「崩れた先が気になってしかたない」いつかは消える美しさが人生を変えた 幻の橋・タウシュベツ川橋梁【北海道の絶景】
数多くの「絶景」を持つ北海道。
観光情報にはなかなか載っていない、「日常の絶景」も多くあります。
今回は、HBC帯広放送局のカメラマン・大内孝哉さんが撮影した「幻の橋」・タウシュベツ川橋梁の風景をお届けします。
連載「テレビカメラマンがとらえた“一瞬”の北海道」
「幻の橋」が人生を変えた
いつかは消える儚い美しさが、人々を惹きつけるのかもしれません。
北海道・十勝の上士幌町。糠平湖に浮かぶようにたたずむ「タウシュベツ川橋梁」は、水位の変化で見え隠れすることから「幻の橋」とも呼ばれています。
全長130メートル、11連のアーチが連なります。
1938年から1955年まで旧国鉄士幌線として活躍し、戦時中には軍需用の木材輸送としても使われました。
「高い位置でぐるっと回ると、山がきれいです。山と一緒に写真が撮れます」と案内していたのは、アウトドアガイドの上村潤也さん。
1日2回のツアーを行い、橋には毎日のように足を運ぶといいます。
「12年間、タウシュベツをガイドするようになって、間違いなく誰よりも私が来ている」
大阪出身の上村さんは、東京の大学を卒業後にIT商社へ就職。
今の生活とは対照的に、かつては都会で数字に追われる日々を送っていました。
「日付が変わるのは当たり前。毎日家に帰ってくるのは午前0時すぎ。日々数字に追われながら、1円でも上げる。そのためにどうするかという日々が続いた」
転勤で札幌や帯広で過ごす中、北海道の雄大な自然に魅せられます。
「北海道に残りたい。どんどんそんな思いが強くなって、東京に異動と言われたとき『北海道に残ろう』と決心がついて、会社を辞めた」
上村さんの心を強く惹きとめたのは、この橋でした。
「日常ではあるけども、毎日見ていても新鮮で飽きない」
橋はもう一つの大切な縁を繋げました。## 橋がつないだ縁
妻の聡子さんです。
出会いは9年前、神奈川県から初めて糠平湖を訪れ、上村さんのガイドツアーに参加したのがきっかけでした。
湖面に橋が映り込む現象、通称「メガネ橋」を見るためです。
聡子さんは、「最初にタウシュベツを見たとき、雨が降っていた。カメラを構えて助手席に座っていたが、ワイパーで水滴を取ってくれて、なんて気が利くガイドなのだろう!と思った」と振り返ります。
4度にわたってツアーに参加するなかで、二人の距離も少しずつ縮まっていきました。
念願の「メガネ橋」を見ることができたのは、最初の訪問から3年後のことでした。
聡子さんは、「4回目だったのですごく感動し“やっと撮れた!”と思った。タウシュベツがなければ夫にも出会っていない。子どもも生まれていない。不思議な縁をタウシュベツにいただいた」と話します。
上村さんは、「この景色を見て、感動している人を見ると本当にやりがいを感じる。こういう瞬間に立ち会えるのが、すごく幸せ」だといいます。
いつかは消える、その先も
「真ん中は手前側も反対側も壁が剥がれている。薄いコンクリートの部分が首の皮一枚なんとかつながっている。いよいよ、いつ崩れてもおかしくない」
コンクリートで造られ、毎年小規模な自然崩落が起こるといいます。
ツアー参加者にも想いを聞きました。
「このまま朽ちていくほうが美しい気もする。ずっと残してほしい気もするが、皆さんどうですか」
いつかは消える美しさ。上村さんはどう思っているのでしょうか。
「本音を言うと、早く次のステージを見てみたい。崩れた先が気になってしかたない。いろんな人を引き付ける場所ではあるが、一番に私を引き寄せてくれた存在かなと思う。本当に来てよかったと思う」
訪れる人々を魅了し続ける「幻の橋」タウシュベツ川橋梁。
その儚く美しい姿を、上村さんはこれからも「糠平でガイドとして地域の魅力を伝えていけたら」と話します。
絶景の数々
連載「テレビカメラマンがとらえた“一瞬”の北海道」
撮影・文:HBC帯広放送局 大内孝哉
2015年からテレビカメラマンとして、主にニュースやドキュメンタリーを撮影。担当作品に映画/ドキュメンタリー「ヤジと民主主義」「クマと民主主義」や、ドキュメンタリー「核と民主主義」「ベトナムのカミさん〜共生社会の行方〜」「101歳のことば ~生活図画事件 最後の生き証人~」など。
2023年10月から帯広支局に異動。インスタグラム@takayasunset0921では、プライベートで撮影した北海道の写真を公開中。
編集:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容はHBC「今日ドキッ!」放送時(2025年7月)の情報に基づきます