Yahoo! JAPAN

震災復興の舞台裏…「釜石のいちばん長い日」 前市長の野田武則さん、本出版「今だから」

かまいし情報ポータルサイト〜縁とらんす


 2007年から釜石市長を4期16年務めた野田武則さん(71)=釜石市野田町、現・社会福祉法人理事長=が、市長時代の仕事や思いを振り返る著書を出版した。タイトルは「釜石のいちばん長い日 元市長の震災記」。23年11月に任期満了で退任するまで、多くの時間と労力を注いだ東日本大震災の復興の舞台裏を記す。刊行を記念したトークイベントが8月3日にあり、“こぼれ話”をポロリ。一市民としてまちを見つめ、未来への願いも加えた。

 イベントは桑畑書店(同市大町)が主催。会場の市民ホールTETTO(同)には市民ら約50人が集まった。震災後に同市の副市長を務めた嶋田賢和さん(41)=東京在住、現・ぴあ執行役員=との対談形式で行い、研修ツーリズムを通した人材育成事業などに取り組む戸塚絵梨子さん(37)=釜石市内、パソナ東北創生代表取締役=が進行。震災の教訓、復興応援への感謝、未来に向けての思いを話題にした。

本「釜石のいちばん長い日―」(写真右上)を出版した野田さん(同左)と耳を傾ける市民ら


トークイベントに加わった嶋田賢和さん(右)、戸塚絵梨子さん(左)


 野田さんは県議を経て、07年に市長選に立候補して無投票で初当選した。1期目の11年、震災が発生。市街地に押し寄せる津波を市役所の屋上から見て、「これが現実なのだろうか。目には見えているのですが、気持ちが追いついていきません。ぼうぜん自失、まったくそういう状態でした」とつづる。

 心が折れそうになった瞬間も…とする中、1カ月後に同市を訪れた新日鉄(当時)の社長からもらった励ましの言葉「新日鉄がある限り、釜石とともに歩む」を力に復興を目指し、まい進。大型商業施設の誘致、三陸沿岸道路の整備など再建に力を注ぎながら、15年には橋野鉄鉱山の世界遺産登録決定、19年には新設した釜石鵜住居復興スタジアムでのラグビーワールドカップ(W杯)開催も実現させた。

 こうした復旧・復興の進展には地域内外から多くの応援や協力があり、本の中には感謝の言葉が連続。トークでも「釜石の復興は奇跡。起こしたのは人の力。それぞれの立場で頑張ってくれる人がいるのが成果だ」と強調した。

「今だから」。震災の教訓や未来への思いを語る野田さん


 忘れられない言葉は他にもある。「釜石の復興は終わったかもしれないが、私の復興はまだ終わらない。きっと、私が死ぬ時まで復興は終わらないだろう」という遺族の言葉。これは著書のタイトルにもつながる。野田さんにとっての復興は―。「私の3月11日は、その日から市長退任の日まで続いた、長い長い一日だった。終わることができた、やっと…その思いを込めた」とうなずいた。

 震災の教訓として挙げたのは、市長時代にまちづくりの合言葉として掲げてきた「撓(たわ)まず屈せずー不撓(ふとう)不屈」の精神と、逆境から粘り強く立ち直る力を意味する「レジリエンス」という言葉。予測不能な事態になった時に「立ち上がれる市民、対応する人間の力が大事になる。震災の経験を伝え、パワーを養い、生かすことが新しいまちづくりの方向性となる」と考えを示した。

「よそ者」の中でも特に印象深かった嶋田さんとのトークに笑顔を見せる野田さん(左)


 復興の歩みを通じ、「命の大切さ、よそ者の活動から人生に対する考え方を学んだ。こうした深い学びがあるのが釜石の宝。まちづくりにどう生かすか、掘り下げ市政運営にあたってほしい」と希望。市政のかじ取り役から離れても故郷への思いは変わらないが、「これからの発展は、震災の経験を持つ皆さんの方にかかっている」と若手に未来を託した。

 震災から13年たち、感じるのは記憶の風化。退任直前に行政側の視点で事実をまとめた震災誌を発刊できたが、野田さんは「書き残したことがある」と出版を思い立ったという。「復興は特別な期間だったが、日々の生活で私自身も忘れそうになる。事実の裏には市民や支援者、関わった人たち、それぞれの思いがあった。それが釜石の復興という歯車を動かした」。被災前から復興まで、首長という立場で見つめた人々の思いを残すことで、災禍に見舞われた地域や次なる災害への備え、「参考になれば」と願う。

震災復興を振り返る著書を手にする野田さん


 著書は、▽政治の世界へ▽釜石のいちばん長い日 三・一一ドキュメント▽震災後、撓まず屈せず▽復興への道をひらく▽復興はまだ終わっていない▽復興その先、新しい釜石へ-の6章構成。被災者の捜索、避難所の運営、ラグビーW杯誘致活動の経緯、世界遺産登録など、退任後の今だからこそ語ることができる復興の舞台裏を明かす。

 PHP研究所刊、四六判320ページ、税抜き2200円。3500部発行し、県内外の書店のほか、通販サイトでも購入できる。

イベント後にはサイン会も。顔なじみも多く会話が弾んだ


 嶋田さんは「すごく正直で、ヤバイ本。当時の迷い、後悔も書いてあってドキドキしながら読んだ。気持ちがストレートに伝わってくる」と紹介した。イベントには、PHP研究所編集長の佐藤義行さん(55)=釜石・大只越町出身=も参加。「釜石の復興はあり得ない連続だった。これは夢を追ったリーダーの本で、あり得ないことを仲間、周りを巻き込んで実現した物語。まちづくりに関わる方、組織のリーダーに手に取ってほしい」とアピールした。

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. [○×クイズ]制動距離は、雨に濡れた路面では長くなるが、積んだ荷物の重さによって長くなることはない?【1回で受かる! 普通免許 ルール総まとめ&問題集 「ポイント学習+実戦テスト」で実力が身に付く!】

    ラブすぽ
  2. 【フォト】終了間際、耐えきれず…藤枝MYFC、プレーオフ遠のく痛恨の失点。いわきと1−1ドロー<J2第34節>

    アットエス
  3. 可愛いだけじゃない!キングジムの「進化系ぬいぐるみ」が有能すぎ♪

    ウレぴあ総研
  4. リーグ屈指のオールラウンダー! 2年連続得点王ペリン・ビュフォードのオフェンス力に注目!〈Bリーグスター選手ガイド②〉【バスケ】

    ラブすぽ
  5. アメリカの象徴、“あのスタッズベルト”を身につける満足感。

    Dig-it[ディグ・イット]
  6. 阪神/広島など複数球団が注目の関西を代表する左の広角強打が魅力の立命館大が誇る外野手とは!?【ドラフト候補2024】

    ラブすぽ
  7. パークプレイス大分にハンドメイド作品のセレクトショップ『cherish market』が2ヶ月限定オープン!

    LOG OITA
  8. 入園料が半額になる催しも!別府ケーブルラクテンチにてハロウィンイベント開催

    LOG OITA
  9. 経堂・千歳船橋・祖師ヶ谷大蔵・成城学園前のスイーツ自慢のカフェ6選。とっておきの甘〜い時間で身も心も癒やされる

    さんたつ by 散歩の達人
  10. ハーバーランドで『ジャズイベント』が開催されるみたい。キッチンカーグルメやスイーツも。観覧無料

    神戸ジャーナル