時半(同)からパース・ワイルドキャッツと対戦する。 8月のアジアカップに出場したフェニックスのオーウェン・フォックスウェルやワイルドキャッツのベン・ヘンシャルなど、代表級の選手は多い。いずれのチームも身長190〜200cm台の選手ばかり。世界基準のサイズ感は、日本代表入りへの意欲を口にする#8佐土原遼や#18脇真大らにとっては、特に得難い経験になるだろう。 安永GMも「選手単独での海外挑戦はかなりハードルが高いので、チームとして行くことはとても意義があることだと思っています。それが、自分たちより強い国、強いチームであればなおさらです。選手たちには、世界のレベルを肌で感じてほしいです」と言い、レベル向上の糧になることを願う。 今回の大会は観客を入れての有料開催となる。「いくらプレシーズンゲームとはいえ、チームのユニフォームを着て、地元のファンの前でプレーするので、相手もプライドをかけて対戦してくれるはずです。そういう経験を通して、クラブとしても、個々の選手としても成長していきたいと思っています」と続けた。
「大交易時代」をキングスで表現
「バスケは世界で親しまれているスポーツなので、国境や垣根は全く気にしていません。キングスは世界を見ながら活動をしていきます」と力を込める安永GM。そういったクラブのあり方こそが、“沖縄らしさ”にもつながると考えている。 「琉球王国の時代に遡ると、沖縄の人たちはアジアなどいろいろな国と盛んに交易をしていました。僕たちはそれをバスケットボールで表現し、沖縄から波を起こして世界の人たちに『沖縄』『琉球』を知ってもらいたいと思っています。『キングスらしさ』が何かと言われたら、そういった『沖縄らしさ』を持ったチームになることだと考えています」 琉球王国がアジアの貿易拠点として栄えた時期は「大交易時代」と称され、沖縄は当時から海外に視野を広げていた。戦前、戦後を通して海外移民が多く、各国に県系人のネットワークがあり、今も世界との繋がりが深い地域性がある。 今後に向け、安永GMは「強い相手を求めて、いろいろな国に行きたいです。琉球ゴールデンキングスで地球儀を埋めていきたい。それが、沖縄に対する貢献にもつながると思っています」と熱を込める。 キングスが描く挑戦のスケールは、まだまだ広がっていきそうだ。