特発性正常圧水頭症とは?特徴的な症状・診断方法・治療法について医師が解説
特発性正常圧水頭症(とくはつせい せいじょうあつ すいとうしょう)は、65歳以上の2%以上が気付かないうちに罹患(りかん)しているといわれ、放っておくと寝たきりの原因にも…。
特徴的な症状から診断方法、治療法について、医師に話を聞きました。
お話を聞いたのは…
名戸ヶ谷病院脳神経外科 部長 脳卒中センター センター長 井上 靖章 医師 2013年京都大学医学部卒業。上山博康脳神経外科塾にて手術トレーニングを行う。2020~21年ハーバード大学 Brigham and Woman’s Hospitalフェローとして数多くの開頭・カテーテルの手術を経験し、2021年8月に現職就任。気軽に相談できる環境作りと高水準の医療提供を目指す。https://www.nadogaya.com/
歩行障害、認知機能低下と尿失禁に注目
まず、頭の中には、脳と脊髄を保護する「脳脊髄液」という液体があります。
特発性正常圧水頭症とは、その液体(脳脊髄液)が正常に循環せず、頭(脳室)にたまることで脳を圧迫し、下の3つの特徴的な症状を引き起こす病気です。
これらの症状が徐々に悪化すると、時には歩けなくなったり、さらに進行すると要介護状態になって家族に負担がかかることも。
原因は分かっておらず、予防法もはっきりとはしていませんが、治療法は確立されています。
特発性正常圧水頭症の特徴的な症状
1.歩行障害
小刻み歩行、すり足、転倒しやすい
2.認知機能低下
もの忘れ、ボーッとしている、反応が遅くなった
3.尿失禁
おしっこの回数が増えた、トイレに間に合わない、尿漏れ
画像検査からタップテストで診断
水頭症の診断には、MRIやCTで頭の画像検査を行います。
脳室が大きければ脳脊髄液がたまり過ぎていることが分かります。
脳室が大きくなっていることに加え、先述の3症状のいずれかがあることによって、特発性正常圧水頭症の疑いとなります。
水頭症の疑いがある場合、タップテストという検査を行います。
腰(脊髄の中のくも膜下腔)に針を刺して、たまった脳脊髄液を少し抜き(腰椎穿刺・ようついせんし)、症状の改善が見られるかを確かめます。
タップテスト後7日間の歩行・認知機能を客観的に評価し、改善が見られるか、また患者や家族に改善の自覚があるかを総合的に見て、手術をするかどうかの最終判断を行います。
腰椎穿刺は局所麻酔を使用するので痛みはなく、所要時間も10分で終わる安全なものです。
3つの「髄液シャント術」とは
水頭症の治療は、過剰にたまってしまった脳脊髄液をチューブで体内の別の場所に逃がす「髄液シャント術」という方法で行います。
シャントバルブという機械を留置し、体の外側から磁石で脳脊髄液の排出量を調節します。
髄液シャント術には3種類ありますが、その1つ、腰椎にチューブを入れて脳脊髄液をおなかに排出させる「L-P(腰椎-腹腔)シャント術」は、局所麻酔で30分前後で行うことができます。
症状が軽いうちに手術をすることで、半永久的に症状の改善を見込むことができます。
手術から退院までと合併症について
初診から手術を受けるまでの期間は、最短10日程度です。
入院期間は、ある程度歩行が自立している人なら2泊3日程度が基本ですが、リハビリが必要な場合は1週間ほど入院することもあり、逆に当日帰宅する人もいます。
また、手術の合併症の可能性もあります。
脳脊髄液を引きすぎる(低髄液圧症)と、頭痛や慢性硬膜下血腫・水腫を引き起こしますが、頭痛が消えるまで安静に横になると改善することがほとんどです。
チューブやデバイスのトラブルで、水頭症の3つの症状が再び悪くなる場合は、それらの交換が必要です。
またV-P(脳室-腹腔)シャント術特有の合併症として、ごくまれに、症状にならない程度の脳出血もあります。
適度な運動習慣とバランスの良い食事
術後の効果としては、歩行障害は手術翌日から「足が軽くなった」などと感じる人も。
排尿障害は3カ月程度、認知機能障害は1年かかることもあります。
大切なのは「転ばない、痩せすぎない、太らない、リハビリをする、困ったら必ず相談する」を心がけること。
特発性正常圧水頭症は元々転びやすくなる病気ですが、歩きやすくなったからこそ転びやすく、痩せてしまうと歩くための体力が失われてしまいます。
シャントバルブの故障を気にして慎重に生活をする人がいますが、日常生活でシャントバルブが故障することはほとんどないので安心を。
自分の足で「長く歩き続ける」ために、適度な運動習慣やバランスの良い食生活を心がけましょう。
最後にあらためて伝えたいことは、「歩くのが遅い」「物覚えが悪い」「トイレが近い」という3症状は、どれも年齢を重ねると誰にでも起こり得る不調です。
そのため、病気だと思わずに我慢して症状を進行させてしまう人も少なくありません。
「年のせい」と思っていた変化に疑問を持ち、ささいなことでもかかりつけ医に相談してください。