バスと電車と足で行くひろしま山日記 第80回【遠征編】有馬富士(兵庫県三田市)
放送中のNHK大河ドラマ「光る君へ」は、平安時代に世界最古の女性による長編小説といわれる「源氏物語」を著した紫式部の生涯をテーマにしている。これまでの放送にも藤原道長や清少納言ら歴史上の著名な人物も登場している。序盤の10~11回では紫式部の父・藤原為時が仕えていた花山(かざん)天皇が退位に追い込まれ、為時が官職を失って苦境に陥る状況が描かれていた。わずか2年弱の在位だった花山天皇が退位後に法皇として隠棲したのが現在の兵庫県三田市だ。和歌の名手としても知られた花山法皇(花山院)が、その秀麗な姿を詠んだのが有馬富士(373.9メートル)。梅雨入り前の好天の休日、関西に寄った機会にハイキングを兼ねて足を伸ばしてみた。
▼今回利用した交通機関
行き)JR宝塚線(おとな片道680円)/尼崎(11:14)→(11:58)新三田(尼崎駅までのルートは省略)
帰り)JR宝塚線(おとな片道680円)/新三田(15:05)→(15:59)尼崎(尼崎駅からのルートは省略)
田園風景の中の駅からスタート
尼崎駅からJR宝塚線の区間快速に乗車すること約40分、新三田駅に到着。南を神戸市と宝塚市に接する三田市は、ニュータウン開発が進んだ1980年代から90年代にかけて人口増加率日本一になったこともある。関西学院大学の三田キャンパスもあるが、近年は人口減少や高齢化も進む。新三田駅周辺は商業施設のほか、緑豊かな田園風景が広がっている。
目指す有馬富士一帯は有馬富士公園(https://www.hyogo-park.or.jp/arimafuji/)として整備されている。公園入口には車やバスで行くのが一般的なようだが、登山アプリYAMAPには徒歩ルートも表示されているので歩いていくことにした。
改札を出て駅前の案内板でルートを確認してスタート。線路の下をくぐり、国道176号沿いを少し北上した後、信号交差点を東に向かう。公園に通じるハイキングロードの入り口だ。集落を抜けた後、大池川沿いを歩く道は緩やかな上り。途中から緑に覆われた林間の道になり、快適に歩ける。駅から約2キロ、約30分で麓の福島大池に着いた。
花山院ゆかりの地へ
福島大池の堤の右手には巨大な岩盤が広がっている。火成岩の流紋岩だそうだ。池から流れ出た水が岩盤を伝って大池川につながっている。左手の福島大池の向こうに円錐形の有馬富士が立ち上がり、湖面には山の姿が映っている。公園ホームページの「出合いのゾーンマップ」にはビューポイントとして紹介されているが、まさに絵になる風景だ。
一帯は11月から12月にかけての早朝に雲海に覆われることがあり、有馬富士が雲海から島のように浮かんでいる景色を見ることができるという。花山院の和歌はそんな風景を詠んだのだろう。
有馬富士 麓の霧は海に似て 波かと聞けば 小野の松風
ただ、この池のあたりは雲海が出現すると霧の中に没してしまうので、ここからの風景ではあるまい。有馬富士の北北東約2キロ、花山院が晩年を過ごしたとされ、その菩提を祈る真言宗の古刹「花山院菩提寺」(https://www.kazanin.jp/)の立つ菩提山(421メートル)から見下ろした景色だと思う。同寺のHPに掲載されている雲海の写真は、まさに歌の世界そのままだった。
福島大池を半周して有馬富士へ
有馬富士の登山ルートは複数あるが、正面(南)からの登山口に向かう。池の周囲は整備された遊歩道が巡らされており、エリアごとに水辺や林、草地などの生態圏をテーマにした園地になっている。草地の生態圏には、白い花穂を伸ばしたチガヤが群生していた。綿毛のようで、万葉集にも詠われている。
池を半周したあたりで遊歩道を離れ、「有馬富士登山道」の標識に従って上り始める。途中、舗装された園路を経て標高240メートル付近から山頂に向けて真っすぐ上る本格的な山道に。「1合目」「2合目」と目安の看板があるのは親切だ。歩きやすい林間の道で、「森林浴の道」の標識も立っていた。
「わんぱく砦」と山頂下のビューポイント
山頂が近付いてくると次第に傾斜が急になる。330メートル地点に「わんぱく砦」の看板。名前はコミカルだが、実際は岩場の急登だ。滑らないよう両手両足を使って上っていく。六甲山(https://hread.home-tv.co.jp/post-166096/)のロックガーデンを思い出した。
距離的にはそれほどでもない。慎重に登ること10分で山頂に着いた。
山頂は樹木に囲まれて見晴らしは良くないのだが、南へ数メートル下ったところがビューポイント。眼下に三田の市街地や神戸市北区の住宅地、遠く六甲山系の山並みが広がる。景色を楽しみながら約30分かけてコンビニおにぎりの昼食を楽しんだ。
下山は安全な別ルートへ
さて、下山だ。距離は短いとはいえ、「わんぱく砦」を下降するのは少し危なそうだったので、北西側へ下るルートを選んだ。こちらも結構な急坂なのだが、木段が整備されているので問題はない。10分ほどで舗装路に合流し、池の西側の遊歩道を回って帰途についた。総歩行距離は7.3キロ。歴史あり、景観あり、ちょっとした冒険ありの楽しいハイキングルートだった。
2024.6.1(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》
ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」