ピッツァファンの聖地と呼ばれる「聖林館」の系譜であるピッツェリアが福岡に!
中目黒にある「聖林館」は東京のピッツァ界では誰もが知る名店であり、店主・柿沼さんは本場イタリアにまでその名が届くほどの名職人です。その柿沼さんの元でピッツァ職人になるべく経験を積んだ店主が営むピッツェリアが福岡に誕生しました。
すでにご存知の方も多いかもしれませんが、でも知らない方も少なくないはず。なにせオープンは今年の5月、しかもお店は人通りがさほどない裏路地にあるのですから。
もともとは「タワーレコード」や「HMV」といった音楽業界で働いていたという店主の下鶴大輔さん。「ある時期から職人に憧れ、自分も何かの職人になりたいと考えました。その頃、ある音楽イベントでピッツァのお店が出ていたのを見て『このスタイルがいいかも』と思ったのがきっかけで、ピッツァ職人を目指すようになりました」と話します。
東京でピッツェリア巡りをしていく中で「聖林館」に出合った下鶴さん。「ピッツァはもちろんのこと、何より柿沼さんの人となりに惚れ込みました。音楽にも造詣が深くてお店にドラムセットが置いてあるんですよ。一も二もなく『この人の元で修行したい!』という思いでした」。
「聖林館」で7年間経験を積み、2016年に独立を目指しご両親の故郷・福岡へ。「最初の3年間で資金を貯め、いざお店を始めようとしたタイミングで交通事故に遭ったんです。ようやく怪我が治ったと思いきや今度はコロナ禍に突入、また続いて大病も患いました」。独立を目指してから病気が回復するまで、すでに8年の歳月が経っていました。「それでもピッツァ屋を出したいという思いは消えませんでした」。ゆるぎない気持ちによって開業が果たされました。
窯と煙突が設置できる物件はあまりなく、見つけたのは別府5丁目にあった元ヘアサロンの空き店舗でした。そこをシンプルで、広々とした空間へと改装。「音楽もやっぱり自分の人生の一部なんです」と、中古レコードの販売も行っています。
ピッツァは柿沼さんのレシピをベースに、「東京と福岡では気候も水質も違うので」と粉の種類や水との配分など福岡の地でベストと思えるかたちにアレンジ。「生地はとてもデリケート。たとえば湿度が1%、あるいはイーストが1g違うだけでも発酵具合が変わるので、毎日それをアジャストしていくことが特に重要だと感じています」。
ピッツァは注文が入ってから生地を伸ばし、ソースと具材をトッピングしていきます。カウンター席からその様子が見られるのですが、速い、速い。そして400〜450度になる高温の薪窯に入れ約1分半でスピーディーに焼き上げます。
まずはピッツァといえばこれ、「マルゲリータ」(1,500円)を頼みました。「チーズとオリーブオイルが混ざり合いバターのような味になるのが好きなんです」と下鶴さん。それがよく感じられるようトマトソースは控えめに、オリーブオイルを多めに使うのが「サイドパイプ」流のマルゲリータです。
見てください。ふっくら生地の中にイタリアンカラーの湖が生まれています。これをこぼしてなるものかと用心深く口に運び入れると……期待以上のジューシーさと芳醇な味わい。「これはとんでもない!」と思わず言葉に出てしまいました。
そしてこちらは、下鶴さんが個人的に一番気に入っているという「マリナーラ」(1,500円)です。トマトソース、バジル、ニンニク、オレガノとシンプルゆえ、48時間熟成、焼く直前に塩をひと振り、山鹿市で採れるクヌギの薪で焼くという下鶴さんの生地へのこだわりが一層際立つピッツァといえます。もっちりした食感、噛むほどに深まる風味の生地は、ピッツァというよりパンの味わいに近いかも。
ピッツァはほかにトマトベース、モッツァレラベースでいろいろ味わうことができます。
ピッツァ以外にも前菜やパスタ、ドルチェも楽しめます。写真は前菜の「ブロッコリー」(1,400円)で、オリーブオイル、ニンニク、トウガラシで炒めたいわばブロッコリーのペペロンチーノ。スパークリングワインや白ワインのお供にしたい一品です。ハーフサイズ(700円)もあります。
パスタは「ポモドーロ」(1,200円)と「プッタネスカ」(1,500円)の2種類があり、こちらは「プッタネスカ」です。トマトの酸味にアンチョビのコクが混じり合い、さらにブラックオリーブとケッパーのアクセントが加わり、絶妙なおいしさでした。
音楽業界での経験、柿沼さんという人生の師匠の元での修行、そして8年もの我慢の時間……長く熟成するほど奥深さが増すピッツァ生地のように、長い年月をかけて熟成していった下鶴さんの経験値や思いがお店の随所に現れていました。産声をあげてからまだわずか数カ月ですが、福岡のピッツァの名店の一つとして認知される日はきっとすぐそこです。
入り口に飾られているスヌーピーの置物と、スヌーピー用のミニミニピッツァ。これも柿沼さんのスタイルを受け継いだものです。
PIZZERIA SIDEPIPE(ピッツェリア・サイドパイプ)
福岡市城南区別府5-24-6
092-845-1331