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黒い翼が運ぶのは「人の心」。その信念が、新しい航空のあたりまえをつくる【福岡県北九州市】

ローカリティ!

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株式会社スターフライヤー(以下、スターフライヤー)は、航空自由化を背景に2006年に運航を開始した北九州発の航空会社です。安全運航を事業基盤にとらえながら、「人」と「心」を大切にする独自の輸送価値を磨いてきました。創業から今日までの挑戦、ホスピタリティの現場、そしてこれからの航路について、取締役執行役員 南聡子(みなみ・さとこ)さんにお話をうかがいました。

▲取締役執行役員の南聡子さん

自由化の波に立つ「黒い翼」は宣言だった


「JAL、ANA、JASの時代から、参入が難しかった航空業界に自由化の波が来ました。『自分たちの手で新しい会社をつくる』。その思いが出発点でした」と、南さん。

1990年代以降に行われた運賃の自由化、航空運送事業の規制緩和などで、地方の民間企業でも航空会社を作りやすくなりました。そうした背景の中で大手航空会社の出身者が集まり、既存の延長ではない企業像を求め、スターフライヤーは創業しました。

象徴は、白と黒を基調にしたブランドカラーと「黒い機体」。導入検討時はメーカーから「熱を吸収するため難しい」と反対も受け、世の反応も賛否両論でした。「年配の方からは『暗いイメージ』と言われた時期もありました」と、南さんは語ります。

それでも検証を重ねて運航を実現。内装は本革シート、シートピッチも広げ、国内線では当時珍しかった機内モニターも導入。「豪華すぎる」と指摘されるほどコストをかけた装備で快適性を追求しました。

創業から機材受領、路線就航までのスピードは、他社と比較しても異例の早さでした。資金調達も含め苦しい立ち上げ期を乗り切った先に、黒い翼は“おしゃれ”の記号として徐々に若い世代に受け止められるようになりました。デザインは単なる意匠にとどまらず、「新しい航空会社の宣言」だったのです。

「人と心」を運ぶ。マニュアルではなく「10のBASIC」


スターフライヤーの接客に、詳細なマニュアルはありません。あるのは、「10のBASIC」と呼ぶ10の基本的な心構えだけ。「お客さまの状態を見て声のかけ方を変え、返ってきた声のトーンや表情で次の一手を決めます」。南さんは、現場の判断に委ねる接客の本質をこう説明します。

客室乗務員が泣き止まない子を抱っこしてあやすという、保護者の“心”にこたえたエピソードなど「言われる前に察して動く」。その積み重ねが、月々のCS(顧客満足)レポートとして全社員に共有されます。お客さまからお褒めの言葉をいただいたときには、社長から担当した社員へ直筆サイン入りの感謝状が渡されます。2024年にはお褒めの言葉は204件にものぼり、チームで連携して動くことも多いため、社長からの感謝状は282枚に達しました。

「私たちは単に移動をお手伝いするだけでなく、お客さまのお気持ちまで大切にお運びしたい」。その言葉どおり、接客に限らず、社内の年度目標や評価にも“相手の立場に立つ”が刻まれています。

風通しの良さが挑戦を生む。肩書禁止、失敗は学びに


「創業時から肩書呼称は禁止。社長室もありません」。南さんは笑って教えてくれました。安全最優先の業界文化と相まって、報告・相談は早く、「失敗の責め立て」より「再発防止」の対話が徹底されます。

挑戦がもっとも問われたのはコロナ禍でした。収入が激減する中、全社からアイデアを募集。新入社員の発案で、機内に高性能プラネタリウム機器を持ち込み、星空を楽しむ「プラネタリウムフライト」を実施しました。さらに、国内で先駆的に客室内へのペット同伴を検討。「アレルギーが心配」という社内外の声には、空気循環や感染性に関するエビデンスを丁寧に説明し合意形成を重ね、実現しました。
「大企業では通りにくいことでも、必要だと思えばやる」。20周年プロジェクトの責任者を新入社員が担うなど、“手を挙げた人に任せる”というのもスターフライヤーならではの風土なのです。

理念が生きる現場。社員の“好き”が生むホスピタリティ


「私たちの強みはホスピタリティのレベル」。南さんは胸を張って言い切ります。

では、なぜそのレベルが保たれるのか——。「会社やブランドを好きな社員が多く、企業理念が浸透していることが最大の理由だと思います」。

専門職の採用は全国から募集しており中途入社も多いですが、根っこで共鳴する価値観が組織の行動を支えています。

一方で、「コストをかけているのに、LCCと誤認されることがあります」と、南さん。スターフライヤーは低コストキャリアではなく、「上質さと適正価格の両立」を追及してきました。運賃は手の届く価格でありながら、革張りの座席や落ち着いた照明、心に残る接客など、上質な体験を誰もが享受できる設計にこだわっています。それは、移動を単なる移動ではなく、“心を動かす時間”に変えるという思いの表れです。

航路のデジタル時代に“心の通うホスピタリティ”が価値になる

「AIやデジタル化が進むほど、おもてなしの価値は上がると思います」。 南さんは、未来の航空サービスをそう見ています。

テクノロジーが進化しても、最後に人を動かすのは心。だからこそ、“人の心”がスターフライヤーの原動力になります。

南さんに、そんな会社に求める人物像を尋ねると、その答えは明快でした。

「企業理念に共感し、心を大切にできる人」。

 同時に、企業として利益を生み、三方よしを実現する視点も欠かせません。
南さんは「柔軟でおおらかな経営の背中を見て、『この会社がいい』と思ってもらえると信じています」と、語ります。
 

黒い翼が運ぶもの

「私たちは単に移動をお手伝いするだけでなく、お客さまのお気持ちまで大切にお運びしたい」。南さんのこの一言に、同社の信念が凝縮されています。デジタルの時代にあっても、最後に人を動かすのは人の心。そのあたりまえを、黒い翼は今日も確かに守り続けています。

※写真はすべて株式会社スターフライヤー提供

最も印象に残った言葉
「私たちは単に移動をお手伝いするだけでなく、お客様のお気持ちまで大切にお運びしたい」

企業情報

会社名:株式会社スターフライヤー
取材対象者:取締役執行役員 南聡子さん
設立年月:2002年12月17日(ライト兄弟フライヤー号初飛行から100年目)
企業理念:私たちは、安全運航のもと、人とその心を大切に、個性、創造性、ホスピタリティをもって、『感動のあるエアライン』であり続けます。
住所:〒800-0306 福岡県北九州市小倉南区空港北町6番 北九州空港スターフライヤー本社ビル
URL:https://www.starflyer.jp/

天野崇子

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